第5回
私が歩んだスーパーフリーエンジニアへの道
吉川明広2001/9/14
■Delphiが変えた古川氏の人生
当時、ボーランドがリリースした新しい開発環境のDelphi |
こうしてフリーランスグループの仲間とさまざまな仕事をこなしていくうちに、彼は自分の今後を左右することになるDelphiに出会う。これは、当時ボーランドがリリースした新しいソフトウェア開発環境で、プログラミング用言語として、Pascalにオブジェクト指向の概念を取り入れた新しい言語“Object Pascal”を利用するという画期的なものだった。
「Delphiの正式版が発売される数カ月前に、ベータ版を入手しました。で、無謀にも私のグループで受注していたあるシステムを、それで作ってしまったんです。当時、Object Pascalに関するドキュメントなどはほとんどありませんでしたから、英語のヘルプを見ながらまねて作りましたが、ちゃんと動きましたよ。でも、やっぱりそのままではヤバいので(笑)、正式版のDelphiが出てからシステムを再コンパイルして顧客に納めましたが」
この仕事を通じ、非常にアーキテクチャが美しいといわれるDelphiに、彼は心底ほれ込んでしまう。そんな彼のもとにタイミングよく、これまたボーランドから「Delphiのセミナーをやらないか?」と声がかかった。時ここに至って、彼は1つの決心をすることになる。
「グループのほかのメンバーは、Windows絡みの仕事には乗り気じゃなくて、あくまでもUNIXの仕事を続けたいという意向が強かったんです。でも、私はDelphiをやりたかった。それで、みんなに“1人でやってみるよ”って。1995年ごろだったと思います」
こうして、Delphiをきっかけに一本立ちした彼は、その後出現したJavaなども貪欲に吸収しながら、オブジェクト指向プログラミングのエキスパートとしての活動範囲を広げていくことになる。
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古川氏のフルネス設立時から現在までの主な業務 |
ちょうどそんなころ、彼は会社を興して代表取締役に就任した。その辺りのことを少し伺っておこう。
「会社を作ったきっかけは節税でした」と語る古川氏 |
「1996年に会社を作りましたが、そのきっかけは、ありていにいえば節税でした(笑)」
節税を考える必要があるほどの収入とは、ちょっとばかりうらやましい話。だが、その後数年が経過しているというのに、人を雇ったり組織を大きくしたりしている形跡はないようである。
「父が建築関係の“職人”なんですが、自分も似たような気質で、経営者としてやっていけるかどうかちょっと疑問でしてね。自分で“経営”が見えてくるまでは、1人でやっていこうと考えています。以前、(D社の)倒産を経験して、経営者の大変さも見ていますし。そもそも、何でも自分で勉強してやっていきたい、と思っているうちは、経営者にはなれないかな」
とはいえ、フリーランスの技術者を契約社員として使うなどの試みはすでに実行しているという。さらに、2000年には、彼の知人が興したグルージェントの非常勤取締役にも就任しており、少しずつ経営にも目を向け始めている様子。優れた技術力の上に経営のセンスが乗れば、“鬼に金棒”となることは疑いのないところ。彼が見せる今後の新たな展開に、ぜひとも期待したい。
■仕事の疲れは仕事でいやす
冒頭でも触れたが、現在の古川氏は、SEとしてのシステム開発、雑誌への寄稿や単行本の執筆、そして各種教育機関でのセミナー講師という、3つの分野を対象に活動を展開している。
SEの仕事としていま彼が進めているのは、某マーケティングサービス専業会社の営業・財務・管理完全連携システムの開発。これは、もちろんDelphiを使ったシステムで、3年計画の2年目までがほぼ終了し、あと1年ですべてを完成させるべく、現在作業中だという。具体的内容についてはマル秘扱いとのことで詳細は教えてもらえなかったが、データベースを中心に、社内のすべての業務を連携させるという意欲的なシステムだそうだ。
執筆活動については、最近少し変化があるという。最近は、雑誌の仕事をほとんどやっていないというのだ。
「以前、『インターフェース』誌(CQ出版社)や『WindowsNT POWERS』誌(BNN)などには、かなりの数の記事を書きました。でも、雑誌の仕事は締め切りがタイトなので、開発の仕事などが入ると非常に辛くなる。それで雑誌はやめました。その代わりに、自分でアイデアを出して記事案を構成し、出版社の編集部に持ち込んで単行本にするという仕事をやるようになったんです」
別表に掲げたとおり、彼はすでに5冊もの単行本を世に送り出している。いずれもオブジェクト指向プログラミングに関する本で、ほとんどがソフトウェアベンダーのお墨付きという、内容的にも信頼の置けるものばかりだ。
「アーキテクチャの本とかは、黙っていても世の中に出てきますが、そういう情報だけではなくて、私としては現場が必要とするような情報も提供したいと思っているんです。とにかく、現場の方から“使ってよかった”といわれるような本を書きたいですね」
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前述したとおり、古川氏が一本立ちしたのはボーランドからDelphiのセミナー開催を打診されてからのこと。そして3年ほど前からは、ある公的な職業教育機関が主催するセミナーの講師も務めるようになった。これは、その教育機関がDelphiのセミナー講師をボーランドに依頼してきた折、彼がその講師を務めたのが縁だったという。当該機関の担当者が古川氏を非常に高く評価し、それをきっかけに別のセミナーの講師依頼が直接彼のもとに来たのである。その要請を受けた彼は、以来、いくつかのコースのセミナー講師をずっと務めているのだそうだ。
彼はまた、この教育機関とは別に、九州にある某人材開発センター(これも公的機関だそうだ)の講師も務めており、何カ月かごとに九州に飛んでいるとのこと。
「第三セクターなので、正直いって謝礼金は“それなり”です。でも私としては、これは“布教活動”だと思っていますから。飛行機代がちゃんと出て、たまに旅行気分が味わえれば、もうそれで十分ですね(笑)」
仕事の疲れを別の仕事でいやすとは、まさに達人の域。マルチな活躍をする古川氏の元気の秘密は、どうやらこの辺りにありそうだ。
■石原都知事へのメッセージ!?
古川氏からはその後もいろいろな話を伺ったが、プログラマーやSEに限ることなく、エンジニア一般に通用する広範な見方には、長年にわたってシステム開発の第一線に身を置いている彼ならではの鋭い視点を感じ取ることができた。最後に、近い将来に何をしていこうと考えているのかについて聞いてみた。
「会社としての成長も本格的に考えるべき時期に来ていますが、それ以外では“教育”というものを追求していきたいですね。技術を覚えるためのセミナーも確かに重要ですが、今後はマネジメント系の人たちにもメッセージを送っていく必要があると考えています」
「管理職クラスの人でも、アーキテクチャを理解できれば、エンジニアのレベルに応じた仕事の割り振りができるようになって、仕事全体の流れが円滑になります。実は、これをある会社で実践しているんですが、作業が実にすんなりと進ちょくしていくし、システム変更も楽にできるようになる。こういった成果を、どんどん世の中に発表していきたいんです」
これは、現場へのこだわりを持つ一方で、仕事全体の運営を担う管理者の重要性もきちんと認識している、古川氏ならではの言葉といえるだろう。しかし、彼の目は、実はもっと高いところに向けられていた。
古川氏の夢の1つが、石原東京都知事に提言することだという |
「これは夢なんですが、東京都知事の石原さんに会って、“現在日本がやっているような、1人当たりいくらといったIT投資はやめてほしい”といいたい。そうではなくて、いろいろな分野のエンジニア(モノ作りにかかわる人)たちを応援するサイトや、交流できるような場をたくさん作ってほしいし、それを積極的に知らせてもらいたいんです。日本はかつて技術立国なんていわれていましたけど、ここ10年くらいでそれがすっかり影を潜めてしまった感じがします。特に最近は、優秀なエンジニアや学者が海外へ行ってしまう話をよく耳にしますが、“これでは日本はまずいな”と本気で思いますね。だから、モノ作りにかかわる人たちが元気になるような政策をどんどんやってほしい。で、そういったところで何か発言できたり協力できたらいいな、と思っているんです」
単なる技術者のワクを超えて、社会の中で本当に技術を役立てていくためには何をすべきかについて真剣に考え、しかもその具体的なアイデアまで持っている古川氏。技術立国を目指す日本が本当に必要としているのは、まさにこんな人ではないだろうか。彼には、石原都知事との会談をぜひ実現してほしいと思わずにはいられなかった。
飽くことのない探究心と、旺盛なチャレンジ精神で自らの道を切り開いてきた古川氏。そんな彼のスキルとキャリアを支え続ける本とは? その答えは「エキスパートに聞く ぼくのスキルを支えた本」に! |
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最前線で必要なスキルとキャリアを知る! 第5回 | |
私が歩んだスーパーフリーエンジニアへの道(1/4) | |
私が歩んだスーパーフリーエンジニアへの道(2/4) | |
私が歩んだスーパーフリーエンジニアへの道(3/4) | |
私が歩んだスーパーフリーエンジニアへの道(4/4) |
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