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パソコン創世記
第2部 第5章 人ひとりのコンピュータは大型の亜流にあらず
1980 もう1人の電子少年の復活

ソフトウェアの空白を埋める共棲

富田倫生
2010/5/31

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本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 当初タイニーベーシックにテーマを絞った3冊の臨時増刊として企画された『DDJ』だったが、ウォーレンは取り扱うテーマをソフトウェアの幅広い分野に拡張して、この雑誌をソフトウェアの空白を埋める共棲の拠点として守り続けたいと考えた。

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 「我々はここからどこに向かうのか」と題した3号の巻頭言で、ウォーレンはタイニーベーシックを「何もないよりはましなもの」と限定的に位置づけ、アセンブラーやバグ修正のためのデバッガー、フロッピーディスクを使うためのオペレーティングシステム、グラフィックスや音楽のソフトウェアなど、さまざまな分野にテーマを広げて刊行を継続していく方針を明らかにした。

 ウォーレンは『DDJ』の目指すものを、「実現可能な夢」の追求であるとあらためて確認しなおした。

 実現可能な夢をより厳密に定義して、ウォーレンは「現状の技術と知識の枠内にあり、ホビイストのコミュニティのメンバーによって達成でき、今後24カ月やそこらのうちにほとんど完成できるもの」であるとした。具体的には、コンピュータミュージック、リアルタイムのビデオグラフィックス、コンピュータによる音声合成、新しいインプット技術の開拓などがあり、より野心的なテーマとしては住環境のコントロールなどにあたるホームコンピュータ、電子電話帳、バイオフィードバック、コンピュータによるアニメーション、地域の共同掲示板や共有記録簿的な使い方、ラジオ放送や電話回線を利用したコンピュータネットワーク、電子新聞などが今後の『DDJ』の課題として示された。

 こうした新しい領域への挑戦にあたって、ウォーレンは「タイニーベーシックのプロジェクトを成功させた手法を援用しよう」と呼びかけた。

 まず『DDJ』がプロジェクトの概要を示し、続いて実現に向けたより詳細な情報を提供していく。そして実際の開発には、共棲の輪の中にある1人ひとりの読者があたる。『DDJ』はあくまでコミュニケーションのためのメディアであり、知的なアジテーターとして機能する。設計や開発にあたるのはあなた方自身であり、『DDJ』はその成果を発表し、改良を働きかけていく。

 「ホビイスト、発明家、夢想家の皆さん。あなたのアイディアと作り上げたもの、抱えている問題や解決策に関して知らせてください。分け合えば分け合うほど、我々は多くを得るでしょう。実現可能なあなたの夢を知らせてください」

 ウォーレンは新生『DDJ』の目指すところを示す巻頭言を、そう締めくくった。

 ウォーレンの巻頭言の掲載された3号には、デンバー州ケープウェイのフレッド・グリーブの書いた、デンバータイニーベーシックが掲載されていた。

 入出力にはテレビタイプライター、外部記憶装置としてはカセットテープレコーダーを使った意欲的なシステムを用いて、『PCC』の呼びかけに応えて8080用に初めて書いたタイニーベーシックを、グリーブは地元のデンバー・アマチュア・コンピュータ協会に公開していた。

 編集部に送られてきたのは、これを手直ししたものだった。

 続いて4号には、ニュージャージー州ルーズベルトに住むハイスクールの3年生、エリック・ミューラーの書いたタイニーベーシックのソースリストが掲載された。

 組み立て終わったアルテアで使うために、機械語だけで書いたタイニーベーシックを、ミューラーは「まったく自分だけの(mine- all)」との意味を込めてMINOLと名付けた。

 さらに5号には、パロアルトのリチェン・ワンによるパロアルト・タイニーベーシックが掲載され、翌月号にはこれを使ってワンの書いた、宇宙戦争ゲーム、スタートレックの小型版のタイニートレックが掲載された。

 1.77Kバイトとほぼ限界に近いところまで刈り込まれながら、かなりの機能を持ち、じつに見事に仕上げられて機能拡張も容易に行えるよう配慮されたパロアルト版が届いた時点で、ウォーレンは8080用のタイニーベーシックはこれでもう充分だと考えた。なにか際だった特徴を持つものでない限り、8080用はこれ以上掲載しないと宣言したウォーレンは、すでに発表されたバージョンの機能拡張やその他のマイクロコンピュータ用のタイニーベーシック開発に勢力を振り向けてくれるよう、読者に求めた。

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