第1回 ぼくは「引っ張らないリーダー」です
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
神田喜和(撮影)
2009/2/2
吉村譲 (よしむらじょう) チームラボ 取締役 兼 最高開発責任者 1977年6月13日、徳島市出身。東京工業大学大学院修士課程中退。2000年12月、チームラボ創業、取締役に就任。ガンダム好きでロボット好き。子どものころ、NHKの「ロボコン」を見て衝撃を受け、東京工業大学に進学して2足ロボットの開発を研究。大学4年の2000年3月ごろ、幼なじみの猪子寿之氏(チームラボ 代表取締役社長)ら3人でレコメンデーションエンジン「セレクトウェア」(現在の「チームラボレコメンデーション」)の開発を始める。 |
■引っ張るのではなくガイドする
「リーダー」には2つパターンがあると思っています。ぎゅっと引っ張るパターンと、ガイドするパターン。ぼくがすごく意識しているのは、後者。
分かりやすい例でいうと、自動車競技のラリーです。ラリー選手には運転手と、ナビゲーターと呼ばれるガイド役がいます。ガイド役が地図を見て、次の角右ね、左ね、といって運転手を導く。リーダーってそういう役割じゃないかと思っています。
情報産業以外の産業では、比較的「引っ張る」リーダーが多かったんじゃないかと思うんですよ。長年経験のある人が、何でも知っていて、みんなを引っ張るというのが成り立つ。
ぼくらの産業はそうではない。高校生の方がよほど知っているということがあるんです。いろいろな技術が出てくるから、ゼネラリストは生まれづらくて、どうしても部分部分を知っているスペシャリストの集団になっていく。引っ張るリーダーになるには、全部を知ってなきゃいけないと思うんですね。それには限界があります。
全部を知って引っ張るのではなく、ガイドすること。スペシャリストの集団が情報交換しやすい、モノを作りやすい環境をつくってあげること。それがリーダーの仕事なんだろうと思っています。
ラリーで面白いのは、優勝してもスゴイって褒められるのは運転手だけであること。ガイド役って絶対褒められないんですよ。リーダーはそういうポジションだと思うんですよね。それを、世の中は勘違いしているから良くない。成功したときに褒められるのは開発者、圧倒的にそうであるべき。リーダーは縁の下の力持ちですから、表に出なくていいんですよ。って、めちゃくちゃ思う。
■情報共有は「壁パス」+「自分はこう思う」
だからぼくが心掛けていることは、情報共有。「自分にインプットされた情報をかみ砕いてみんなにアウトプット」ではなくて、「壁パス」。入ってきた情報をそのまま壁パスしたうえで、「自分はこう思う」という話をするようにしています。
全部知っているわけではない自分が判断すると、入ってきた情報がゆがむじゃないですか。だから壁パスして、そのまま情報共有したうえで、自分はこう思う、ほかの人たちはどう思うんだ、という物事の決定の仕方をするように心掛けています。
自分がガリガリ書いていたころのことを思い出すと、技術的なことをよく分かっていない人に指示されるのがすごく嫌でした。
それは絶対に避けたいなと思っているので、極力みんなの意見を聞きます。例えばお客さんからむちゃな要望をいわれたら、「お客さんからむちゃな要望をいわれてる」とみんなに伝え、じゃどこならできるというリアルな話を聞いて、何をすべきかを組み立てるという方法を取りますね。
■100人をマネジメント。それまでのやり方が最初の3日で破綻
引っ張らないリーダーになったきっかけがあります。2006年の頭ぐらいに、それまでに経験のないような、超大規模な開発のマネージャを担当したんですよ(ニュースサイト「イザ!」の開発時)。それまではせいぜい20人くらいだったのが、一気に100人以上をマネジメントすることになりました。そのとき、いままでの自分の考え方とかやり方が、最初の3日で破綻(はたん)したんですね。見事に破綻した。面白かったー。
全部を見ようとしたんですよ。全部を見ようとして、もう見られなくなった。人の名前を覚えるのがぎりぎりでした。
10人や20人なら、全員と話をして情報をまとめることができた。100人いたら無理ですよね。その瞬間、引っ張らないこと、ガイド役に徹することを学んだのかもしれません。うまくコミュニケーションを取って情報共有して、任せるしかないんだと。そこでぼくの考え方のブレイクスルーは起きました。あれがぼくの転機ですね。
■楽しいテンションで作ったアウトプットは楽しい
唯一引っ張る必要があるものは、気持ちだと思うんですよね。テンションと気迫です。テンションと気迫は引っ張る、雰囲気だけ引っ張る、ということにすごく気を付けています。
テンションと気迫って、ものすごくメンバーに伝わるんです。例えばぼくがプロジェクトマネージャをしていて、楽しい気分じゃなければそれが伝わるし、ぼくが絶対やり遂げるんだって気迫を出していかないと、みんなが漫然としちゃう。そういう部分では引っ張らなきゃいけないと思っています。
アウトプットはテンションにリンクするんですよ。楽しいテンションで作ったアウトプットって楽しいんですね。面白いものができる。ただ漫然と作業としてやっちゃうと、楽しいものってできないんです。
そういう意味もあって、楽しい開発現場であり続けたいなっていうのは意識しています。
■みんながずっと笑顔で開発できる環境をプロデュースしたい
エンジニアっていうのはモノ作りが好きですよね。自分の作ったものが動くことが快感だったり気持ち良かったりすると思うんですよ。ぼくもそれはあるんですけれど。
ただ、ぼくにはより上位の気持ち良さがあります。それは何かというと、みんなの笑顔を見て、その結果いいものができること。
一緒に働いているみんなが、時にはしんどい顔もするけれど、笑顔で仕事して、楽しく開発していいものができて、社会およびお客さまに喜ばれる。そのプロセスが楽しいんですよ。その一員でいられるためなら、何があっても平気。くやしいことも苦しいこともあるけれど、だからこそ楽しいことがあるわけだから。
しんどいことはめちゃくちゃありますよ。みんな泣きそうなこともいっぱいあります。でもどこまで実現できているかはさておき、理想として、みんながずっと笑顔でね、徹夜しててもなぜか笑顔とか、もう最高じゃないですか。
そんな環境をプロデュースできるようなガイド役になれれば、すごくうれしいですね。
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