第14回 クックパッドの技術責任者が語る「3つの隠し味」
岑康貴(@IT自分戦略研究所)
赤司聡(撮影)
2009/5/11
橋本健太(はしもとけんた) クックパッド 最高技術責任者 1974年10月12日、神奈川県出身。慶応義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。同博士課程在籍中、細胞のコンピュータシミュレーションの研究を行う。2004年、クックパッドの前身であるコインに入社し、ユーザー向け有料サービス立ち上げに従事。2006年、サイト全体のリニューアルを成功させ、最高技術責任者に就任。2008年7月、クックパッドをRuby on Railsベースに全面リニューアル。 |
■リーダーの役割分担
わたしは現在、クックパッドの技術者の1人であり、同時に最高技術責任者でもあります。最高技術責任者としては2つの役割を担っています。
1つは「ユーザーメリットの追求」です。技術がユーザーのためになっているかを厳しく追求するのが仕事です。
もう1つは「技術的な方向性の決定」。クックパッドがどんな技術を採用して進んでいくかを最終的に決める立場ですね。
実は「チーム作り」や「個々の技術者のマネジメント」はわたしの仕事ではないんです。技術部門長の山岸延好がそちらの役割を担当しています。彼はわたしとは違ってエンジニアではないのですが、人を生かすということ、人のポテンシャルを引き出すということにかけては一流です。わたしの苦手な分野ですね。
クックパッドではこのように、エンジニア陣のチームリーダーの役割を彼とわたしとで分担しています。彼がチームを作り、わたしが進む方向を決める。それぞれの得意なこと、強みを生かしているわけです。「強みを生かす」というのはクックパッドの社風でもあります。
■「ユーザーの役に立つこと」が最重要
「ユーザーメリットの追求」とは何か。クックパッドは「世界で一番、生活に役立つWebサイト」を目指しています。そのため、エンジニアが作り出すものはそれに沿ったものでなければなりません。ユーザーメリットが最も重要なのです。
わたし自身、もともと「人の役に立つことがしたい」という思いを持っていましたので、この役割はわたしにとって非常に自然なことです。ですが、エンジニアというのは「やりたいこと」がたくさんあるものです。役に立たないかもしれないけれど、技術的にすごかったり、面白かったりするものを作りたい、という思いを持つエンジニアもいます。
でも、ロジカルに考えれば「やりたいことの中で、かつ役に立つことをやる」のが一番いいに決まっていますよね。ですから、エンジニアたちがユーザーメリットという目的を見失いそうなときは、話し合って方向修正を行います。エンジニアはロジカルな人が多いですから、話せば分かるわけです。
■みんなと話し合って、方向性を決める
もう1つの仕事は「技術的な方向性の決定」ですが、わたしが独断で決めるというわけではありません。原則、ボトムアップで決めます。
それぞれのエンジニアがどんなことを考えているか、今どんな技術に注目しているか、などを吸い上げて、全体の意見を最終的にまとめるのが仕事です。現在クックパッドにはわたしを含めて6人のエンジニアが在籍しているのですが、その6人とディレクターやサポートスタッフを含む技術部全員が集まって、1日かけて3年後までの方向性を話し合う、なんてこともしています。
エンジニアはそれぞれの考え方や方向性を持っています。それぞれのエンジニアとじっくり話して、いろんな方向性をまとめあげて、全体の方向性を決める。わたしはそういうやり方で進めています。
■ベストに集中する
クックパッドでは「ベストに集中する」「グッドはやらない」ということを徹底しています。そのためには、「情熱を持ってやれるか」「世界一になれるか」「もうかるか」の3つの視点が重要です。
チームのエンジニアたちがこの3つの視点を見失っていないか、3カ月ごとに山岸とわたしの2人で、それぞれのエンジニアと話し合います。また、日ごろの業務でもこの3つは常に意識するよう心掛けています。
3つの視点がすべて重なる点がベストで、2つならグッド。グッドなことはやらない選択をする、それが大事です。例えば「エンジニアはマネジメントをしないと給料が上がらない」という会社は少なくないと思いますが、そこに情熱を持って取り組めないのであれば、そういう形じゃなくても良いのではないかと思っています。
また、「もうかるか」は重要です。新しいサービスをリリースするとき、たとえそのサービスが無料であったとしても、「いくらまでならお金を払ってもらえるだろう?」と考えるようにしています。無料って、決してユーザーメリットではないと思うですよね。重要なのはお金を払ってでも使いたくなるようなものを作ることだと思います。
■自律×分散×協調
最初はクックパッドにはエンジニアがわたし1人しかいませんでした。1人だと、当たり前ですがみんなから意見をもらうこともできないし、3年後の方向性を考える暇なんてありません。明日のことしか考えられませんから。当時はその役目は社長が担っていたんです。
それに、繰り返しになりますが「ベストに集中する」のが社風ですから、1人のときもそうしていたんです。でも1人だけでベストに集中すると、本当に1つのことしかできないんですよ。
そういう意味で、クックパッドにエンジニアが増えてきたのはうれしいですね。明日より先の未来を考えることができるようになり、「テクノロジーで料理を楽しみにする」という目標に対して、いろいろなベストを同時に目指せるようになりました。もちろん、人が増えることで難しくなることも当然あります。まだ6人のチームではありますが、エンジニア各自が「自律」と「分散」と「協調」の掛け算で働けるような環境を作るのも、わたしの重要な仕事だと思っています。
今後、もっとエンジニアを増やしていきたいと考えています。10人、20人と増えていっても、いまと同じようにそれぞれのエンジニアが最大のパフォーマンスを出すことができて、なおかつ協調していくにはどうすればいいか。それが今後のわたしの課題の1つだと思っています。
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