第2回 「プログラマの自分」と「経営者の自分」は矛盾しない
岑康貴(@IT自分戦略研究所)
赤司聡(撮影)
2009/2/9
倉貫義人 (くらぬきよしひと) SonicGarden(TIS社内ベンチャー) リーダー 1974年5月1日、京都府出身。立命館大学大学院卒業。TISにて社内SNS「SKIP」の開発とオープンソース化を行い、2008年11月にSKIPに関する事業を行う社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げる。一方で、eXtreme Programmingというアジャイル開発の研究・実践を行い、XP日本ユーザグループの代表も務めている。 |
■プログラマ兼経営者
わたしの中で、「プログラマであること」と「経営者であること」は、それほど大きく離れたものではありません。
学生のころから起業に興味を持っていました。ただし、それは「どんな事業でもいいからやりたい」という意味ではありません。もともとプログラミングが好きで、ソフトウェア開発に従事していきたいという強い思いがあります。わたしがやりたいのは「ソフトウェア開発にかかわる事業」。
プログラマからリーダーやマネージャになるに連れて、裁量は増えていきますが、同時に「縛り」も増えていきます。自分の思いどおりの厨房を作って、自分の思いどおりの料理を提供したいと考えると、一番の近道は「経営者になること」なわけです。
プログラミングが好きです。それはただ単にプログラミングが好きだというだけではなく、「作ったものを使ってもらうこと」が好きなのです。それを突き詰めていくと、「自分が作ったものを商品として世の中に広めていくこと」につながっていきます。自分で事業をしていれば、自分で広められるし、ダイレクトに反応を得ることができます。
幸いなことに、TISの社内SNSとしてスタートしたSKIPをオープンソース化することができ、それをTISが事業として展開すると決断しました。オープンソースソフトウェアを活用したSaaSビジネスという形態は従来のTISの事業とはまったく異なるものだったので、新しい組織としてSonicGardenを社内ベンチャーとして立ち上げることになったんです。
実は、SKIPによる起業はオープンソース化のころから考えていたこと。新規事業を行いたい、起業したいと考えていたわたしにとって、この流れは「計画どおり!」といったところですね。
■マネージャは「人」や「モノ」をマネジメントする
マネージャは「数字を見ないといけない」という部分があります。計画を立てて、進ちょくを見て、数字を見て……と、1日の半分くらいを、エクセルの表を見て過ごすことになってしまいかねません。
表で管理していると、意識が「数字を見る」ことに集中してしまいます。でも、それって良くないんです。その先に作っている人がいるし、作っているモノがあるわけです。システムエンジニアが1人月いくらです、という数字ばかり見ていると、人やモノが見えなくなっちゃう。
「マネジメントする」といったときに「何をマネジメントするのか」と考えると、数字をマネジメントするんじゃなくて、人やモノをマネジメントしなくちゃいけない。ここは常に意識するようにしていますね。
■XPが「マネージャとしての教科書」
プログラマ出身のわたしが初めてマネージャやリーダーをやらなければならない、となったとき、どうすればいいのか、とても迷いました。入社して3年目くらいのときです。それまでJavaの勉強はしていても、人の管理の仕方なんて勉強したことがありませんでしたから。どうすればいいんだろう、と。
そのときに参考書として使ったのが、わたしの1つの側面である「XP(eXtreme Programming)」の本でした。XPやアジャイル開発が、わたしにとっての「マネージャとしての教科書」なんです。
例えば「人を見る」ということ。XPでは「定期的に振り返りをする」という考え方が存在します。進ちょくが遅れていれば、「なぜ遅れているのか」を本人たちから聞いて、一緒に改善案を考えていく。数字ではなく人を見るとは、そういう意味です。
■「自分1人で」と考えていた若き日
「自分はリーダーやマネージャの仕事が、意外と嫌いじゃないんだな」ということに、実際になってみて初めて気が付きました。若いうちは、「自分1人で作った方が早いんじゃないか」なんてことを考えていたり。若気の至りで。自尊心のカタマリでしたね。学生のころから起業に興味があった、といいましたが、当時は「1人でフリーランスになればいいかな」という考え方でした。プログラム1本でやっていけばいいんじゃないの、と。
ところが、実際にリーダーやマネージャになって、若手と一緒にチームとして動くと、彼らが成長してくれたり、完成したときの喜びを一緒に味わえたり……という経験は、1人でやっていたら得られない感動があるなと気付かされました。
この経験を通じて、起業したいという言葉が「組織をつくって、みんなの分の収益を上げて」という意味合いに変化しました。
■30代で経営を経験する
将来は完全に独立して、自分の会社を持ちたいと考えています。これが5年くらい先のビジョン。その先はいろいろな道があるとは思いますが、そのうちの1つとして「TISの経営に参与したい」と思っています。
いまのTISの経営陣は、ずっと現場でプログラムを作っていたところから、マネージャをやって、部門長をやって、事業部長をやって……と上がっていった人たち。現場の経験を生かした経営ですね。
しかしこれから先、TISがさらに大きくなっていくには、経営のプロフェッショナルが経営陣に入っていかないといけないのではないかと思います。だとしたら、30代のうちに「経営者としての経験」を積んで、経営というものを肌で感じたうえで戻ってくれば、TISの経営に貢献できるのではないかと。
10年後か15年後か分かりませんが、わたしがTISの社長になっていたとします。すると、「XP日本ユーザグループの元代表がTISの社長」ということになる。これ、アジャイル界にとって、とても良いことじゃないですか。
XPやアジャイルが元気がない、なんていわれていますが、その中心人物がIT/SI業界で実績を作れたら、いろんな人に勇気を与えられそうだなあ、なんて思っています。
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