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パソコン創世記
第2部 第6章 魂の兄弟、日電版アルト開発計画に集う
1983 PC-100の早すぎた誕生と死

IBM PC/JXの挑戦を受ける

富田倫生
2010/8/23

前回「PC-9801シリーズのライバルたち」へ

本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 FM-16βに備えたこの時期、日本電気は日本IBMの〈世界標準機〉による挑戦も受けることになった。

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 かつて日本市場に初めてパーソナルコンピュータを問うにあたって、日本IBMはPCとはまったく異なる、独自のアーキテクチャを選んでいた。アメリカ市場で大成功したPCをそのまま日本語化するという道は、1つの選択肢たりえた。だが日本市場には、漢字という大きな課題があった。

 「PC-9801などの採用した16×16ドットでは略字を採用せざるをえない。だが、漢字はやはり24×24ドットで正しく表現するべきだ」

 そう考えた日本IBMは、1983(昭和58)年3月に発表した5550の開発にあたり、1024×768ドットの高解像度規格を採用した。パーソナルコンピュータとしての機能に加え、日本語ワードプロセッサや大型の端末としても利用できる1台3役を謳い文句に、オフィス用の高価格マシンとして5550を軌道に乗せた日本IBMは、次に狙いを定めた家庭市場では一転してPCシリーズとの互換路線を選んだ。

 米IBMは急成長を遂げたPCの上位機種として、ハードディスクを内蔵したXTを1983年3月に発表する一方で、同年11月、低価格版のPCジュニアをアナウンスした。同社のPCシリーズはこれにより、最上位のXTと中位のPC、そして廉価版のPCジュニアによる3本立て体制となっていた。

 日本IBMは、家庭市場をターゲットとした新機種では一転して、ジュニアを日本語化しようと考えた。

 PCシリーズ(以下PC)が16ビットの標準機としての地位を揺るぎなく固め、さまざまなアプリケーションや増設ボードがPC用につぎつぎと開発される中で、これらの資産をそのまま利用できる日本語版を用意することは、長期的な視野に立てば、日本IBMにとって実に魅力のある当然の選択だった。

 だが新機種がなぞる相手として選んだジュニアは、市場の棲み分けを狙ってPCとの互換性が制限された点が障害となって、アメリカ市場で苦闘を強いられた。

 世界標準に沿うことの可能性と、なぞったお手本の不振という相反する2つの要素を抱えた新機種は、IBM PC/JXと名付けられ、1984(昭和59)年10月に発表された★。

 ★マイクロコンピュータには5Mヘルツの8088を使い、3.5インチのドライブを採用したジュニアをベースにしたJXは、ROMのカートリッジを差し込むスロットを2つ用意している点でも本家と同様の構成をとっていた。本体の前面下部にあるこのスロットにROMカートリッジを差し込んでBIOSを切り替え、日本語と英語の両モードに対応するJXは、英語モードではジュニアのアプリケーションをそのまま走らせることができた。

 ただしハードウェアの一部には、独自の仕様に改められている点もあった。アメリカで批判の集中したキーボードが品質の高いものに替えられていたほか、増設ボードのコネクターが変更されていた。このためせっかく世界標準に沿ったはずのJXは、ジュニア用のボードを組み込むことができないという中途半端な互換性しか提供できなかった。

 結局のところ、アメリカのソフトウェアを引き込む受け皿となりえたはずのJXは、ジュニアが惨敗を強いられる中で、せっかくの日英バイリンガルマシンとしての性格を生かせなかった。純粋に日本のパーソナルコンピュータとして限定して見れば、JXは8088という時代遅れのマイクロコンピュータにこだわった、安いだけのマシンと受け取られかねなかった。

 ディスクなしの最小構成で14万5000円。ディスク2台、128KバイトのRAMで28万5000円という価格にのみ対応する必要を感じた浜田は、JXの発表の直後から製品寿命を終えかかったPC-9801Fの仕切り値を大幅に下げて店頭の実勢価格を低めに誘導することで、日本IBMの出鼻をくじけると考えた。

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