日本のITエンジニアを幸せにしたい
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2007/11/29
■無謀な見積もり、手戻りをなくすことで残業は激減
ATSにおける残業については、「えらい勢いでなくしました」ということだ。「日経さんのレポートによると、エンジニアの平均残業時間は48時間らしいですが、もうそれ以下だと思いますよ。ぼくがこの立場になった5年前と比べ、大幅に削減しました。少なくとも、平均ではだいぶ数字が良くなりました」
残業を減らせた理由は、「見積もり、品質管理、段取りをちゃんとしようと考え、そのための仕組みをつくったこと」。具体的には「ストラテジック・デリバリー・オフィス」というシステム開発の方法論を定着させるための組織をつくり、その活動によって無謀な見積もりをなくし、手戻りをなくし、残業を減らしていった。
「『帰ろうぜー』というシュプレヒコールで減る部分もありますけどね。残業がくせになってしまうと時間の感覚がおかしくなってきて、『まだ10時じゃん』とか、11時くらいに帰ろうとすると『あれー、今日早いね』とか、そういう感覚になっちゃうんですよね。それを変えるためにはシュプレヒコールも1つの重要な手だとは思います。しかしシュプレヒコールだけでは、本質的な残業は減りません。
(ストラテジック・デリバリー・オフィスについて)経営会議でぼくが発言するときは、品質が低下することによって利益率が下がるのは良くない、その機会損失を避けようと、“経営者らしい”ことを話しています。でも裏でいっているのは、みんなで残業もっと減らそうよ、もうちょっと早い時間から飲みに行こうよということです」と安間氏は笑う。「結果として、『アクセンチュア残業減ってきたね』と中の人間がいってくれているので、すごくうれしいですね」
IT業界全体への影響についてはどうだろうか。「もっともっと(啓発活動が必要)でしょうね」と安間氏は話すが、最近少しは状況が変化してきていると感じているそうだ。
「日本の企業間多重構造について、そう簡単に一挙には壊せないにしても、何かおかしいと思っている企業が出てきているのは事実だと思います。外部依存率をできるだけ少なくし、自前部分を増やしていくことが重要なのかなと思う方々が多くなっています。少しはなにがしかの影響が出ているのかなと。必ずしもぼくたちの力ではなくても、そういうふうに世の中が変わるのはいいことなので」
■地方のITエンジニア、子育て中のITエンジニアも元気にしたい
「エンジニアを幸せにしたい、エンジニアとコンサルタントがN対Nでスパークできる場をつくりたいとの思いは変わらない」と語る安間氏だが、その手段として、いくつか考えていることがあるそうだ。
2006年11月に設立したニアショア開発の拠点である、札幌の「北海道デリバリー・センター」では、当初目的としていた案件数を達成できたという。もともと「エンジニアは東京だけではなくて、地方にも大勢いる。仕事を持っていくことで地方のエンジニアを元気にしたい」という考えがあったそうだ。北海道はその第一弾だという。
「今後は規模を大きくしつつ、リモートでの仕事の幅をもっと広げたいと思っています。実はリモートで要件定義ができないかなと思っているんです。いまのところ勝ち目ゼロなのですが、挑戦してみたいです。ブロードバンドは距離を越え、IPv6はNGNをつくるので、せっかくそういう世の中になっているんだから、バーチャルな要件定義ができていいじゃんと思っていて。それを北海道でやってみたいですね。
でも、ネットミーティングや電話会議というスピード感では要件定義はできないと思っています。何か新しい仕事のやり方が必要です。その方法を、これから北海道のデリバリー・センターに入っていただける人と一緒に考えてみたいと思っています」
加えて、何らかの事情で現在技術力を発揮できていないITエンジニアについても、「仕事の機会をつくりたい」と考えているそうだ。「例えば、子育てで家にいる技術の高い人。うちの社員に聞くと、子どもが保育園に行き始めたら、家にずっといるのではなく外に出たいという人が多いのです。なので、時短勤務を実現できるような機会をたくさん持てるといいなと思います。お客さまのところに行って、時短で午後から帰りますというのはなかなか難しいかもしれない。フレキシビリティを持たせるために、違う形のシステム開発の考え方をつくってみたい。
今後の話なのでまだ具体的な計画はありません。そうはいっても、事情があって技術はあるが発揮できていない人のために、機会をつくりたいと思っています。
方法論専門部隊を日本に立ち上げたり、北海道にセンターをつくったり、やりたいことは同じでも、手段をいろいろ変えてやっていくのはとても面白い。それが新しいことだとよりいっそう面白いと思っています。ぼくが本心から面白がっていることが、おそらく社員にも通じて、『みんなで面白いことやりたいよね』と思ってくれるんでしょう。それが彼らの、仕事を楽しもうという姿勢にもつながっていくんだろうなと感じていますね」
■「お楽しみはこれからだ」
「ぼくは、『お楽しみはこれからだ』というのをこれからのATSの組織内のキャッチフレーズにしようかと思っています」と安間氏は語る。「ここから新しいことが始まるんだぜと。いままでの、ぼくがいなければという組織を変えて、社員がなにがしかの仕組みを自らのものとして考えていくような、そういう組織をつくってみたいのです」
これまで安間氏は、コンサルタントとスパークを起こせる集団になるために、「あえてぼく自身を軸にして、ぼくがいないと求心力をなくすような」組織を設計してきたのだと話す。
「しかし、やっぱり『時を告げるのではなく時計を作っていく』必要があります。ぼくがいなくても同じような仕組みができ、同じようなモチベーションが保てて、同じようなやりがいを感じられる、そういう組織にしていかないといけないと思っています。
ATSという組織はぼくがつくって、たまたまいまぼくが見ています。でもどこかの民族の教えで、『地球は先祖から譲り受けたものではなく、子孫からたまたまテンポラリーに借りているだけだ』というものがあるそうです。会社も同じですよ。若い社員の方が、会社をスルメに例えると長くしゃぶることになるので、できれば彼らの好きな味の方がいい。そういう組織づくりをしたいというのが、これから目指すところです」
「エンジニアの幸せ」「面白さ」「楽しさ」をキーワードに、前進を続ける安間氏。その姿勢は、多くの後輩がITエンジニアとして生きていくための道しるべとなるのかもしれない。
今回のインデックス |
ITエンジニアとコンサルタントがぶつかり合う組織 |
ITエンジニアが「幸せ」になるためには? |
残業を減らし、ますます「面白い」組織に |
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