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覆面座談会:プロマネ経験者が語る
ITエンジニアは育たない!?

下玉利尚明
2003/8/5

エンジニアが育たない。それは本当だろうか。本当だとしたらなぜだろうか。そこで、プロジェクトマネージャの経験者3人に集まってもらい、自分たちの経験、若手エンジニアが伸びるにはどうしたらいいのか、企業はどうあるべきかなどを真夏の夜に語り続けた彼らの“本音トーク”を紹介しよう。

  企業が育ててくれる時代は終わった
自発的に育つ力が求められている

 今回の覆面座談会に参加した3人のエンジニア経歴を、まずは簡単に紹介しておこう。

 伊藤真二氏(仮名、39歳)は、高校1年(16歳)のころから学校でCOBOLやFortranに触れ、その後、大手ソフトハウスに入社、FA(ファクトリーオートメーション)などの制御系システムの構築を手掛けてきた。20代のころの楽しみは、「毎週、月、水、金曜日に仕事を終えて仲間と飲むこと」。徹夜が続き、へばって(疲れて)いても飲み会には参加していた。知的な肉体労働者の集団に囲まれた、ハードな職場だったという。30代で独立し、現在は10名以上のスタッフを抱え、受託開発を中心としたシステム開発会社を運営する社長だ。

 相原高志氏(仮名、34歳)は、大手システムインテグレータ(SIer)から「技術力」で評判の某システム開発会社への転職組。大手SIerでは「単なる担当SE」であることに疑問を感じ、何かを変えたかったと転職を決意。現在、Webシステムやデータベースシステムのインフラ構築を中心とした、ITコンサルタントとして活躍している。

 亀山友男氏(仮名、36歳)は、大手SIerでのエンジニア時代に、各部署から目ぼしい若手をピックアップして水面下で交渉、「給料は低いかもしれないが、仕事の喜びは間違いなく与えられる会社にしよう」と起業。その会社が成功した後、新天地を某IT関連企業のプロジェクトマネージャ職に求めた。

 3人に共通しているのは、いずれも30代中盤から後半で、ITエンジニアとしての現場経験を含め、IT業界におけるさまざまな体験をしてきたこと。しかも、現在の職場では後輩となる若手ITエンジニアを育成する立場にある。3人の現在の職種は、会社経営、ITコンサルタント、プロジェクトマネージャというように異なり、後輩の育成には三者三様の視点を持っている。

 自分自身の経験と照らし合わせて、現在の若手ITエンジニアをどのように見ているのだろうか。まずは、そこから伺ってみた。

伊藤氏 高校卒業後にすぐにITエンジニアとして働き始めた。当時はC言語も一般的ではなく、開発環境は現在のように整っていない時代。自分でフローチャートを書き、リストを出力してチェックしていた。そのときにプログラムを1つ作るにも、「全体を見通せる目」を持たなくてはならないことを学んだと思う。

 当社のITエンジニアを含め、いまの若手ITエンジニアはすべてを画面の中だけで処理しようとする。「打ち込む→バグ→やり直す」の繰り返しで、全体を貫くロジックを組み立てる以前にシステムを構築しようとする。そのため、何とかシステムは出来上がるものの、全体の整合性を保つために、いわば「絆創膏(ばんそうこう)」がペタペタと……。システム構築とは最適解を求める作業。全体を見て、論理立ててから打ち込む手法は、手間がかかるように見えるが、美しいシステムが出来上がる。いまの若手ITエンジニアには全体のロジックを構築する力、システム全体を見通す力が不足しているように感じる。

相原氏 私も駆け出しのころはCOBOLでの開発でした。フローチャートを書き、ソースをプリントし、マシン室で打ち込むような……。確かにそのころは、全体のロジックを十分に考えてからブレークダウンするような考え方で取り組まないとシステム構築はできなかったが、私より3年ほど後輩のITエンジニアは、みなVB(Visual Basic)での開発に変わっていた。

 VBでは、全体を見るよりもある部分を開発するとステップごとに実行してバグを見つけ、それをその場でつぶす、という作業を繰り返す。しかし、それではその部分は解決するかもしれないが、システム全体として見ると、その解決が全体の矛盾を引き起こすこともあり得る。クライアントからの要件をしっかりと整理しないまま、パーツを取りあえず打ち込み、うまく動かないとやり直す……。これでは無駄が多いはず。そういった意味では、確かにシステム全体を見通す力が不足していると思う。

亀山氏 私のやり方は、全体の枠組みとパーツの作り込みを並行して進める手法。その過程で重要なのは、やはり、システム全体を見渡す視点を失わないこと。ただ、システム全体を広く、薄く分かるようなITエンジニアは、いま求められていない。むしろ、ITエンジニアとしては、JavaならJava、というようなスペシャリストが求められている。

相原氏 確かにそう。以前は上流も下流もすべて見られて理解できないとITエンジニア、SEとは呼ばれなかった。ところが現在は、それこそOSI参照モデルのように仕事も階層化され、それぞれで業務も分断されることが多い。極端な話、JavaのITエンジニアはネットワークのことやデータベースのことを知らなくても仕事ができてしまう部分がある。上流も下流もすべてをこなせるITエンジニアを育てるのは無理だとは思うが、スペシャリストという方向性だけでITエンジニアが育つのかは疑問だ。


 確かに「スペシャリスト」といえば聞こえはいい。しかし、現在はプログラムを作るだけといった、いわば単純な作業工程は、インドや中国など海外の開発会社にアウトソーシングするといった流れが顕著になりつつある。いま、自分を「スペシャリストである」と思っているITエンジニアの多くは、アウトソーシングの大きな波に飲み込まれてしまう可能性が高い。そういった危機感を持つことは、若手ITエンジニアにとって不可欠であるはずだ。

亀山氏は、「これからのITエンジニアは、上級SE、コンサルタント、プロジェクトマネージャといった上流工程で生き残るか、カリスマ・プログラマのように『尖がった』部分で生き残るのかの選択を迫られる」と指摘しているほか、受託開発をメインとするシステム開発会社を経営する伊藤氏も「多くのシステム開発会社は、確実に中国やインドとの競争に直面する。うちの会社も同じ危機感を持っている。スタッフには『これからは、中国で開発しよう』ということすらある(笑)。こっちから出て行って、アウトソーシング先になるという選択肢も冗談ではなくなった」と危機感を示している。

 アウトソーシングが進むことの本当の恐ろしさは、単純に仕事がなくなるというだけではない。その過程で、企業側が「若手を育てなくなる」ということもあり得る。つまり、日本人の若手ITエンジニアを雇って、手間暇かけて育ててというのではなく、手っ取り早くアウトソーシングするか、海外から優秀なITエンジニアを雇い入れるようになるというのだ。若手ITエンジニアは、いまや「育ててもらえる」立場にはないのかもしれない。自分で自発的に育っていくしかない時代に差し掛かってきたといえるだろう。

  知識やスキルだけでなく
自分なりの「確かな視線」を持て

 同じ企業の同じ職場で働いていても、「育つITエンジニア」と「育たないITエンジニア」は存在する。両者の違いはどこにあるのだろうか。多くの若手ITエンジニアが、自発的に育たなくてはならないとすれば、この違いを理解することこそ重要かもしれない。「モチベーションの高さ」や「探究心」といったITエンジニアとしての「素養」の必要性は、よく耳にする。もちろん3人も、これらの素養を磨く必要性があることでは一致している。ただ、この素養をもっと具体的にいうとすれば何になるのか。あるいは「素養の磨き方」とは具体的にどうすればいいのか。これについて3人の発言を基に分析してみよう。視点は独特で、一味違うのが分かるであろう。

相原氏 私は視点の持ち方や目線の置き方にいつも気を使っていた。視点や視線の異なる人たち、つまり「段差」のある人たち、上司や先輩、客先の人たちと付き合わないと自分は伸びていかないと考えていた。

 例えば、昼食を食べるとき、できるだけ上司や先輩、客先の人たちと食べるようにしていた。どうしたって仕事の話になるし、そうなると視線が違うから仕事に対する見方の違いも分かる。気が付かない部分を指摘してもらえたり、自分の仕事や自分のポジション、自分のスキルを客観的にとらえるヒントをもらったりした。いま、自分の会社の若手ITエンジニアを見ていると、多くがコンビニで弁当を買ってきて食べている……。せっかくのチャンスなのに「何で?」と思ってしまう。

伊藤氏 私も社員には「年上の人とメシを食え。年上と飲め」といっている(笑)。知識や経験が豊富な人たちと話をするには、自分自身にもそれなりの知識、経験が必要になる。その差を痛感し、埋めていこうとする。それだけのことでも、自分を伸ばすことはできるはずだ。

相原氏 視線の持ち方という意味では、ビジネスとしての視点を持つことも重要だ。例えば、クライアントへのプレゼンテーションの際に、若手ITエンジニアの多くはインターネット上に流れている情報を「正しい」とうのみにしてしまう傾向があるが、それではクライアントに対しコミットメントできない。ベンダのオフィシャルサイトに掲載されている技術情報にしたって、私は必ず電話をかけたり、直接に会いに行ったりして「裏」を取っていた。結果的には正しいことは多いのだが、情報の正誤を確認できるとともに、「ベンダの営業の人と話ができる」ところに本当の目的と意味がある。話をすることで人脈もできる。いま、若手ITエンジニアには「営業の担当者に電話して裏を取れ」と指導しているが、それは、客観的な視線を持つこと、「人脈のパス」を作ることの重要性を理解してほしいからだ。

伊藤氏 ITエンジニアとして、ビジネスの視点を持つことは確かに重要。ある食材メーカーのWebシステムを構築する際に、そのメーカーの商品を食べもしないでシステムを作ろうとするITエンジニアがいた。食べてみて「おいしい」のか「マズイ」のかを感じ、「どうやったら売れるだろうか」までを考えてシステムを構築するという視点がない。しっかり動くシステムを作るだけでは、いまは当たり前。それだけやるのなら、あるいは、それしかできないのなら、それこそ中国やインドのアウトソーシング先とコスト競争をしなければならない。

 クライアントは、システム構築と同時に、その先を求めている。エンドユーザーまでを視野に入れてソリューションを提供するのが本当の意味の顧客志向。だから、もし、コーヒーショップのWebシステムを作るという仕事があれば、まず、コーヒーを飲みに行き、何時間か座って「客の流れを見ろ」「スタッフの動きを見ろ」という。そこから、「このコーヒーショップに必要なシステムはこれだ」と導く。そういった視点、ビジネスの視点を持つだけでも、ITエンジニアとしての仕事振りが変わってくるし、自分を伸ばすことができるはずだ。

亀山氏 大手SIerから独立起業し、まだ名もないベンチャー企業だったころ、優秀な若手ITエンジニアを雇い入れることは困難だった。そうなると、社内で育てていくしかない。その際、多くの若手ITエンジニアには、「技術は一流半でもいい。われわれの仕事がサービス業であることを理解しろ」と、技術者であると同時にビジネスマンであれと指導してきた。クライアントが要求した以上のことを聞き出し、ITで実現するのがわれわれ本来の仕事であるはず。ただ、どうやったら「聞きだせる能力を身に付けさせられるのか?」についてはねぇ……。現場を経験させるしかないのかもしれない。

相原氏 若手ITエンジニアの中に、ORACLE PLATINUMを取得していて、ORACLE DBの知識、スキルでは非常に優れた人材がいる。だが、どうしても自分の技術に頼り過ぎるのか、クライアントの要求をすべて技術で片付けてしまおうとする。技術的に可能か不可能かの判断しかない。不可能であれば、ほかの手法を提案したり、何のための要求なのかを考えて代替案を出すこともしない。見ていると、どうも技術にすがっているような印象を受けてしまう。技術が優れているばっかりに、仕事が守りに入ってしまっている。

伊藤氏 ただ、ORACLE PLATINUMを取得するくらいだから、自発的に伸びようとする素養は持っていると思う。しかし、それを業務に生かせない者は多い。自分に不足しているのは何か、どういった視点を持つべきなのかを教える、気付かせることも重要だと思う。


 ここまでの発言で、1つのキーワードが浮かび上がってくる。それは「ビジネスの視点」である。この言葉は、3人が当初、「いまの若手ITエンジニアには、システム全体を見通す力が不足しているように感じる」と語ったこととも相通じる。ITシステムはクライアントの生産性向上、売り上げ向上のために導入されるのであり、それによって最終的にシステム開発会社などの利益につながる。本来の大きな目的を見失い、知識やスキルの蓄積・習得のみに執着していては、ITエンジニアとしての成長は難しいといわざるを得ないだろう。

 さて、伸びるITエンジニアの素養の1つとして「ビジネスの視点」を持つことが指摘された。ただ、その素養をいかにして磨いていくかについては、亀山氏が「現場で経験させるしかないのかもしれない……」と語ったように、明確な解答が得られていない。伊藤氏は、素養のある若手ITエンジニアを育てられないのは環境、つまり会社にも責任があるとしている。素養に磨きをかけるにはどうしたらよいのだろうか。それは現在、3人が直面している問題、つまり「若手ITエンジニアをどう育成すべきなのか」という会社側の課題といい換えてもいいのかもしれない。

  トラブル対応はスキルアップの宝庫
現場での体験こそが人を育てる

 自動車や家電といったメーカーや各種サービス業も含め、営業の基本は「クレーム処理にある」といわれることがある。営業社員の育成には、クレーム処理を担当させることが、最も「手っ取り早い」というのである。クレームとは、顧客の「本音」である。多くの企業にとっては、ありがたくはないものであるが、ノベルティグッズなどを目当てに顧客が記入するアンケートのたぐいと比べて、商品やサービスについての顧客の本音を聞き出せるのは間違いない。

 裏を返せば、「本当はどう思っているのか」を聞き出すまたとないチャンスである。本音を聞き出せれば、顧客が求めていることも理解でき、的を射た営業へとつながっていく。このことは、ITエンジニアの育成にも通じるようだ。

相原氏 以前の会社では、率直にいうと「できない上司」に育てられたかなぁ(笑)。そのときの上司は、根っからの技術者で本当は管理職になりたくなかった人だったと思う。でも、その上司の言葉で忘れられないのが「トラブルのときにどれだけ頑張れるかだよ」というもの。

 実はこの前、ある企業のサイトのサーバを増強しようと入れ替えたのだが、新しいサーバで苦手な処理があるのに気が付かず、結局不具合が発生してしまった。徹夜で復旧作業をしたが、その際に、自分の部下でそのプロジェクトにかかわっていないスタッフも全員残すようにした。トラブルを処理する過程は、ボトルネックを診断する新しいツールを試してみたり、いままで見落としていた技術的な問題点を深く理解できたりと、いわば「ノウハウの宝庫」といえる。トラブル処理から何を得られるか、何かを得てほしいから残したと説明はしたが、どこまで理解してもらえたかは分からない。

亀山氏 トラブル処理は、本当の「本気モード」になる(笑)。その「本気モード」を出せるように準備しておくのもビジネススキルの1つといえるかもね。

伊藤氏 制御系システムの開発をしていたころ、「ファイヤーマン」と呼ばれるITエンジニアたちがいた。何かトラブルがあると、それに応じて各部署から数人ずつピックアップされてくる。知識やスキルが優れているだけでなく、体力勝負で選ばれる人もいた(笑)。ある意味ではITエンジニアの「晴れ舞台」。まさに江戸時代の火消しと同じ。そこで学ぶことも多いし、何よりもやりがいがあるし、実力も発揮できる。若手には、トラブルを楽しいと思えるような「ファイヤーマンになれ」といっている。

相原氏 トラブル処理は、私の感覚では「学園祭前夜」。皆がハイテンションで全員が一丸となって「仕事をしてるッ」と実感できるから(笑)。それを楽しめるかどうかが、もしかしたら伸びるITエンジニアの素養といえるかもしれない。

 今回のトラブルでスタッフ全員を残したのと同じように、クライアントとの打ち合わせの場にも、できるだけ若手ITエンジニアを連れ回すようにはしている。できれば客先常駐をもっとさせたいと考えている。が、最近は常駐をいやがる若手が多い。クライアントとずっと一緒にいることで、学ぶべきことも多いはずなのだが。

伊藤氏 確かに常駐はつらいと思うね。やはり、「苦しい」けど「楽しい」、だから「大好き」といえるくらいにならないと。そういえるのも重要な素養の1つかな。

亀山氏 私も「聞いているだけでいいから」とクライアントとの打ち合わせの場に若手ITエンジニアを連れて行く。肌で感じてほしい。若手を育てるこれといった決め手は正直にいってないののかもしれないが、客先常駐も含めて「まず、野に下れ!」というのが私の信条。クライアント、パートナーシップを持つ会社のITエンジニアなどと直接に接触することで、自分の視線、考え方、知識、ITスキルなどをすべて客観的に見つめることができる。自分を客観的に把握できれば、そこから伸びていくための戦略も立てられる。

  何をいっても動かないダメなエンジニア
それでも会社や上司は育てる責務が

 3人はともに若手ITエンジニアの育成に苦慮しているようだ。現状では相原高志氏のように、できる限り現場に連れ出し、経験を積ませることが最も効果的なように思える。その一方で、伊藤氏は「企業が明確なキャリアパスを示してあげる必要もある」と指摘する。

伊藤氏 素養のあるITエンジニア、ポジティブな人は放っておいても伸びる。問題は何をいっても「動かない、動けない者」(笑)。仕事の目的は何か、家族を大切にしたいのか、高い給料を望むのか、仕事に喜びを見いだそうとしているのか。そんな動きだすようなスイッチを探っても反応がない。

 そのような人材を切ってしまうのは簡単だが、社員として雇った以上は育てる責務が会社にはあるはずですよね。例えば将来、経営者になりたいのか、副社長のようなポジションで技術職のトップに立ちたいのかというように質問し、技術のトップになるのは何年後が目標か、そのためには5年後までにここまで技術レベルを上げる必要があるというようにブレークダウンしていく。いわば、戦略を立てさせて、そのうえでいま不足しているスキルについて、ITスキルかビジネススキルかヒューマンスキルかを一緒に考える。どれかをケアできれば、相乗効果を生み出し伸びていけるはず。若手ITエンジニアが育たないのは、伸びないITエンジニアと同時に育てられない会社や管理職のスキルにも問題があると思う。

亀山氏 企業がITエンジニアのキャリアパスを明確にしてあげるのは確かに重要だね。ただ、その企業の環境が「ぬるま湯」であると、キャリアパスそのものが外の世界では通用しないものになってしまう。ITエンジニアとしては、自分の市場価値を客観的に把握する努力も不可欠。自分の市場価値を知ったうえで、自分なりの戦略を立て、そして仕事に臨む。いまの若手ITエンジニアには、戦略がないかもしれない……。

相原氏 ただ、25、26歳の「生意気盛り」の若手ITエンジニアが自分を客観視するのは難しいと思う。何よりも経験が少なすぎる。やはり、現場に出ること、そして、クライアントやほかのIT関連企業のエンジニアと接触することが重要だろう。生意気なのはウェルカムで、そのうえで経験を積み上げていけるように、どんどん外に出て行くべきだ。

伊藤氏 確かに自分を客観視できない若手ITエンジニアは多い。本人は一生懸命やって、しかも、「できている」と感じていても、会社の判断は「結果が出ていない」という、いわばギャップが生まれてしまうのもそのため。そのギャップを埋める作業も会社には必要だ。

 自分を客観的に見つめ、戦略を立てる。一方で、企業側には伸びる環境を整備すること、特に現在では若手ITエンジニアにとっての最も身近な先輩となるマネージャを育成することも重要となるだろう。ただ、それらの環境がしっかりと整えられたからといって、本当に若手ITエンジニアは育つのだろうか。それに対する3人各自の意見を以下に紹介しよう。

伊藤氏 若手ITエンジニアは「育つ」。会社を経営している立場からすると、会社は社員を愛すべきだし、愛しているのなら育てるべき。ITスキル、ビジネススキル、ヒューマンスキルのどれが不足しているのかを気付かせてあげて、不足を補い長所を伸ばせば相乗効果で必ず伸びると信じている。

相原氏 企業側では、マネージャクラスの教育が重要になるだろう。若手ITエンジニアは、早いうちから外に出て経験を積むこと。自分を客観的に見られるように訓練すれば伸びていく。

亀山氏 マネージャ教育も必要だが、同時に若手ITエンジニアも戦略を立てるなど意識改革は必要だ。

 この座談会を通じて、若手ITエンジニアが育つための「特効薬」を示すことは、残念ながらできなかった。ただ、変化の激しいIT業界で生き抜こうとする多くの若手ITエンジニアが伸びていくための、いくつかのキーワードは提示できたのではないだろうか。

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