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ITコンサルタントが語る! 世界の現場から

 

第1回 ITコンサルタントの仕事は映画製作?

アビーム コンサルティング
プリンシパル 松本太郎
2008/2/18

ITコンサルタントの活躍の場は、日本だけではなく各国にも広がっている。本連載は、主に海外で活躍する日本人のITコンサルタントが、海外のプロジェクト事情などを、リレー方式で伝えていく予定だ。あなたの将来の活躍の場も、そこにある?

 人口の減少、GDPの国別シェア低下などで日本の国力低下が叫ばれる中、日系企業は生き残りをかけて中国をはじめとしたアジア市場に目を向けています。

 実はコンサルティング会社も、クライアントのグローバル化に合わせて、海外プロジェクトが多くなっているのです。海外プロジェクトの増加に従って、長期出張や駐在など、さまざまな形態による海外勤務が増えてきました。

 そこで本連載では、ITコンサルティング会社で世界を飛び回る現役コンサルタントが、コンサルタントの仕事、海外で働くことを中心に、個々のコンサルタントの視点で語っていきたいと思います。

■2008年の初仕事は上海から

 今年から本気で頑張ろうと、妻と2人で通い始めた近所のゴルフレッスンを終えると、自宅の荷物を手早くパッキングしてタクシーへ乗り込み、東京・箱崎のT-CATへ向かいます。日付は1月6日の日曜日午後3時。今年の初仕事は上海だからです。

 去年(2007年)の海外出張回数を数えると、北京と上海を中心に、台北、ジャカルタ、バンコク、マニラ、シンガポール、ハイデルベルクと18回になります。気分としてはもっと多かった気がしています。

 航空会社の取り込んでおくべき顧客リストに入ったらしく、おかげで今年からは待遇が変わり、セキュリティチェックが混雑していても、脇にあるプライオリティレーンから出国審査へ行けるようになりました。これで成田空港における面倒な一連の出国手続きが短縮され、海外出張も少しは楽になるかもしれません。

 遅れましたが、ここで自己紹介させてください。わたしは5年前にアビーム コンサルティングに転籍して東京に戻ってきました。その前の5年間は、アビーム コンサルティングの前身である外資系コンサルティング会社のニューヨーク事務所にいました。その前の5年間も別の外資系コンサルティング会社の東京事務所に在籍していました。私の15年のキャリアは、ずっとコンサルティング会社ということになります。

 厳しいといわれるコンサルティング会社で、ここまで生き残ることができ、昨年はプリンシパルという最上位の役職に就きました。

■キックオフミーティングは上海で

 ここ最近の4年間は、日系企業の中国進出や中国における経営基盤強化に関連したプロジェクトに従事してきたので、社内では中国・アジア通ということになっています。本当はさまざまなアジア通とコネクションがある、という表現が正しいのですが、ほとんどの人はこの事実を知りません。

 さて話を戻して、なぜ今年の初仕事が上海であるかというと、1月8日に新しいプロジェクトのキックオフミーティングが上海であるからです。

 キックオフミーティングとは、プロジェクトの関係者であるクライアントと仕事を依頼されたわれわれコンサルタントが一堂に会して、プロジェクトの目的、ゴール、スケジュール、タスクを共有し、当面の具体的な作業内容を確認する重要なミーティングです。

 私は日曜日の夜に上海入りし、月曜日に準備状況を最終確認して、火曜日のキックオフミーティングに備えるわけです。このプロジェクトは去年の12月まで、中国の現地法人の本社がある北京で行っていましたが、1月からは北京本社だけでなく、上海分公司(日本の支店のようなものです)を展開するため、プロジェクトサイトが上海にも設置されることになりました。

■プロジェクトは映画製作みたいなもの?

成田から上海に向かう機内では、『ラッシュアワー3』という映画を見ました。いくつかのメールの返事を書きながら見たので、間違っているかもしれませんが、要約すると中国人であるジャッキー・チェンと米国人であるクリス・タッカーが主役で、真田広之が悪役で出演しているコメディ映画でした。

 映画を見るたびに、プロジェクトは映画製作に似ていると思っていますが、それは2つの理由からです。

 第1に、映画製作キャスト・スタッフはある1つの映画製作のために召集され、撮影が終了すると跡形もなく消えてしまうテンポラリーな集まりであること。

 第2に、映画撮影の最終成果物は約2時間前後のスクリーン上にすっきりとまとまった1つの作品に見えますが、それはそれぞれ特殊技能を持ったプロフェッショナル集団のチームワークの集大成によるということです。

 映画はまずはプロデューサーがある構想を持っているところからスタートします。これは小説の映画化かもしれませんし、あるいはドキュメンタリーかもしれません。この構想の映画化を実現すべくあらゆる方法(プロポーザル作り、プレゼンテーション)を使ってスポンサーの賛同を得て、資金提供の約束を取り付けます。時期を同じくしてプロデューサーは息の合うディレクターを探し出し、キャストの選定作業を行います。

 映画の良しあしが、キャスティングでほとんど決まってしまうのと同様に、プロジェクトメンバーの良しあしで、プロジェクトが成功するか否かもほぼ決定するといっても過言ではないのです。

 いくら素晴らしいアカデミー賞受賞の俳優であっても、ジャック・ニコルソンでは『ラッシュアワー3』のストーリー展開上、ジャッキー・チェンやクリス・タッカーの代わりにはなれません。

 米国の文化をよく知らない中国なまりの英語を話すジャッキー・チェンのボケに対して、こてこての黒人英語のクリス・タッカーの機関銃トークでツッコミが入るからストーリーが成り立つわけです。

 プロジェクトも同様です。製造業のグローバルサプライチェーンシステムを構築するプロジェクトでは、サプライチェーンの権威が必要です。中国における会計システム構築であれば、会計パッケージの機能を理解している人と、中国の会計要件を理解している人が必要なのです。

 海外においてはコミュニケーションの手段として英語や中国語といった言語能力も重要な要素となります。

■私の役回りは映画製作でいえばプロデューサー

 私の役回りは、プリンシパル(映画製作におけるプロデューサー)です。別のコンサルティング会社ではパートナーと呼んだりしているようです。

 プリンシパルはプロジェクトの最終責任を持ちます。クライアントに納品する成果物と採算に対する責任です。

 現時点で私が最終責任者となっているプロジェクトは全部で4つあります。プロジェクトを実施することをデリバリーと呼ぶのですが、プリンシパルはデリバリーだけやればいいのではなく、同時に営業活動の責任もあり、提案活動中の案件は責任者となっているもので3つ、サポートしているものも3つほどあります。

■キャスティングでプロジェクト成功の9割が決まる

 私はプリンシパルとして、それぞれのプロジェクトにマッチした優秀なプロジェクトマネージャやその配下で活躍できる、やる気に満ちあふれたチームリーダーやスタッフを探してくる、いわばキャスティングが重要な仕事の1つなのです。

 これがうまくいかないと、わたしがディレクターや時にはキャストも兼務しなければいけなくなってしまいます。こうなってしまうとスーパーマンではないわたしは、途端に複数プロジェクトをカバーできなくなってしまいます。

 キャスティングは本当に大事ですから、メンバーを口説くにはありとあらゆる手段を使います。

 「あなたが目指すキャリアとマッチするプロジェクトだよ」といった正当な理由を語ることもあれば、上昇志向の強いスタッフには「これをやりきれば1年早いマネージャ昇進に推薦できるよ」と誘うこともあります。

 「あなたはそうは思ってないかもしれないけど、このプロジェクトは絶対いい! あなたの市場価値が上がるからやろう」と強引に誘うときもあります。「北京ならば東京のような狭苦しいワンルームじゃなくて、100平方メートルの家具付き、掃除付きマンションに住めるよ、日当も入るし」といった変化球で誘うこともあります。

■出演拒否はあり得ないけれど

 当社では、5年前後のコンサルティング経験があるシニアコンサルタントまでは、プロジェクトを選ぶ権利はありません。その上のマネージャであっても拒否権は基本的にないので、本当はこんな手間をかけなくてもプロジェクトメンバーを集めてくることは可能です。

 プロフェッショナルはセルフモチベーションが基本といいます。しかし、皆人間ですから、私の考えに共感してもらうことで、高いポテンシャルを持ったメンバーのやる気を奮い立たせ、最高のパフォーマンスを引き出すことができるわけです。自分が持っているのかは別として、プリンシパルには周りを共感させる能力が必要なのです。

■日本企業のグローバル化

 アビーム コンサルティングでは、大きいものでは300人規模で、小さいものでは数人程度の大小さまざまなプロジェクトが、数百同時に進行しています。日系企業のグローバル化に合わせて、私が担当しているような海外プロジェクトが珍しくなくなってきました。

 海外プロジェクトでは多国籍、多文化の環境下でチームメンバーが各地で奮闘しています。

 この連載では、コンサルティング会社で働いてみたい、海外で働いてみたい、という方を想定読者として、海外プロジェクトに従事している弊社の日本人コンサルタントが、独自の視点と言葉でコンサルティングの仕事を語ることを予定しています。

 語るのはアジア、米国、欧州各地のグローバルプロジェクトで奮闘している現場のプロジェクトマネージャであり、チームリーダーであり、チームメンバーです。世界各地のコンサルタントが持ちまわりで地球をリレーしていく予定です。

 この連載を通じて、コンサルティング会社で働くこと、海外で働くことを理解いただき、皆さんのキャリア形成におけるステップの一助となれば幸いです。

 次回はバンコクにてシステムグローバル展開に従事しているプロジェクトマネージャにバトンを渡します。乞うご期待のほどを。

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