第2部 第6章 魂の兄弟、日電版アルト開発計画に集う |
1983 PC-100の早すぎた誕生と死 |
マッキントッシュとページメーカー
富田倫生
2010/8/31
本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部) |
本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など |
PC-100の発表の3カ月後、アップルが発表したマッキントッシュは、当初、目標をはるかに下回る販売台数の低迷に苦しめられた。
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リサの流れを汲んだマックのGUIは、斬新なイメージを打ち出していた。一体型の小さなマシンのデザインには、顔を合わせるたびに挨拶を送りたくなるような愛らしさがあった。リサの9995ドルに比較すれば、2495ドルという価格も常識的だった。
だがこのマシンには、容量400Kバイトの3.5インチドライブが1台組み込まれているだけで、メモリも128Kバイトしか内蔵されていなかった。ディスクをコピーしようとすれば、1台しかないドライブ相手に、マシンの指示に従って黙々とディスクの抜き差しを繰り返さざるをえなかった。IBM PC用にたくさんのアプリケーションが用意されている中で、マッキントッシュで使えたのはバンドルされたマックペイントとマックライトを除けば、マイクロソフトのマルチプランだけだった。
ゼロックスからアタリを経て、アップルフェローと呼ばれる顧問的な扱いでアップルに引き抜かれていたアラン・ケイは、初めての仕事としてマッキントッシュを評価することを求められた。
彼はペプシコ社から移籍して社長となっていたジョン・スカリーあてのメモで、「1リットルのガソリンタンクしか持たないホンダ」とマックを評した。このマシンが自分自身の打ち立てたビジョンを汲んだ、「初めての批判に値するコンピュータ」であることをケイは認めたが、128Kバイトのメモリと400Kバイトのドライブ1台で市場に送り出されたことには、あくまで批判的だった。
メモリの必要量を増大させるグラフィックスの世界に踏み込みながら、RAMとドライブの容量を充分用意できなかった点は、PC-100とマッキントッシュに共通する欠陥だった。
だがアップルの未来を一身にになったマックには、問題点に対処した後継機や上位バージョンを発表するチャンスが与えられた。
そしてダイナデスクが目指したデスクトップパブリッシングが、マッキントッシュの突破口を開く役割を演じることになった。
編集者を経て、出版のコンピュータ化に携わっていたポール・ブレイナードは、マックの発表と前後して、所属していたソフトウェア会社の部門の廃止によって職を失った。仲間だった技術者4人に声をかけて、自らひねり出したデスクトップパブリッシングという新語を旗印にアルダス社を起こしたブレイナードは、ターゲットマシンにマックを選んだ。グラフィックスをベースとしてプリントアウトと同じイメージを画面に表示できるという特長は、デスクトップパブリッシングを実現していくうえで欠かすことのできない要素だった。
ブレイナードにとっての幸運は、アップルが印刷機に迫るほどの美しいプリントアウトを提供するレーザー方式の高性能プリンタを、マッキントッシュ用に開発していたことだった。1985年2月にレーザーライターの名称で発表されたこの製品は、アルダスが開発中のページメーカーと名付けられたソフトウェアの足下を固める役割を演じた。
この年の7月に出荷開始となったページメーカーは、マックにとってのビジカルクとなった。
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