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エンジニアの夢を実現するには?
特別企画:決断できる自分をつくろう


下玉利尚明
2003/5/30

 アーキットが提供する「起-動線」は、転職や起業を考える社会人のための「意志」決定支援ツールである。仕事の内容に満足できるか、年収が上がるのか下がるのか、果たして将来への展望は開けるかどうかなど、転職や起業を決断する際には、さまざまな思いが頭をよぎる。

 それは、エンジニアが自分のスキルアップやキャリアパスを真剣に考え、悩む姿とも相通じるのではないだろうか。多くのエンジニアが漠然とした不安を抱えているいま、エンジニアたちが意志決定を下すための指針をどうしたら持てるのだろうか。その回答の1つが、起-動線にあるという。それはなぜだろうか。そして、それと自分戦略との関係とは? それらについてアーキット 代表取締役の堀内浩二氏とマットマーク・アイティ 代表取締役藤村厚夫が答える。

  転職や起業、そして自分を考えるとき
大切なのはポリシーを明確にすること

 「起-動線」の基本コンセプトを紹介するには、開発者である堀内氏の略歴を説明する必要があるだろう。堀内氏は、ITコンサルタント会社のアクセンチュアで8年間、コンサルタントとして第一線で活躍したキャリアを持つ。その後、日本と米国のIT関連の合弁会社設立に参画。

アーキット
代表取締役堀内浩ニ氏


早稲田大学大学院理工学研究科(高分子化学専攻)修了。アクセンチュア(当時アンダーセンコンサルティング)にて、多様な業界の基幹業務改革プロジェクトに参画。1998年より米国カリフォルニア州パロアルトにてITベンチャーの技術評価プロジェクトに携わった後、グローバル企業のサプライチェーン改革プロジェクトにEビジネス担当アーキテクトとして参画。2000年に帰国、ソフトバンクと米国VerticalNet社との合弁事業において技術および事業開発を担当。

 しかし、社会人10年目を迎えようかという2001年の暮れ、わずか1年半で合弁会社は清算した。「ベンチャーに飛び込んだからには3〜5年は頑張ろうと思っていた」という不完全燃焼の思いから、その後の再挑戦を決めたという。それが現在のアーキットだ。

堀内氏 自分が欲しかったサービスを事業にしたようなものです。起業でも転職でもおカネでも、専門サービスはかなりそろっていますが、自分が何かをやると決めて動き出す、その部分は『自己責任』なんですね。専門家に頼っても『どれを選ぶかはあなたの生き方次第です』といわれるわけです、当たり前ですが……。

 しかも、「重大な決断だから時間をかけて考えよう」というわけにもいきません。例えば知人のツテで急に転職の話が舞い込んだとします。今月中に決めてほしい。そのときにどうするのか。誰でも日々、大なり小なりそういう選択を積み重ねています。どうせ自己責任ですから、あらかじめ自分なりの判断基準や視点を定めておいて、なるべく後悔しないようにしたい。そんな理由から、自分のポリシー作りに着目した「頭と心を整理する」ツールを提供してみたいと考えました。

 膨大な情報の波に飲み込まれてしまうと、いつの間にか自分自身が進むべき道筋を見失ってしまう可能性があるという堀内氏の指摘は、転職や起業を考える社会人のみならず、スキルアップやキャリアパスに悩むエンジニアにも当てはまる。

藤村 私が気になるのは、堀内さんが起-動線を開発し、起業した当時の社会的背景と個人が自分が生きていくうえでのシナリオを真剣に考えたときの社会的・経済的な文脈です。1999年から2000年にかけては、IT業界ではエンジニアが不足する、ITインフラも不足するとまだまだ声高に叫ばれている時代でした。エンジニアを「生めよ増やせよ」という時代(笑)。その当時に生み出されたエンジニアがいま、淘汰(とうた)の波に飲み込まれて苦しんでいる。エンジニアを取り巻く環境は大転換した。社会的・経済的な文脈に振り回されていては、エンジニアは決して幸せにはなれない。そこで、@IT自分戦略研究所を立ち上げたのです。

アットマーク・アイティ
代表取締役 藤村厚夫


アスキーで『netPC』『アスキーNT』編集長を歴任。その後、ロータスに転じ、マーケティング本部本部長に就任する。同社退社後、アットマーク・アイティを設立し、現在に至る。最近、読んだ『フリーエージェント社会の到来』に「上司や組織に対するタテの忠誠心に代わって、ヨコの忠誠心が生まれた」という主張に出合い痛く感銘したという。

堀内氏 私もITバブルの崩壊に直撃されたクチですが(笑)、藤村さんのおっしゃる通り、ITエキスパートは社会全体の状況変化とIT業界固有の両方の荒波をかぶってますよね。もちろん、悪いことばかりじゃありませんが。そういうものの影響は、1人ひとりのライフステージによって違うと思います。

 例えば私の年代ですと、結婚したり子どもが生まれたりして、ワークライフバランスを考えるようになります。 最近、ITバブルを経験したシリコンバレーの労働者たちの記事を読んだのですが、特に30代を中心にして、人生における仕事の位置付けを問い直しているというくだりがありました。これを読み、起-動線を作りながらコツコツ考えてきたことが、大きな文脈にはまった感触がありました。自分戦略というのはまさにいま、世界中で意識され始めていると思います。

 外的要因に振り回されずに、自分自身と真っ向から向き合う……。転職、起業を目指す人も、スキルアップやキャリアアップを目指すエンジニアも、まずはそこから第一歩を踏み出すべきなのではないだろうか。@IT自分戦略研究所、そして起-動線のコンセプトは、そこでオーバーラップしている。

  挑戦する目標と自分のポリシーを
同時並行で明確化していく作業

 それでは具体的に、起-動線をどう利用したらよいのだろうか。起-動線は、簡潔に述べるならば、「大事なことの選び方、決め方」をサポートするフレームワークであり、その中核をなすのは「自分ナビ」作成プログラムである。起-動線では、転職や起業に限らず、何かをする(しない)と決めるときの視点を3つに絞り提示している。1つ目が「個人の視点=自分を知る・伸ばす」、2つ目が「社会人の視点=自分を活かす」、3つ目が「生活者の視点=基盤を豊かにする」である(図1)。

図1 何かをするときに重要な3つの視点

 「自分を知る・伸ばす」では、自分の置かれた社会的状況からいったん自分を切り離し、自分の価値観を知り、その価値観に沿って行動できるように強みを伸ばすことが必要と説く。「自分を活かす」とは、社会人として、職業人として、あるいは地域社会への貢献者として自分を考えるという視点である。「基盤を豊かにする」とは、心身の健康を維持すること、健全な家計を築くなど、生活の基盤を豊かにすること全般を指している。

 この3つのキーコンポーネント(視点)で好循環をつくり出そうというのが狙いである。「好循環のイメージが具体的に描ければ、人は転職や起業に思い切って踏み出せる。逆にいえば、自分を知らず、経済基盤も豊かになるとも分からずに新たな世界に踏み出せる人はいない」というのが、堀内氏の論理だ(図2)。

図2 3つのキーコンポーネントで好循環を作リ出す

 そして、好循環を実現するための、いわば「訓練の場」として提供されているのが「自分ナビ」作成プログラムといえるだろう。

 「自分ナビ」作成プログラムは、「チャレンジの設定」→「情報収集」→「判断基準」→「ロジック」→「決断」→「コミットメント」のステップで構成されている(図3)。

図3 「自分ナビ」作成プログラムのステップは、意志決定のステップをベースにしている

 「自分を知る・伸ばす」、「自分を活かす」、「基盤を豊かにする」という3つの視点は、「情報収集」のパートで生かされる。3つの視点に沿って、自分自身の内面に焦点を当てて情報を集め、自分を見つめ直すのである。次に集めた情報に基づいて自分自身の判断基準、価値観を明確にし、ロジックを作り込む。ロジック作りとは、いわばシナリオ作りで好循環が描けるかどうか、チャレンジによって何を得て、何を失うのか、シナリオを書くことで明確にしていく作業である。そして、「決断」し、その決断を実現するために継続的にコミットメントを行うという展開となっている。

 この一連のステップを「自分ナビ」作成プログラムはワークシートで提供してくれる。1つ1つのステップを自分自身と向き合いながら作り込んでいくという、ある意味では手間も時間もかかり、根気が必要な作業であるが、転職や起業といったチャレンジを実現させるために、最初に越えなければならないハードルといえるのかもしれない。

 「自分ナビ」作成プログラムの特徴は、最初に「チャレンジ」を設定するところにある。「個人の場合には、チャレンジを設定することが意外に困難なのです。チャレンジの設定には価値観、ポリシーが重要となってくる。しかし価値観をどう持てばいいのか分からない人も多い。そこで、実現できるかどうか分からない『夢』でもいいから、とにかくチャレンジを設定し、これらのステップを一回りしてみる。一回りしてみる過程で、自分の価値観やポリシーがより明確になれば、その後に、最初に設定したチャレンジを設定し直してもいい」(堀内氏)

 多くの自己実現、自己啓発のセミナーや書籍に当たると、その多くが自分の価値観に基づく「目標の設定」が最も重要であると説いている。そのことは真実ではあるが、それを額面どおり、言葉どおりに解釈してしまうと、多くの人は目標設定の段階でくじけてしまうのも事実ではないだろうか。目標を設定するには確固たる価値観、ポリシーが重要となり、また、価値観、ポリシーを明確にするには「なりたい自分」という目標が必要になる。両者は「どちらが先にあるべき」といったたぐいのものではなく、同時並行で確立していくべきものであるとしたところに「自分ナビ」作成プログラムのユニークさがある。

  「この道に進め」とはいわない
決断できる自分を作り上げる支援

 さて、@IT自分戦略研究所の母体の1つとなった@ITのEngineer Lifeフォーラムの第4回 読者調査によれば、90%以上のエンジニアが自分の将来に対して漠然とした不安を抱いているという。藤村は、「その漠然とした不安が、お金なのか職場の問題なのか、または、スキルなのかキャリアなのか……。少しでも明確になれば具体的な対処方法が見えてくる。その支援のために@IT自分戦略研究所があると位置付けている」と語る。「自分ナビ」作成プログラムは、ポリシーを明確にするフレームワークであるが、裏を返せば不安を明確にしていく作業ともいえる。ポリシーに基づく意思、明確になった意思と不安やリスクとの兼ね合いを考えることで、はじめて決断に踏み切れるからだ。

藤村 社会的には若年層のフリーター志向が指摘されているが、一方では、望んでフリーターになったと思える人でも内面には不安を抱えているのが実情です。その不安がどこから生まれてくるのか。不安の源泉を明確にするプロセスがない。個人が不安を明確にし、客観視できるような仕組みを持たないと社会全体に不安が充満してしまう……。「なんだか不安ですっきりしない」というマスヒステリーの一歩手前のような状態となる危険性もあります。これは、IT業界を生き抜こうとしているエンジニアにも同じことがいえます。

堀内氏 1つの企業に依存し続ける生き方が現実的ではないとすると、ある種の不安定さや不安と付き合うことは避けられません。不安の正体を見つけ、口に出していってみて、人に叩いてもらう。厳しいが、そういった作業なしでは自分は確立できません。「自分ナビ」作成プログラムでは、チャレンジに臨む自分をイメージしたときに、ポジティブな「期待」とそうでない「覚悟」を洗い出すのですが、どちらともいえないものを「不安」として明らかにしていきます。

藤村 それは、自分との対話といい換えてもいいかもしれませんね。その訓練を私たちは受けてこなかったんですね。取りあえず不安を口に出すのもいいでしょう。お金だ、仕事の内容だ、スキルだ、と口に出してみると、そこからもう一段、掘り下げて考えるようになります。多くのエンジニアに、@IT自分戦略研究所がそういった作業のよりどころとなり、自分の夢を実現するための具体的なステップを見つけ出すために利用してほしいですね。起-動線との協業にはその狙いがあります。

 夢を実現するには、まず「己を知れ!」ということかもしれない。そして、その過程で大切なことは、社会・経済的な背景や自分の外に判断基準を求めてしまうと外部要因に翻弄されて自分自身を見失ってしまう危険性があるということだ。

藤村 IT業界には、どうしても「Webアプリケーションを知らなければエンジニアにはあらず」といったように、時代時代に技術的な流行が生まれ、極論に走りがちになってしまう傾向があります。しかし、正解が1つしかないような世界、産業界は決して健全には発展していかないだろうと思うのです。多くの正解が切磋琢磨(せっさたくま)することで競争原理が働き発展もします。

 @IT自分戦略研究所も、エンジニアに「唯一絶対の解」を提示しようとは思っていません。幅広い選択肢があることを知らしめ、その中から個人が自分にとっての正解を導き出せるようなツールでありたいですね。方向性を示すのが第一義かと。

堀内氏 エンジニアと学習というのは、切っても切れない関係にありますが、学びは投資なんです。学んでいる間は価値は生まれません。学んだことを現場で生かし、評価を受けて、初めて価値が生まれます。投資として考えれば、自分の時間とお金と労力を、何にどれだけ投じ何を期待するかを判断する「学びのポートフォリオ」を自分でつくらなければならないはずです。なぜなら計画は必ず修正されますから(笑)。「考えて、動いて」を繰り返しながら、いまの自分の方向を見失わないようにしたいものです。

藤村 人生は偶然の連鎖かもしれませんね。しかし、その中でも自分のロジックで判断した結果であれば、たとえ成功でも失敗でも何かを導き出すことができます。IT業界で生きるというのもある意味では自己投機だと思うんですね。IT業界という大海の中で、エンジニアとしての「自分の歩み」を残せるように方向性を示す。格好よくいえば、航海の指針となる北極星を示すことがわれわれの使命だろうと思うのです。

 アーキット(起-動線・「自分ナビ」作成プログラム)と@IT自分戦略研究所は、多くのエンジニアに対して方向性を示すため、今後協業していく。ただし、どの方向に進むかを決断するのはあくまでもエンジニア個人である。「この道が正解」という解答は出さないし、出てこない。「自己との対話」を抜きにして道筋が見えてくることはないのだ。

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