第16回 相手を「気持ちよくだませる」リーダーになれ
岑康貴(@IT自分戦略研究所)
赤司聡(撮影)
2009/5/25
岡島幸男(おかじまゆきお) 永和システムマネジメント 事業本部 サービスプロバイディング事業部 担当部長 1971年10月6日、福井県出身。同志社大学経済学部卒。新卒で永和システムマネジメントに入社。自社製品の企画開発やWebシステムの受託開発を中心にキャリアを積み、2003年よりサービスプロバイディング事業部にてシステムインテグレーション業務を担当。現在は複数のプロジェクトチームをマネジメントし、福井と東京を往復する日々を過ごしている。ブログ「TECH-moratorium : テクモラトリアム」 |
■一匹狼の、独善的なリーダーだった
新卒で永和システムマネジメントに入り、15年目に突入しました。人の出入りが激しいIT業界では珍しい部類だと思います。これだけ1つの会社に勤め続けているというのは、誇りでもあり、同時に悩みでもあります。
若いころは、いわゆる「一匹狼」がかっこいいと思っていて、自分でもそういうスタイルを通していました。自分の技術一本で渡っていくんだ、と。
その後、20代後半くらいからサブリーダーやリーダーを任されるようになったのですが、「一匹狼」スタイルはそのままでした。好き勝手にやりたいし、人に指図されたくない。それならリーダーとして、自分で好きに決めて、自分で責任を取るのが手っ取り早いと考えたんですね。
最初はとても独善的なリーダーだったな、と思います。細かいところや「おいしい」ところなど、自分がやりたいところはすぐに手を出してしまうタイプでした。
■挫折で気付いた「誰のための仕事か」
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リーダーを任されるようになって数年たち、あるとき非常に難しいプロジェクトと出合いました。このときの挫折が、わたしにとっての大きな転機です。
そのプロジェクトはそれまでのものと毛色が違いました。それまではいわゆる受託開発が中心なので、「どう作るか」に集中すれば良かったんです。独善的なリーダーでも何とかなっていました。しかし、そのプロジェクトは「企画」と「お客さまとのやりとり」が大きな比重を占めていました。つまり、「何を作ればお客さまが満足するか」を考える必要があったんです。
わたしがやっていたことは、誰のための仕事だったのか。もちろん「お客さまのためのもの」であると頭では分かっていました。でもきっと、心の奥底では自分が作りたいものを作っていたんだと思います。その考えが覆されたのが、このときでした。
本当の意味で「お客さまのためのもの」を作らなければならない。わたし1人の独善的なスタイルでは到底、達成することができませんでした。徹夜で資料を作るなど自分自身のことで精いっぱいとなり、メンバーのことをまったくフォローできませんでした。メンバーにとっては、報われないプロジェクトだったかもしれません。
■リーダーは手を出してはいけない!
この経験で気付いたのは、「自分の能力だけでは限界がある」ということでした。自分1人では成功させられないものを、みんなの力を使って、なんとしてでも成功させる。それがリーダーの使命なんだと、ようやく実感できたのです。
大きな挫折を味わい、1カ月ほどプロジェクトを離れ、自分を見つめ直しました。その後、参加したプロジェクトの元請け会社のプロジェクトリーダーの方が非常に優秀で、リーダーとはどうあるべきかについて大きく影響を受けました。
リーダーは、常に全体を見て、プロジェクトを成功に導かなければなりません。細かいところや「おいしい」ところには原則、手を出してはいけないのです。リーダーが手を出すのは最後の手段であり、抜いてはならない「伝家の宝刀」なのです。
もちろん、いきなり性格やスタイルを変えるのは難しい。最初のうちは、やっぱり自分でやりたいところに手を出してしまっていたんです。数年かけて徐々に矯正していきました。
■夢はCTO兼CCO
30代中盤ごろに「担当部長」になりました。いくつかのプロジェクトリーダーを取りまとめる立場ですね。最初のうちは個々のプロジェクトマネージャの役割も担っていましたが、これも徐々にフェイドアウトしていきました。
正直にいうと、現場仕事への未練がまったくないわけではありません。葛藤(かっとう)はあります。でも、基本的には「管理職」を全うしようと腹をくくっています。
わたしは目の前のミッションに集中する癖があるようで、現場のエンジニア時代は、ある技術にハマると、それに集中していました。リーダーになってからは、どうやってチームやプロジェクトを回していくのか、ということに集中するようになりました。いまは、それぞれのプロジェクトが円滑に進むように、どう組織内を調整するか、ということに集中しています。「かっこいいプログラムを作りたい」というのも、「いいチームを作りたい」というのも、「いい組織を作りたい」というのも、わたしの中では似通っているといえるかもしれません。
「管理職」として腹をくくったので、今後はCTOに相当する役職に就きたいなあと考えています。もっとも、永和システムマネジメントは受託開発が中心なので、CTOという役職は存在しないのですが。
それと同時にチーフ・コミュニケーション・オフィサー(CCO)、つまり「コミュニケーション」の最高責任者になりたいとも考えています。組織で仕事をするに当たって、チーム作りや人間関係などの下地である「コミュニケーション」は非常に大切なファクターです。1つ1つはちょっとしたことかもしれませんが、その「ちょっとしたこと」の積み重ねが良いコミュニケーションを生み、良いチームや組織を作ります。組織内コミュニケーションは放っておいても良くはなりません。仕組み作りが必要なんです。いまは自分の事業部だけでやっていますが、全社的にコミュニケーションに関する取り組みを行いたいですね。
人間を相手にしたコミュニケーションは、コンピュータ相手のそれとはギャップがあります。ある入力をしても、期待した出力があるとは限りません。大変だけれど、やりがいのある仕事です。
わたしは「いい雰囲気の開発現場」が大好きなんです。議論が絶えず、いい意味でざわざわしている、そんな開発現場です。そういう開発現場が生まれる環境をつくり、優秀なエンジニアを育てていくのがいまの仕事のやりがいです。
■気持ちよくだませるリーダーになれ
これからリーダーになる若いエンジニアには、まず「自分の主義主張をしっかり持ってほしい」ですね。そのうえで、「それをうまく言語化できて、説明できる」人になってほしいです。
自分がやりたいことを貫き通すには、周りの人――例えば会社やお客さま――を説得する必要があります。自分がやりたいことは、会社やお客さまにとっても有益である、とうまく変換できる人がリーダーとして必要なのです。そういうリーダーは伸びると思いますよ。
わたしの所属している事業部の理念は「メンバーのやりたいことを支援する(ただし、ちゃんとビジネスになるものに限る)」です。やっぱり、みんながやりたいことをやってほしいんです。ですので、いい方は悪いかもしれませんが、わたしや上司、お客さまを「気持ちよくだましてほしい」ですね。
以前、この連載に出た角谷(信太郎氏)も、Rubyによる案件を「お客さまのためになる」と説明し、きちんとビジネスとして回しています。そういうリーダーがいると、開発現場はもっと楽しくなるんじゃないでしょうか。
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