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パソコン創世記
第2部 エピローグ 魂の兄弟、再び集う
1983 Windowsの約束が果たされた日

ハードウェアからソフトウェアへ

富田倫生
2010/9/6

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本連載を初めて読む人へ:先行き不透明な時代をITエンジニアとして生き抜くためには、何が必要なのでしょうか。それを学ぶ1つの手段として、わたしたちはIT業界で活躍してきた人々の偉業を知ることが有効だと考えます。本連載では、日本のパソコン業界黎明期に活躍したさまざまなヒーローを取り上げています。普段は触れる機会の少ない日本のIT業界の歴史を知り、より誇りを持って仕事に取り組む一助としていただければ幸いです。(編集部)

本連載は『パソコン創世記』の著者である富田倫生氏の許可を得て公開しています。「青空文庫」版のテキストファイル(2003年1月16日最終更新)が底本です。「青空文庫収録ファイルの取り扱い規準」に則り、表記の一部を@ITの校正ルールに沿って直しています。例)全角英数字⇒半角英数字、コンピューター⇒コンピュータ など

 大内淳義から水野幸男への交代はもう一方で、社内の競争を勝ち残った情報処理事業グループの体制をも大きく揺るがした。

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 東京工業大学工学部で応用数学を専攻し、1953(昭和28)年の日本電気入社以来、大型コンピュータの基本ソフト一筋にキャリアを積み重ねてきた水野は、コンピュータの価値の源泉がハードウェアからソフトウェアへと移行してきたことを強く意識していた。

 「まず目的にかなったアプリケーションを探し、それからそのソフトウェアが走るハードを見つけてくる」

 時代はこうした流れに向かうだろうとの認識を持っていた水野は、より幅広いアプリケーションを使えるようにするために、複数のOSを切り替えて使うことがパーソナルコンピュータでも当然になると読んでいた。こうしたマルチOS環境を用意することが、日本電気にとってもっとも大きな課題となると考えた水野は、この分野を最大の収入の源泉とするべきだろうと踏んだ。

 さらに水野は、パーソナルコンピュータは今後大型コンピュータと連携して使われるようになり、大型を持っているメーカーこそがこの分野の市場をも制するようになると読んでいた。

 大型とパーソナルコンピュータのOSに連携機能を持たせ、そのメリットを表に立ててOSを売り込んでいく――。そう考えていた水野にとって、いかにマーケティング上の手法とはいえ、OSを無償でサードパーティーにライセンスしてアプリケーションのおまけ扱いする行為は、時代に逆行しているとしか思えなかった。加えて水野は、じっくりと話し合う機会を持ったゲアリー・キルドールに、ソフトウェア技術者としての共感を覚えていた。

 渡辺との激しいつばぜり合いの末にPC-9801を立ち上げた浜田俊三は、PC-9801のアーキテクチャを完成させるVM★の発表の直前、1985(昭和60)年7月にVAN販売推進本部本部長に異動となった。

 ★1985(昭和60)年7月に発表されたVMシリーズでは、Mで課題として積み残された、ドライブの640Kバイト/1Mバイトの両用化が実現した。メモリも標準で384Kバイトが標準装備され、MS-DOSマシンとしてのPC-9801はこの機種でアーキテクチャの完成を見た。

 当時情報処理事業グループは、8086を機能拡張し、高速化した日本電気製のV30をPC-9801シリーズに採用するよう、半導体部門から要請を受けていた。同年5月に小型化を狙って発表していたU2に続いて、VMにはV30が採用された。ただし浜田には、高速化した8086以上のものとしてV30を使う気持ちはなかった。アプリケーションがV30の拡張命令を使うことによって、互換性に問題が生じることを恐れた浜田は、ソフトハウスが固有の命令を使わないよう働きかける旨、早水に指示した。浜田はこの指示を置きみやげに、VMの発表会にも臨むことなくパーソナルコンピュータ事業の表舞台から去った。大半のソフトハウスは、日本電気の方向付けに従ってV30の拡張命令を使用しなかったが例外もあった。その後、インテルの本線に戻って80286を採用して以降、PC-9801は互換性の確保のために、V30をあわせて搭載するという道を長く選ばざるをえなかった。

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