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「ITエンジニア不健康伝説」は本当か

「仕事に満足している人」の3つの思考スタイルとは?

堀内浩二
2007/8/20

個人としての関心事

 図6は、個人としての関心事と現状への満足度を組み合わせたグラフです。「満足している」と「不満である」の差が大きなところをいくつか拾ってみましょう。

図6 いまの関心事と満足度のクロス集計(複数回答、N=742)

<スキル>

  • 満足している人は、いまの業務に必要なスキルの向上に関心が高い
  • 満足している人は、次のスキルのトレンドに関心が高い

 満足している人は、現在の業務に必要なスキルを高めるだけでなく、これからのトレンドにも目配りをしている率が高いことが分かります。このあたりに「満足の好循環」の存在がうかがえるのではないでしょうか。

 現状に不満な人が「いまの業務に必要なスキルの向上」に関心を持てない傾向があるのは仕方がないでしょう。しかし将来のスキルトレンドについての関心も低くなってしまっているのは残念なことです。これは同時に、現状への不満が将来の処遇などでの格差につながってしまう可能性を示唆しています。

<自分の待遇・会社の業績>

  • 満足している人は、待遇をいかに上げるかに関心が低い
  • 満足している人は、部門や会社の業績をいかに上げるかに関心が高い

 「すでに十分良い待遇を得ているから関心が低いのだろう」と、因果関係を勝手に推測するのは禁物。いまは「満足している人の思考スタイル」に学ぶべきときです。ここでは、「満足している人は、自分の仕事をビジネス全体の中に位置付けて考えるマクロな視点を持っている」という事実に注目しましょう。

<今後のキャリア>

  • 満足している人は、キャリアチェンジに関心が低い

 「キャリアチェンジ」という言葉はややあいまいですが、一般には職種や業界を変えるような大きなチェンジを指しますね。満足している人は、勝負の土俵を変えることには関心が低いようです。この傾向からは、現在の領域に対するコミットメントの高さを学ぶことができるでしょうか。

現状に対する認識

 同様に、自分を取り巻く環境に対する認識の調査結果から、傾向がはっきりしていて学びがありそうなデータをピックアップしてみます(図7)。

図7 いまのIT業界やこれからの動向に対する認識と満足度のクロス集計(複数回答、N=742)
   

<業界のこれから>

  • 満足している人は、「オフショア開発がますます進む」と思っている
  • 満足している人は、「IT業界はいずれ不況産業になる」と思っていない
 

 将来予測には正解がないので解釈の難しいところですが、個人的な観測を交えて「満足している人の方が現実的・肯定的に状況を見ている」と理解したいと思います。

 オフショア開発に関しては多くの懸念や失敗例が出ています。しかしその多くは「成長の痛み」に類するもので、「ますます進む」こと自体を否定する見解や意見は少数だと、わたしは理解しています。

 また、IT業界の今後についてはさまざまな見方があります。IT業界といっても内部は一様ではないので、(まさにオフショア開発など大きな流れの中で)職種ごとの盛衰はあると思います。しかしマクロに見たとき、日本の他産業と比べてIT業界が不況産業になるという根拠のあるシナリオを読んだことはありません。

 わたしの限られた見聞を基準にするのは気が引けますが、以上を踏まえて「満足している人は現実的に状況を見ており、不確実なものについては肯定的にとらえる傾向がある」と解釈したいと思います。

<今後のキャリアの展望>

  • 満足している人は、「いつまでもITエンジニアは続けられない」と思っていない
  • 満足している人は、「いまの仕事で実績を積めば順調にキャリアアップできる」と考えている

 ここでも満足している人は現状肯定的ですね。今後必要となるスキルのトレンドにも注意を払っているという先ほどの情報と組み合わせて考えれば、満足している人は単に楽天的なだけではなく、先を読んだうえで楽観的な態度を保っていることがうかがえます。

満足している人の思考スタイル

 さて、先ほど「『満足している人』にはある思考スタイルがある」という仮定を置きました。これまでの解釈を踏まえてその思考スタイルを定義するとすれば、下記の3点になりそうです。

1.現実を見据え、肯定的に考えている
現実的に状況を把握したうえで、不確実なものについては肯定的にとらえている。単に楽天的であるわけではない。

2.長い時間軸で考えている
「いま」だけでなく「これから」にも注意を払っている。

3.広い視野で考えている
「自分」だけでなく「部署・企業」の立場でも考えている。

 繰り返しになりますが、今回の調査からは(調査というものの多くがそうであるように)、個人の状況や考えと満足度との相関関係が読み取れるにすぎません。後半では「ある思考スタイルが満足の好循環を生んでいる」という仮説を立てて踏み込んだ解釈をしてみました。もちろんほかの仮説、例えば「良い環境が先に与えられて初めて満足できる」という立場で解釈することも可能でしょう。

 仮説を立て、解釈を引き出し、実際に検証してみる。この繰り返しで自分なりの考えが深まっていくものだと思います。今回の仮説と解釈(思考スタイル3カ条)は強引なところもありましたが、わたしの経験から考える限りではそう外れてはいないと思っています。皆さんはどうお感じになったでしょうか。


筆者紹介
堀内浩ニ●アーキット代表取締役、グロービス経営大学院 客員准教授。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。シリコンバレーに移り、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。帰国後、ベンチャー企業の技術および事業開発責任者を経て独立。現在は企業向けにビジネスリテラシー研修を提供するほか、社会人個人の意志決定支援にも注力している。
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