第4回 ライオンになれなかった雑食系リーダー
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
神田喜和(撮影)
2009/2/23
家入一真(いえいりかずま) paperboy&co.(ペーパーボーイアンドコー) 代表取締役社長 1978年12月28日、福岡県出身。福岡県立玄界高等学校中退。新聞奨学生制度によって新聞配達をしながら芸大予備校で学ぶ。その後デザイン事務所勤務、システム会社勤務を経て、2001年10月paperboy&co.の前身である合資会社マダメ企画を設立。2003年1月、paperboy&co.設立。 |
■「自分のクローン」から「お任せ」へ
リーダーとしての意識が芽生え始めたのは、会社に3人目の社員が入ってからでしょうか。それまでの社員は前の会社の同僚と友達で、一緒に働く仲間という感じでした。それ以降は媒体を使って募集して、面接して採用したので、3人目から「ああ、自分が育てなきゃ」というのがありました。
手探りながら面接をしてみて、入った後はぼくが手取り足取りいろいろ教えて。最初のうちは、ぼくがやっていたことをまねしてねと、1つ1つ教えていました。
社員が増えるにつれて、教え方が変わってきました。社員が少ないときは、全部ぼくのクローンって感じで、みっちり教えたんですよね。ですが結局ぼくのクローンであったらぼく以上にはならず、広がっていきません。これじゃいけないと思い始めて、いまは「よろしく」といったら知らん顔というパターンが多いです。
■社員にクリエイターとしての側面を見せる
ぼく自身がもともと作る側出身だし、いまだに作っているし、なるべく作る側にいたいと思っています。クリエイターというとおこがましいですけれど、クリエイターとしてのぼくの側面を見せていることが、社員にいい影響を与えているのかもしれません。
でも、一般的なリーダー、上に立つ人には別に技術者経験はなくていいと思うし、むしろない方がいいケースもあると思います。
経験があるために、中途半端に口を出して、現場から反発されている人はたくさんいます。中途半端に分かってしまうのが一番良くないですね。知ったかぶりをしてしまうし、中途半端に口を出したくなる。口を出すなら出すでがっつり出すべきだし、そうじゃなければ現場に任せるべきです。
■メリットを与えられないリーダーはいらない
リーダーであるということは、要するに自分の下に人がいるということですよね。リーダーとしての自分が、その人たちにどういう形でメリットを与えられるかが大事だと思います。
ぼくは「ものを作る」というところで、彼らに刺激を与えたり、教えたりしてきました。技術ができないリーダーであれば、例えばビジネスモデルを考えたり、マーケティングを教えたり。特に教えることがない人でも、部下をうまく使って成長させるなど、いろいろなパターンがありますよね。
「自分の下にいる人たちに、どういったメリットを与えてあげるか」がリーダーのスキルかなと思います。何もメリットを与えることができないリーダーは、まあ、いらないかなと。
■「社長にならなきゃ」の時代
一時期、「社長にならなきゃ!」と思っていたことがありました。東京に出てきたばかりのころ(2004年、グローバルメディアオンライン[現GMOインターネット]の連結子会社となり東京都渋谷区に移転)ですね。
福岡にいたころは、年の近い社長はいなかったし、そもそも付き合いのある社長もいなかったんですよね。ですが東京に来てグループに入ったら、熊谷(GMOインターネット 代表取締役会長兼社長 グループ代表 熊谷正寿氏)もいますし、周りに社長がたくさんいたんです。
いろいろな社長を見ていると、みんなライオンみたいな雰囲気なんです。それでぼくも肉食にならなきゃと思って、頑張ってた時期があって。本当は雑食なんですけれどね。
それまで「家入さん」とか「家入君」と呼ばれていたのを、「やめて! 社長っていって!」といったり、スーツを着てみたり。もともと社員をあまり怒れないんですけれど、怒れるようにならなきゃと、頑張って怒ってみたり。経営学の本も意識して大量に読みました。『ビジョナリー・カンパニー』とか『人を動かす』とか。
結局、望んだような姿にはなれませんでしたが、そのときの経験から、「リーダー」と「クリエイター」の側面に、いい具合にハイブリッド感が出てきたかなという気はします。
人間って、変わろうと頑張ってみて、「でもやっぱり自分ってここだよな」と戻ってくるんだけど、そのとき前とちょっと違うところにいることがあります。
それの繰り返しだと思うんですよね。頑張ってみて戻ってきて、頑張ってみて戻ってきて、その過程で少しずつ、その人の考え方なりやり方なりが変わるんだと思うし、変わらないと駄目だと思います。
なのでライオンになろうと頑張ったのも、いま思うと恥ずかしいですけど、悪いことではなかったかなと思いますね。
■「リーダー」という役職が人を変えることもある
社内では、基本的に愛される人をリーダーとして据えています。嫌われることでうまくやっているリーダーも、愛されることでうまくやっているリーダーもいますが、ぼくは愛されるリーダーがリーダーだと思っているので。けれどいままでやってきて、愛されるだけじゃ駄目だったなという部分もあるんですよ。
調和を大事にしすぎて決断できないリーダーがいます。みんなの意見を聞きすぎて、振り回されてしまうんです。
決断しないのは駄目ですね。みんなの意見を聞くのはいいけれど、最終的にその中から1つ決めて「これでいきます」というのがリーダーの役目だと思います。
ただこれは、変わろうと思えば変われる部分です。もともとリーダーに向いていて、そのままリーダーになる人もいれば、役職で変わる人もいる。「この人向いてないよね」という人がリーダーの位置にすぽっと入って、変わることもある。
ぼくなんか、会社を創立する前は、無断欠勤することもありました。「小学生じゃないんだから」って怒られた。まさかそんな人間が社長になるなんて、誰も思わないですよね。でも変わるやつは変わっていくんです。
■7割ボトムアップ、3割トップダウン
組織の運営は基本的にボトムアップでやってきて、これからもそうすると思います。ただ大事なのは、経営者として、リーダーとして譲れないことをはっきりさせること。譲れないことは「ごめん、できない」と却下します。
たまには上から「これやって」といいます。定期的にそうすることで緊張感が生まれます。うちの会社では、7割ボトムアップ、3割トップダウンくらいのバランスでうまくやっていると思います。
「ここは、自分は譲れない」っていうのを、たまに見せるといいという気がしますね。そういう細かいことが大事かなと。
■リーダーは常に寂しいもの
会社を創立して7、8年になりますが、思い返してみると、けっこう人のことで時間を使っていますね。数字をエクセルで計算したり、事業計画書を書いたりするより、人の悩みを聞いて、あっちがいっているのをこっちに伝えてっていうことをしてきたかなと。
みんな仲がいいのが一番好きなんです。誰でもそうでしょうけど。ぎすぎすしているのが嫌なんですね。あまり社内をそういう空気にしたくない。「みんなにこにこしていてほしい」と思うから、そのためにいろいろしてきたんでしょうね。
よく社員にいうんですけれど、社長社員という関係で会う前に、友達として知り合えたらどれだけよかったかと思うことがあります。社長というと、どうしても距離感を持たれてしまうから。
わーっと飲んでいるときに、みんなはわさびを食べさせ合っているのにぼくには回ってこない。そんなとき「ああ、やっぱり距離を置かれてる」と思います。リーダーは常に寂しいものです。
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