第6回 中国語圏である1つのプログラムが完成するまで
アビーム コンサルティング
マネジャー 古山太
2008/8/8
【テスト:明日の締め切りぎりぎり】
仕様が決まれば、プログラミングです。その後、テストをします。担当はアビームの現地法人のメンバー、Aさんです。
お昼前……。
A 「テストしました。なかなかタフなプログラムですね。明日の締め切りぎりぎりです。テスト報告書をチェックしてください」
私 「了解しました。夕方までに見ておきますね」
◎夕方:「修正は明日でもよいですか?」
私 「Aさん、テスト報告書の部分は問題なく動くみたいですが、部門コードに漢字を入れるとプログラムがダウンしてしまいますよ。修正してもらえますか?」
A 「ああ、本当ですね。修正は明日でもよいですか?」
私 「いや、明日が納品日なので今日中にお願いしたいのですが」
A 「確かに問題ですが、もともとの仕様には書いてなかったですし、難しい修正ではないのですが、普通は部門コードに漢字を入れることはあり得ないですよ。このプログラムを作成するために毎日残業でしたし、今日は予定が……」
私 「仕様から漏れていたのはそのとおりですが、やはりいまの状態では納品できないんですよ。すみませんが、今日修正してください。それが終われば明日は午後出社でかまいませんから」
A 「分かりました。修正します」
【検品:日本側、現地側の双方に見てもらう】
テストが終わればクライアントに検品してもらいます。日本側、現地側の双方に見てもらいます。
◎午前:「ちゃんと動きますね」
私 「Xさん、いかがですか?」
X 「うん、ちゃんと動きますね。返品理由も要件どおりの項目で中国語になっていますから、問題ないでしょう。お疲れさまでした」
◎午後:「動作はOKです」
私 「Jさん、いかがですか?」
J 「そうですね、動作はOKです。ただ、返品理由のレポートですが、英語も併記してもらえませんか? そうすれば、そのまま報告資料に使えます。微調整の範囲ですよね」
私 「……そうですか、多少現場工数が必要なので、少し時間をください」
プロジェクトルームに戻った私はAさんに事情を説明しました。3日後、日中併記のレポートに修正を反映、双方から承認を得ることができ、開発は終了したのでした。
【ここで、問題10コ】
- Xさんが「日本から監視されている」ことを指摘したのは、監視を嫌っただけなのでしょうか?
- Xさんが「入力が面倒だといいつつ、返品理由の細分化を求めた」ことは矛盾しているといえるでしょうか?
- Xさんが「平易な英語にもかかわらず中国語を求めた」ことは、本当に入力ミスを懸念したからなのでしょうか?
- 私が「返品率削減検討を提案し、強制力を持たせる提案をした」ことは最善の策だったのでしょうか?
- 「本社では必要のない返品理由の階層化」をコストをかけてまで実現しようとしたことは正しい判断だったのでしょうか?
- Aさんが「部門コードの漢字入力をチェックしていなかった」ことは基本的なミスといえるのでしょうか?
- Aさんが「仕様になかったという議論をした」ことは責任放棄でしょうか?
- 私が「Aさんに午後出社を認めた」ことは管理の甘さなのでしょうか?
- Jさんが「英語の併記を要件として出した」ことは微調整の範囲なのでしょうか?
- 私が「Jさんの英語表記の追加要件に反論しなかった」ことは日本人のやり方を理解した正しい態度だったのでしょうか?
【私見:国内と海外では対処法を変えなければならない】
お気付きのとおり、海外では言語などの「海外特有の問題」と労働時間などの「日本でも発生する問題」の両方がごちゃまぜになってやってきます。そして、同じ問題でも日本と海外(日本人と外国の方)では対処法を変えなければならないというのが私見です。私には中国と台湾の経験しかないので、そのあたりを整理すると……。
●中国の方たち:上司の決定を尊重する
中国の方の中には、歴史的観点から日本を嫌う方がいらっしゃいます。これは事実です。このことを踏まえて、日本の要求ではないという説明が必要になる局面があります。また、部下が上司を見るに当たり「リーダーシップ、統率力」などを重視し、上司の決定を尊重する場合が多いように思います。
●台湾の方たち:部下に配慮する
台湾の方は日本人をたいへん尊重してくれます。ですから、日本の管理を前面に出して説明することで納得してくれることもあります。また、部下の上司に対する評価に「いかに部下に配慮した要件を勝ち取ったか」ということがあることもよく感じます。上司となった場合は部下に配慮し、監視の圧力をかけるようなことは極力しないように努力しています。
●中国、台湾の方たちの共通点:ロジカル
中国、台湾の双方に共通することは「ロジカルであること」です。やるのであれば、道理の通ったことをやる、という視点での議論が多く見られます。そして、一度決めたことは、その決定、範囲を尊重します。従って、何かを決定するときは、その内容と範囲が非常に重要です。
また、「自分で自分を経営する」という意識がとても高いのが特徴です。仕事もプライベートも自分の人生を有意義にする大切な要素としてとらえる方が多いようです。従って、長期にわたる残業(残業の定義は18時以降の労働です)の連続は、長時間労働のコンサルティング業界でもよいことではないように思います。
このようなイメージの中で、上記の話を中国での話とした場合と台湾での話とした場合では、少し感じが違ってくると思います。
海外で活躍される方たちは発生する問題に対して、その国、地域での最善の解決策を模索し続けていらっしゃるのだと思います。上記の問題については、私も常に考え続けていますが、いまだにすっきりとした解答が出ていません。とはいえ、それこそが、世界を理解する過程にも感じられます。
次回は、中国とアメリカを知っている同僚が語ります。
筆者プロフィール |
古山太 (アビームコンサルティング マネジャー) 2001年アビームコンサルティングの前身であるデロイト・トーマツ・コンサルティングに入社。以後、ERP導入を中心として製造業、テレコム関連のクライアントに対するシステム導入プロジェクトに携わる。2003年より中国に3年駐在。2007年より台湾に駐在。妻は台湾人。家庭では中国語、職場では日中両言語で生活。 |
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