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幸せなITエンジニアを目指すためのヒント

第3回 「人をどう動かすか」より「私はどう導きたいか」

テイクウェーブ 竹内義晴
2008/3/13

相手に自分で考えてもらうには

 あなたがリーダーの立場になって、メンバーの成長を望むとき、「自分で考えて行動できるようになってほしい」と思うかもしれません。現代はそのような人材が望まれているといいますね。さて、どのようにしたら「自分で考える人材」が育つのでしょう?

 あなたがチームを率いているなら、「○○さん、これはどのようにしたらいいですか?」とメンバーに質問されたことがあるでしょう。私もよく質問されていました。質問されたら答えることが上司の仕事だと思っていましたので、質問に対して「それは○○だ」とか「こっちの方がいい」とアドバイスしていました。

 ところが、ある日気が付きました。「こちらから答えを提供するだけじゃ、相手は自分で考えるようにならないよな……」。自分で考えて動いてほしいとずっと思いながら、自分で考えられないメンバーを育てていたのかもしれないと。

 それからは、質問されたら「あなたはどうしたいの?」と相手にいってみることにしました。それを続けることで、相手は自分で考えて「○○だと思います」と相手なりの答えを出してくれるようになり、しまいには質問している途中で気が付いて「自分で考えなきゃいけないんですよね」と笑いながらいうようになりました。「よく育ってくれたな」と、本当にうれしかったです。

 相手に自分で考えて行動することを望んでいるなら、質問されたときに相手にいってみてください。「あなたはどうしたいの?」「どうしたらいいと思う?」と。

アドバイスは選択肢を提供するように

 でも、相手に経験が少なければ、アドバイスが必要なときもあるでしょう。

 「それは違う」「AよりBの方がいい」のようにアドバイスしていませんか? これでは、相手の意見を否定することになってしまいます。

 相手が一生懸命出した答えかもしれません。否定せずに、「さらに○○もいいね」というような「選択肢を増やす」アドバイスの仕方をするといいでしょう。

 「なるほど、確かにそれも1つの案だね。さらに加えるなら、△△の方法もいいかもしれないよ」。このような感じです。

 相手の意見をいったん受け入れてから自分の意見を加えると、相手は否定された感じを抱かずに、アドバイスを受け入れてくれることでしょう。

褒めるときは相手自身を

 私たちは、普段は褒められることがあまりありません。けれども、誰でも褒められたらうれしいですし、やる気も出てくるものです。あまり方法を気にすることなく、1つでもいいところを見つけて褒めてあげてください。

 このような話をすると、「私のメンバーは、まったく褒めるところがないんです」という人がいます。本当ですか? まったく、何ひとつありませんか?

 褒めるときは、「その人自身」を対象にするといいでしょう。例えばネクタイを褒めるとしたら、「そのネクタイすてきですね」よりも「○○さんのネクタイ、センスがいいですね」というように、ネクタイよりもそれを選んだその人のセンスを褒めると、より相手に伝わりやすくなります。

 仕事の成果ならば、「この報告書はいいな」よりも「報告書の書き方、ずいぶんとうまくなったな」のように、報告書よりも報告書の書き方がうまくなったその人の努力を認めるほめ方をするといいでしょう。

 最初はちょっと恥ずかしいです。けれども、とても効果があるんですよ。相手の表情を見ていれば、その効果はよく分かります。

しかるときは相手の行動を

 褒めて伸ばすといいますが、時には指導をする必要も出てくるでしょう。相手をしかるのは、しかる方もしかられる方も気持ちがよくないものです。しかることによって人間関係が壊れないか、相手が自分に嫌な感情を抱かないかなど、しかるときはとにかく気を使います。けれども、特にお客さまに対する礼儀などは、キチンと指導する必要があるでしょう。

 いまからしかり方の事例を2つ挙げますので、どちらの方がいわれた感じがいいか考えてみてください。

 1つ目は、

「前にもいったのに、何で(あなたは)分からないの?」
「いつも(あなたは)遅刻してくるね」

 2つ目は、

「(あなたの)メモを取らないことはよくないよ」
「(あなたの)遅刻はよくないよ」

 この2つの違いは何でしょうか? 1つ目は「相手」をしかりました。2つ目は「行動」をしかりました。「あなた」をしかると人格の否定になりますが、「あなたの行動」をしかるのは人格否定ではないので、嫌な感じは少ないことにお気付きでしょう。

 私は自分の子どもをしかるときによく使っています。うそをついたときは、「何でお前はうそばかりつくんだ」とはいわずに、「○○ちゃんのことは好きだけど、うそをつくのはよくないよ」といっています。

メールでしかるときの注意

 しかるとき、本人に直接はいいづらいのか、メールを使う人をよく見掛けます。私もメールで指摘されたことがあります。

 「竹内さんは自分のことしか考えていません。もっとユーザーのことを考えて仕様を詰めてください。私ならこのようにします。

1.……
2.……」

 「ふざけんなぁ〜」でした。あまりにも頭にきたので、全部読む前に削除してしまったほど(笑)。

 人が相手から受け取る情報のうち、言語情報は全体の7%などという話を聞いたことがあるかもしれません。細かい数字はさておき、相手とコミュニケーションするとき、私たちは言葉だけでなく表情やしぐさなど、多くの情報から理解しようとします。言語情報だけでネガティブなことを書くと、とてもとてもきつく感じますので、しかるときはできるだけメールは避けて、1対1で向かい合ってしかるのがいいでしょう。

 距離が離れていて、どうしてもメールでしからなければいけないこともあるかもしれません。そんなときは、プラス言葉(ねぎらい)、マイナス言葉(指導)、プラス言葉(今後の期待)などとして、最後はプラス言葉で終わるようにするといいでしょう。

 「いつもあなたの活躍に感謝しています(ねぎらい)。今回のお客さまへの対応はもう少し考えた方がいいでしょう(指導)。これからも期待しています(今後の期待)」という感じです。プラス、マイナス、プラスで、「メールでしかるときはPMP」と覚えてください。

ちょっとしたアイテムも効果的

 ちょっとしたアイテムを使って相手と交流を図ると、チームの和が保てます。誕生日に小さなお菓子をラッピングして、「いつもありがとう」と書いたカードと併せてプレゼントしたり、お店のスタンプカードのようなものを作って、何かいいことをしたらスタンプを押し、全部たまったらお昼をごちそうしたりするなどです。

 私はチームメンバーの誕生日には、100円のお菓子やチョコを自分でラッピングして、カードとともにプレゼントしていました。多くの人が「うれしかった」といってくれましたし、驚いている顔を見るのがとても楽しく、贈る私もいい気分になれました。

大切なのは、「やり方」より「あり方」

 今回は「人間関係が変わるコミュニケーション術」というテーマでお話ししてきました。

 最後に、最も重要なことをお伝えしようと思います。

 私たちの周囲には、「○○を思いどおりに動かす」とか、「○○の場合は△△という」などのいろいろな本があります。けれども私は、それらで一時はうまくいくかもしれませんが、いずれうまくいかなくなるのではと考えています。

 自分がされたときのことを考えれば簡単です。「こう動かしてやろう」と思われて行動されたら、きっとあなたは嫌な感じがするでしょう?

 相手のことを考えず、自分の都合で動かそうとすれば、相手はそれを感じます。人間、表面的な言葉でコントロールされるほどバカじゃありません。

 私も過去にそういう方法論にはまって、実際にいろんなノウハウを試しました。うまくいったこともありましたが、人間関係を壊してしまったこともありました。このことに気が付いてから、「組織を思いどおりに動かしたい」ではなく、「私はチームのメンバーにどうかかわれるか?」「メンバーが楽しく幸せに働くにはリーダーはどうあるべきか?」を考えるようになりました。そして相手が喜ぶようなことをしたり、相手の悩みを聴いたりしていくうちに、相手が変わり、結果的に自分のためになっていることに気が付きました。

 スキルや手法、ノウハウも大切ですが、もっと大切なことは「いかに相手のことを考えられるか?」です。それさえ知っていれば、「○○の場合は△△という」のような表面的な方法は、あまり必要ないのかもしれませんね。

 うまくいかないとき、多くの人は「やり方」を変えることが重要だといいます。けれども、実は「やり方」よりも「あり方」を変えることが、短期間で大きな変化をもたらす秘けつです。

 「どうやったら、チームは動くのか?」もいいですが、「私はリーダーとしてどうありたいのか?」「私は、チームをどう導きたいのか?」「私は、メンバーにどう育ってもらいたいのか?」……「やり方」に加えて、「あり方」も考えてみてください。


今回のインデックス
私もOK、相手もOK。まずは相手を受け入れてみる
自分がよい聴き手」になれば、相手も話を聴いてくれる
「どう動かすか」だけでなく、「どう導くか」を考えてみる

筆者プロフィール
テイクウェーブ 代表 竹内義晴●システムエンジニアとしてさまざまな規模の開発を経験した後、心理学のトレーナーになるという異色の経歴を持つ。現在は人材育成を中心としたパーソナルコーチングや組織活性化のための企業研修を行う。「技術命」のエンジニアとしての経験と、脳機能の理論から生まれた独自の視点でマネジメントの楽しさを伝えている。そのほか、夢を持って人生を切り開く方法やモチベーションアップ法などをメールマガジンやWebサイトで無料提供中。ITコーディネータ・生涯学習開発財団認定コーチ・NLP(神経言語プログラミング)トレーナー。
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