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リーダー

第11回 Linuxカーネルハッカー流「自力で食える技術者」チームの育成法


金武明日香 (@IT自分戦略研究所)
赤司聡(撮影)
2010/9/6

高橋浩和氏
高橋浩和(たかはしひろかず) VA Linux Systems Japan 技術本部 本部長。北海道生まれ、北海道大学出身。VAX全盛の時代から、各種OSの設計などに取り組む。Linux Kernelハッカーとして、毎年オタワで開催される「Linux Kernel Developers Summit」に招待される。2005年度日本OSS貢献者賞受賞。「詳解Linuxカーネル」の監訳者であり、著書として「Linuxカーネル2.6解読室」(共著)がある。最近は、「Xen」による仮想化技術の開発を行っている。

■「当時、Linuxの評判は散々だった……」2000年前後のLinux業界

 これまでずっと、OS関係の仕事をしてきました。Linuxと初めてかかわったのは1998年ごろ、Linux 2.2が出る直前だったでしょうか。ある大規模メールサーバ・システムを再構築する際、SolarisとFreeBSD、LinuxのうちどのOSを使うか検討したのが始まりでした。わたしはすべてのOSを評価し、かつFreeBSDとLinuxについてはソースコードのレビューも行いました。コストや信頼性、将来性などを加味して検討した結果、Linuxを採用することにしました。

 当時、Linuxは「とにかく品質が悪い」と日本では散々な評判でした。ところが、実際に調べてみたら意外と良い感触だったのです。そのころには、使い勝手がずいぶん改善されていました。また、わたしは「Linuxコミュニティの活発度」も気に入りました。Linuxコミュニティは、当時からかなり活発に活動していました。とはいっても、いまの規模とは比べものにならないですが。まだ、メーリングリストのメールをすべて読みきれるぐらいの規模でした。

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 それから2年ほどプロジェクトのLinux部分に携わり、2000年ごろにVA Linux Systems Japanに転職しました。「OSが仕事になる企業」で働きたかったためです。当時、VA Linux Systems Japanはアメリカに親会社がありましたが、ネットバブルが崩壊してしまったために、これまでとは違うビジネスで食べていかなければならなくなりました。わたしは初期メンバーとして参入したのですが、当時は本当に大変でしたね。ビジネスを考えるところから開発まで、とにかく何でもやらなければなりませんでした。その後、Linuxカーネルを中心としたビジネスを始め、徐々にアメリカの会社から独立していきました。

■細かい指示は行わず、チームメンバーの裁量に任せる

 現在、20人ぐらいのエンジニアチームをマネジメントしています。中核は、クラウド関連のビジネスです。クラウド基盤環境の導入を検討している企業に向けて、提案から実際の開発構築までを一貫して行います。ストレージ関連のソフトウェア製品も開発中で、その中心機能をオープンソースとして公開しています。

 わたしの役割は開発チーム全体の「方針とポリシー」を決めることです。細かい指示は行わず、基本的にはチームメンバーの裁量に任せています。

 世の中には「目標に向かって走るのが好きな人」と「目標を作るのが好きな人」がいると思います。わたしはどちらかといえば後者のようです。基本的には「向き・不向き」に合わせて仕事を振りますが、得意な技術ばかりやっているとエンジニアはいずれ成長が止まります。そのため、あえてメンバーが苦手な仕事を振る場合もあります。

■エンジニアは「よく考える」人であってほしい

 わたしは、エンジニアに「とにかくよく考えてほしい」と思っています。目の前にやるべき仕事があると、ついその仕事にすぐ取り掛かりがちです。しかし、あえてそこで立ち止まってほしい。本当にそのやり方でいいのか、ほかのやり方は考えられないのか、自分の選択がベストなのか……全体を俯瞰(ふかん)して考えてほしいのです。

 忙しいと、ついこれまでの方法でやってしまいたくなる。その気持ちはよく分かります。ですが、その行動に「考える」プロセスはありません。忙しいときこそ立ち止まり、「ほかにやり方はないものか」と考える必要があると思っています。

 エンジニアにはどんどん「考えられる範囲」を広くしてもらいたい。苦手な仕事をしてもらう理由はここにあります。苦手な仕事をするときは、得意な仕事をこなすときより真剣に考えざるを得ないからです。これまでできなかった分野について知れば、それだけ思考の選択肢が広がります。わたしはよく調査関係の仕事をメンバーに割り振ります。これらの仕事で「従来の考え方、いま使っている方法を疑う」ことを学んでもらいたい

■「わたしにはこの技術がある」“軸”を持つエンジニア集団を目指す

 うちのチームメンバーは、何か1つ得意分野を持つことを求められます。先ほど「幅広く物事を考えてほしい」といいましたが、それは「この人にはこの技術がある」という“軸”を持っていることが前提です。軸を作るのは、エンジニアにとって重要なことです。

 軸があれば、その技術を核にして、新しい技術を学んでいけるでしょう。軸を持つと「わたしにはこれができる」「この分野ではチーム内で一番秀でている」という自信につながるし、チームからの信頼も得られます。得意分野は、ほかのメンバーと少し違う方がいい。そうすれば皆から頼られるし、チーム全体の実力も上がりますから。

 特技を持つエンジニアチームをまとめるリーダーもまた、「何かしらの特技を持つ」べきだと考えます。そうすれば、開発メンバーからより深い信頼を得られます。

■「自分の力で食べていけるエンジニア」を育成する

 チームメンバーを育成する際に気を付けていることがあります。それは、「自分の実力で食べていけるエンジニア」になってほしい」ということ。「会社に食べさせてもらうエンジニア」にはなってほしくないのです。そのために、先ほどの「一歩立ち止まって考える」「軸となる技術を持つ」ことは非常に重要です。

 幸い、VA Linux Systems Japanはオープンソースを生業として技術を公開しているため、エンジニアとしての「個」を立てやすいと思います。いままで、会社全体でLinuxカーネルやXen、 UltraMonkeyなどの開発プロジェクトに参加してきました。最近は、クラウド関連での活動が活発ですね。

 以前ほどではないですがわたし自身、LinuxやXenコミュニティで活動を続けています。Linuxコミュニティは個人ベースでの活動が多いですね。一方、クラウドのコミュニティは企業単位でかかわることが多いように思えます。

■技術が分からないマネージャはエンジニアに尊敬されない

 現在はマネジメント視点の仕事が多いですが、これからもずっとエンジニアとして技術をやっていきたいです。

 技術が分からないマネージャは、高い技術を持つエンジニア集団に尊敬されません。技術ににぶくなると、チームメンバーに意見できなくなり、ゴールも示せなくなります。それに、新しい技術を使ってビジネスを作る際、手を動かすことは必要不可欠です。技術が分かるマネージャとして、これからも手を動かし続けていくつもりです。

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