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ITコンサルタントが語る! 世界の現場から

 

第7回 提案途中に逆提案! 15分で資料を再編集


アビーム コンサルティング
シニアコンサルタント 菊本善夫

2008/8/25

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■トラブル発生!?

 ところが、1日目の自己紹介が終わったときのことです。お客さまの1人がいいました。「そんなことより、J-SOXについて1時間くらいで簡潔に話してもらえないだろうか」と。

 このタイミングで逆提案を受けるとは、まったく予想外の展開でした。幸いにもJ-SOXは事前に資料を準備していた唯一のトピックでしたが、2日目用の資料として準備したため、全部で3時間分はありました。

 ここで先方からの要望に応えないわけにはいきません。すぐに編集作業に入りました。次のセッションの準備に使える時間は15分。その間に、3時間用から特に重要なところを抽出して1時間用に再編集しました。私たちは大部屋(現プロジェクトルーム)の前方に座っていました。お客さまもすでに集まり、上司が最初のスピーチをしている間も私はひたすらPCの前でスライドの選定と削除を繰り返していました。そのときは、取りあえずこの場を乗り切ることだけを考えていました。ここでネタを使い切って翌日のプレゼンテーションをどうするかということなどお構いなしでした。ましてや、あれだけ時間をかけて作成した経営環境分析の資料が永遠に日の目を見ないことになってしまうことなど。

■プレゼンテーションそしてクロージング

 プレゼンテーションではJ-SOXの概要について述べました。当時は金融庁によるガイドラインの公表前でもあり、多くの企業は何に対して注力すべきかを決めかねて様子見をしている段階でした。そこで、J-SOXの制度、対応のために作成すべき文書、特に時間と労力がかかる部分について説明を行いました。

 反応は悪くないものでした。「内部統制を整備する必要性があることが分かった」「どういうことをしなければならないかがイメージできた」といった声をいただきました。一方で「現状の業務がうまくまわっているのに、なぜこんな面倒なことをしなければならないのか」「果たしていまやる必要があるのか」という声も根強く聞かれました。

 このような中、次に考えなければならないのは、この場をどのようにまとめるかということでした。たとえ、今回のプレゼンテーションを喜んでいただけたとしても、これっきりとなってしまっては何の意味もありません。今後もコミュニケーションを継続し、J-SOXにかかわらず何かしら将来お役に立つことができる可能性をどうしても残したかったのです。

 議論の末、達した結論は「内部統制クイックアセスメント」の提案というものでした。J-SOX対応に当たっては内部統制を整備する必要がありますが、現状がどういう状況かを把握しないことには整備にかかるコストを正確に見積もることができません。そこでまずは、現状の内部統制についてあまり時間をかけることなく診断してみませんか、という提案をしたのです。この案は先方にも受け入れられ、その後はクイックアセスメントの準備を進めるということでひとまずこの場は落ち着くこととなりました。

■LESSONS LEARNED

 私が本件のPDに従事したのはここまでです。次はプロジェクトメンバーの1人として携わることになりました。詳細は省略しましたが、準備期間から内部統制クイックアセスメントの提案まで2度の訪問を行い、5カ月を費やしています。その後の話し合いにより、クイックアセスメントは結局行われず、正式なプロジェクトが立ち上がったのは最初の訪問から数えて1年後のことでした。何人かのお客さまは私が最初に訪問したときのことを覚えていて、いまでも飲み会の場などで「あのときがあるからいまがある」と激励してくださることがあります。プロジェクトの立ち上げに当初から関与し、いまも継続的に従事できていることを光栄にまた誇りに思っています。

 本件を通じて私は以下のことを学びました。

1. お客さまの立場に立って考える

 コンサルティング業界については『コンサルティングの悪魔』(ルイス・ピーノルト著、森下賢一翻訳、徳間書店)という書籍もあるほどで、好ましくないイメージで語られることがあると思います。入社間もなかった当時の私もそのイメージを払拭(ふっしょく)しきれないでいました。しかしながら、当時、一緒に営業活動に取り組んだ上司は徹底してお客さまの立場から物事を考える人物でした。何をするにも、お客さまがこれを見たらどのように感じるかをまず初めに考えるのです。それは、営業の資料を作成する際にさえも明確に表れます。

 例えば、プロジェクト期間の途中で当社がプロジェクトから外れていくシナリオを提案すれば、当社にとっては最終的なリスクを回避することができるという考え方があるとします。しかし、私たちの提案書には最後まで一緒にプロジェクトを完遂することが記載されました。当然ながら、どうするのがベストかは個々のプロジェクトの状況によって異なることはいうまでもありません。仮にプロジェクトが安定し、自社のみで自立的に進めていくことができるならば、コンサルタント会社は速やかに撤収すべきだと思います。しかし、提案の段階では、逃げることなく最後まで一体となって取り組みますという意気込みを見せることこそが大事ではないかと考えるのです。

 「お客さまの立場に立って考える」という言葉は確かにありきたりで、誰もが見聞きしている言葉です。以上は一例にすぎませんが、私は本件を通じてこの言葉の意味を理解し、実践することを学んだと思います。

2. かかわった人を出世させて“なんぼ”の仕事

 仮に大規模プロジェクトが立ち上がることとなれば、お客さまにとっては巨額の投資を行うこととなるため、そこにはいろいろなチャンスが存在します。そのような中、利害関係者が自らの意思や思惑に沿って発言・行動することは自然なことです。

 先に述べたような、私たちのプレゼンに対して好意的かそうでないかの発言をすることはその一例かもしれません。プロジェクトの提案においては、そういった流れを敏感に感じ取り、それに対して適切に反応していくことが私たちの重要な役目です。そこで出てきた上司の言葉が「コンサルティングはかかわった人を出世させてなんぼの仕事」というものでした。自分たちにかかわった人が出世するということは、プロジェクトが成功することを意味します。お客さまのためにプロジェクトを成功させることで、自分たちだけでなくかかわった人ひいては会社の成功にもつながる。この言葉はコンサルティングという仕事に携わっている私に勇気と自信を与えてくれるものでした。同時に、これは何もコンサルティングに限ったことでなく、すべての仕事そして個人ベースにもあてはまるフレーズではないかと感じました。

 私は自ら希望して海外勤務を経験しました。しかしながら、そこで得られた教訓は何ら海外と関係するものではなく、場所を超えたもっと大切なことではなかったかと、いまになって思います。

 カリフォルニアプロジェクトの「黎明編」は以上で終了です。プロジェクトの現状についてご興味のある方は第4回「海外プロジェクト、『最初は逃げるように帰国』」をご参照ください。次回はタイでの経験を持つ同僚が執筆する予定です。

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第6回 中国語圏である1つのプログラムが完成するまで

筆者プロフィール
菊本善夫(アビームコンサルティング シニアコンサルタント)

広島県生まれ。慶應義塾大学卒業後、事業会社を経て監査法人に入所。中国投資支援に従事する傍ら米国公認会計士資格を取得し、中国・北京駐在、財務諸表・内部統制監査に従事。2005年、アビームコンサルティングに入社。製造業・金融業で会計システム導入、内部統制構築支援、ERP導入などのプロジェクトに従事。

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