いま、必要とされる人材とは?
必要とされるエンジニアの条件
内田靖
2001/7/13
II 自分で作り上げるキャリアプラン |
会社主導から自分主導へ
いま勤めている企業がある日突然外資系企業に買収され、マネジメントがまったく変わり、いままで通用していた自分のキャリアが使い物にならなくなる日がきたらどうだろうか? マネジメントポストが減り、自分のポストがなくなってしまったらどうだろうか? 自分が開発していた言語はまったく必要とされず、突然違う言語とソリューションを提供するようになったらどうだろうか? 企業を取り巻く環境が激変する中、こうした事態がいつ起きても不思議ではない。
しかし、自分のキャリアを会社主導のキャリア育成方針に任せていては、転職して通用するキャリアになるとは限らない。つまり、会社のキャリア育成方針のみに盲従することは非常に危険なことである。そのため、会社主導ではなく、自分主導でキャリアを獲得する必要がある。受動的ではなく能動的に、キャリアは自分から挑んで仕掛けて作っていく。企業で必要とされる人材は、常にそれらを持っているのである。企業内部でのモノサシでスキルやキャリアを見るのではなく、企業とは関係ない、絶対的なモノサシでスキルとキャリアを見つめ直すことが重要になる。
とはいえ、どうすれば自分主導のキャリア作りができるのだろうか? 企業で必要とされる自分主導型人材の共通な基本的特徴を、次に挙げてみよう。
- 哲学(倫理観をしっかり持ち、常に相手を認めて、受け入れようとする心を持っている)
- リスクに挑む(環境変化の激しい時代に、自らリスクを取り自分にプレッシャーをかける)
- 楽観的(1つ1つの結果がどうなろうと後悔はせず、すべてプラスにとらえる。将来の成功に役立てる)
- 好奇心(直感を大切にし、自分の仕事に直接関係のないさまざまなことに幅広い好奇心がある)
- 信念(物事がうまくいかなくても、自分のこだわりに対して信念を持ち続ける)
- 柔軟性(予想外に環境が変わっても、必要に迫られたものであれば、現状に固執せず柔軟に対応する)
仕事を楽しめる人
さらに必要とされる人材は、上記の基本的な特徴のほか、しっかりと仕事をこなしてパフォーマンスを上げ、自分自身は満足感を得て、会社から認められたいと考える。こうした“仕事を楽しめる”人材は、次の3つの要素を持っている。
(1)仕事をするための基本的なスキル
(2)コンピテンシー
(3)モチベーション
(1)仕事とをするための基本的なスキル
楽しく仕事する人材は、具体的な仕事をきちんとこなすために、最低限のスキルを身に付けている。会社主導の人材は、いま持っているスキルを仕事にどう生かすかだけを考えるが、必要とされる人材は、スキルを生かすだけでなく、自分の目指している仕事に不足しているスキルを確認し、どのくらいの期間でどう補うかまでを考えて実行する。不足スキルを明確に認識しているが、それをポジティブにとらえる傾向がある。
(2)コンピテンシー
最近の人材採用では、コンピテンシーの概念を参考にする企業も現れてきた。コンピテンシーとは、competency=ある特定の職務で、ある期間、高い成果を上げる行動特性をいう(図1)。
図1 コンピテンシーの概念図 |
コンピテンシーは、もともと行動心理学から出た言葉で、安定して高い成果を上げる人と、ほとんど成果が出ない人と、たまに成果を出せる人とを比較し、その違いを行動心理学的に分析したもの。その分析の結果から、企業は各職種に必要な人材を採用するために、安定して高い成果を上げる人の思考性や行動パターンモデルを作成し、それに近い人材を採用する。企業の人事は採用において、成果を出せる人と出せない人の違いを単なる経験や能力だけで判断せず、どのような行動をしているか(していたか)という部分に着目する。優れた人材は、自分のコンピテンシーと企業が作成したコンピテンシーモデルとが、ほぼ同じになる(図2)。
図2 企業の求める人材と働く人の持っているものが重なるところが(合致すれば)、必要とされる人材となる。特に重要なのが、動機とコンピテンシーだ |
それではもう少し具体的に見てみよう。コンピテンシーをディーラーのトップセールスマンとボトムセールスマンで比べてみよう。トップセールスマンは、1日の行動スケジュールが明確で、週末に次週のスケジュールを確認する。売り上げの結果より、セールスプロセスを明確に分析してそれを大切にする。顧客ニーズを徹底的に知り、一方通行的なセールスはしない。仕事は仕事と割り切らないといった、トップセールスマンに共通のコンピテンシーがある。システムエンジニアの場合も、売り上げの結果よりもセールスプロセスを重視したほうが、長期的には顧客もシステムエンジニアを信頼してくれ、結局売り上げにも結び付くはずである。
ボトムセールスマンは、人脈型でセールスプロセスなどの分析をせず、あまり努力しない。もし、あなたが現状の仕事で結果が伸び悩んでいるのなら、自分より仕事ができる人の行動を見ることをお勧めする。行動にかなりの違いがあることが分かるはずだ。
これはシステムエンジニアにも当てはまることだ。短期的に売り上げ重視では、本人の成績はいいかもしれないが、長期的に顧客(クライアント)の信頼を得られなくなる可能性が高い。セールスプロセスを大事にし、顧客ニーズを徹底的に知り、一方通行のコミュニケーションばかりをしないシステムエンジニアが、どれだけ顧客から喜ばれるだろう。
(3)モチベーション(動機付け)
一番重要な要素として、いい仕事をするにはモチベーション(=動機付け、動機)が必要となる。自分が何から充実感を得るのか、動機の種類にもさまざまなものがある。
動機を分析し、求職者と求人企業のジョブマッチングを行っている米国の有名な企業がある。その会社は、38年間で延べ150万人の各業界と職種の人材評価データを持ち、ジョブマッチングのコンサルティング活動を行っている。大変面白いのが、米国メジャーリーグ選手トップ100名のうち、93名がこの会社のツールを利用していることだ。このツールは、心理学を応用したもので、人材のパーソナリティを評価して動機を測定し、成果を生む行動特性、コンピテンシーを予測する。米国メジャーリーグ選手トップ93名は、このツールを利用して冷静に自分の長所と短所を見つめ、どうしたら自分のポジションを上手に遂行できるかのアドバイスを受けて成功したという。
これをITエンジニアの現実に当てはめてみよう。例えば、成功しているエンジニアの多くは、責任感(徹底性)と社交性が高い。必要とされているエンジニアは、慎重で責任感があり、任務の遂行能力だけでなく、チームワークを大切にして、1人1人の人間関係をつくることにも優れている。周囲にいる、会社で活躍し、頼りにされているエンジニアの多くは、このタイプではないだろうか?
仕事の質を上げるためにも、自分の動機を知ることは大切である。自分の動機を把握せずにただ“流行職種”を追って社内異動や転職をしても、異動や転職に失敗する可能性が大きい。自分の動機(自分が何から充実感を得るか)に合った職種を選択することが大切である。ところで、この考えとは逆の発想で、その職種の仕事がしたいので、動機の方を変えることも考えられる。しかし、この方法は難しく、専門家の調査によると動機はだいたい20歳までの生活で決められるようで、その後に大きく変わることはないといわれている。だからこそ、自分に合った職種でパフォーマンスを上げるには、自らの動機を探った方が早い。
自分の動機と仕事の関係
自分の動機は、市販のアセスメントツールを利用したり、自分自身がいままでの人生の中でどんなことに一番充実感を得られたのかを振り返ってみると把握しやすい。ただし、市販のアセスメントツールは個人で購入するには価格が高いので、人材紹介会社などに相談してみてもいいだろう。分析結果によっては、意外に自分に合っていない仕事を選択している人も少なくないはずだ。実は私自身、システムエンジニアに憧れて6年間プログラマーやSE、テクニカルセールスなどを経験した。しかし、実際に自分の動機を分析すると、セールスやコンサルタント系に向いているという結果が出た。その後、偶然人材コンサルタントに転職する機会があったので、このときの動機の分析結果も参考にして転職を決断した。そのおかげか、人材コンサルタントの仕事は自分に合うようで、楽しく仕事ができているようだ。
企業が求める必要な人材は、ハイパフォーマンス型の人材である。しかし、パフォーマンス型の人材といえども、さらにパフォーマンスを上げるためにスキルアップを図り、自分の職種に不足するコンピテンシーのトレーニングをする。多くの人はここで満足することが多いが、自分の動機と合っているかどうかまでを考えている人は少ない。自分自身のキャリアのためには、何よりも動機をしっかり見極めることが一番大切である。なぜなら、動機が合ってない職種の仕事をし、業績を周囲から認められたとしても、自分自身は納得できず、仕事への充実感を持てないためである。この場合、いずれうっ積した不満が爆発して、転職や退職することも考えられる。
これまで、学校や企業がつくったモノサシに自分を当てはめることで、自分の存在をアピールしていた。しかし、これからの時代は違う。企業から必要とされる人材になることは、企業に合わせることではない。自分を見つめ直し、それを見極めることで、どのような企業が自分に向いているかが分かるようになるだろう。
動機とコンピテンシーの関係
動機とコンピテンシーの関係をわかりやすく理解するために、図3を見てほしい。
図3 動機とコンピテンシーによる人材の分類。必要とされる人材は、AとBの人材(円で囲まれた部分)となる |
Aはコンピテンシーと動機があり、仕事はスーパーマンのように何でもでき、自分の能力を十分に発揮できる人材である。プロジェクトマネージャやビジネスリーダー、社内企業家などを想像してもらえればいい。
Bは、動機はあるがコンピテンシーがあまりない人材である。ただし、動機はあるので、コンピテンシーを向上させる仕事の機会があればどんどん力をつけていくタイプだ。サッカーの中田選手を想像していただくと分かりやすいだろう。
Cは、ほどほどのコンピテンシーがあるので、仕事はこなすが動機がないため、自分に無理をして仕事をする人材となる。その結果、仕事の充実感があまりないのでストレスがたまり、意味のない生活を送ってしまう可能性がある。Cは、社内で認めてもらいたいという欲求が高いので、部下には自分のすごさを見せつけ、同僚にはライバル心を燃やし、果てはその足を引っ張ることも考えることがある。さらに上司に気に入られるような行動をすることがある。
職種別による必要条件
企業が必要とする人材は、AとBの分類になる。さらに、職種によってスキル中心なのか、コンピテンシー中心なのか、動機中心なのかを考えなければならない。ここでは、職種別の必要条件を図4として表した。
図4 縦軸が経営の専門度、横軸が仕事の範囲を表している |
中間管理職は、持っている経営スキルで業務の流れや方法をまとめて、部下に実行させる。
スペシャリストは、特定の専門知識を利用しながら業務を確実に実行する。スペシャリストの分野は専門的であるので、コンサルタント的なサービスも行う。いずれもスキルを中心とした職種である。
ビジネスマネージャは、自分で仕事を見つけ、ハイレベルな専門的スキルを利用して顧客にプレゼンテーションを行い、プロジェクト全体をまとめる能力を持ち、人とのコミュニケーション能力も非常に優れている。
ビジネスディレクターは、ビジネスマネージャを統括してながら、新規顧客獲得などセールス的な部分も同時に行う。ビジネスマネージャ、ビジネスディレクターともに、長期間にわたって高い結果を出すコンピテンシー能力を持ち合わせていなければならない。
ビジネスデベロップメントは、ビジネスディレクターのレベルで収益を上げるためのビジネスモデルを作ることができるだけでなく、経営スキルも必要とされる。
社内起業家は、ビジネスデベロップメントよりさらに幅広い経営スキルを利用して、リスクを背負いながらニュービジネスを立ち上げていくことができる。
起業家は、ビジネスそのものに興味があり、自分の意志で業務を行っていく。社内起業家、起業家ともにどんなに極限状態でも強い動機がないと達成はできない。現在は、中間管理職、スペシャリストよりもビジネスマネージャ、ビジネスデベロップメントが求められており、スキル重視からコンピテンシー重視、動機重視へと大きく変わってきている。ただし、その前提にあるのはスキルの存在であり、スキルがないというのは論外である。
経験から感じた“できる人材像”
これまで、私はエンジニア出身の人材紹介業者として、企業に多くの人を紹介してきた。その当時気付いたことは、うまく転職できてキャリアアップできる人は、あまり細いことを気にしない人が多く、それでいて毎日のプロセスを大切にして、ポジティンブシンキングで、いかなる仕事でも自分の成長としてとらえる傾向があるように感じた。ここでは、私がそうした人材と接して感じたことを紹介しよう。
●「人と同じ」より「人と違う」タイプ
人と違うタイプというと、変わり者をイメージするかもしれないが、現状に満足せず、不足しているリソースがあればそれを充足する。また、顧客が何を望んでいるのか、何を提供すればいいのかを、常に頭の片隅に持ち、それを具現化しようと努力する。周囲にこの資格を持っているとか、MBAを取得すれば転職に有利になるとか、とかくありがちな日本人特有の横並び感覚を持たない。人に合わせて生きる人生でなく、自分のすべき使命をしっかり持っている。
●「同じ職種」より「拡張職種」
転職時に年収やポジションが上がっても、同じ職種への転職はしない発想を持つ。これまで積み上げてきたキャリアと少し違うキャリアを追加するような“拡張された”職種で転職を考える。例えば、エンジニアではよくあるが、エンジニアからテクニカルセールスやセールスに転職し、ビジネスマネージャやビジネスディレクターとなって専門的スキルをベースに、説得力のあるセールスを展開する。これまでのコアとなるスキルに、さらにスキルとコンピテンシーを追加して成長できる人材である。
●「いままで」より「未来」
必要とされる人材は、これまでのキャリアや市場動向だけを見るのではなく、この業界や職種はこう変化するのではと、自分なりに仮説を立てながら未来を見ている。未来を見るには、それほど注目されていないころから着目し、ブレイクする変化の兆しを注意深くチェックしている。重要なことは大きな流れを読みながら、とにかく自分の仕事に取り入れることである。未来の動向はある程度ほかの人の考えと同じであっても、これからはこうした製品が必要であるといった、“こだわり”を持ち続けることが大切である。あのダイナブックを発想したアラン・ケイが「未来は待つものではなく、自分でつくるものだと」いったことと同じように。
●「成熟企業」か「発展企業」か
私が転職をサポートしたある人は、数社からオファーをもらい、どの会社に転職するかを決断する際に、業界実績、技術レベルの高い成熟企業を選ばず、リスクがあっても基本的に自分が責任を持て、ある程度自由に仕事ができる発展企業を選択した。それぞれ転職する動機は違うが、企業から必要とされる人材は、自分の行動による実績がはっきりと見えることを好む。それは、実績を出せば出すほど、自分がしたい仕事を自由にできると知っているからである。別に発展企業だけではないだろうが、そうした環境がある企業を選んだ方がいいようだ。
必要とされる人材の行動
必要とされている人材は、自分の1年程度先の詳細なキャリアは決めず、身近なキャリアの目標設定を四半期ごとにしている。ある程度のキャリア設定は行うが、仕事はさまざまな環境によって変化するので、仕事をしながら軌道修正する必要性がある場合は、その段階でタイミングよく軌道修正する。必要とされる人材はキャリア作りも非常に上手であるので、その行動特性を見てみよう。
●職務の拡張
毎日自分のやるべき仕事をこつこつと こなしながら、新しい職務内容を自ら積極的に仕掛けてキャリアを積み上げていく。自分のやるべき仕事をしっかり遂行したうえで、やりたい仕事を少しずつ取り入れる。最終的にはやりたい仕事をメインにできるように社内に働きかけていく。
●ステップアップ
職務を遂行して仕事が成熟してくると、どんな人材でも部分的な仕事だけでなく、全体を自分がイメージしたとおりに仕事をしたいと考えるようになる。次のステップには、ある程度リスクと大胆な行動が必要となる。例えば起業家ならば、必要とされる人材はさまざまな経験が必要であり、ベンチャーキャピタルから資金を集めて簡単に起業できるとは考えていない。起業したばかりのベンチャー企業に入社して、経営的な視点を実践しながらスキル、キャリアを習得し、実績を出したところで、自分の会社を起業する方がいいだろう。
●仕事と直接関係のない人脈づくり
自分の希望した仕事ができるように普段から人脈をつくる。ただし、異業種交流会のような自分のキャリアにあまり結びつかない人脈づくりはしない。また、直接利害利関係がある人脈づくりもあまりしない。今後どう展開するかわからないが、もしかしたら今後のキャリアに結び付くかもしれないぐらいの基準で人脈づくりをする。例えば、実際にあった話だが、未来のソフトウェアについて語るフォーラムがあった。そのフォーラムは、自社製品のことを話さずに、純粋に未来に向けてソフトウェア業界がすべきこと、それに向けてしていきたいことを中心にビジネスの領域を超えて議論した。それだけ参加者自身のフォーラムへの動機付けが明確になるような場となった。その後、ある人がフォーラムに参加した企業から直接スカウトされたことがある。意外なところで転職によるキャリアアップができた例である。
必要な人材になろう!
世の中のモノサシ、会社のモノサシに振り回されず、自ら挑戦する心を持ち、自分らしさを忘れなければ、どのような会社からも必要とされ、楽しく仕事ができるのではないだろうか。よく人事担当者や知人から「いい人材いない?」といわれるのだが、いい人材は当然勤めている企業でも必要な人材のはずだ。必要な人材を採用するため、各企業とも採用プロセスをしっかり考えて実行するが、採用プロセスがどんなにしっかりしていても、トータル5時間以内で採用か不採用を決めるのだから、ある意味ではアバウトなものだ。採用決定者の実力、人格は実際のところインタビューで50%、入社後になってようやく残りの50%が分かるといわれている。入社後、必要な人材となれるかなれないかは、企業側と採用決定者の双方の歩み方によって決定する。
企業側も採用された人材も、お互いの一面だけを見て、人や企業を判断する傾向にあるが、互いを多面的に見て理解することが、いい人材=必要とされる人材になることを忘れないでいただきたい。
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これから必要とされる人材とは | |
I 崩壊する日本型人事システム | |
II 自分でつくり上げるキャリアプラン |
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