ストレスと上手に付き合うために
ITエンジニアにも重要な心の健康
第8回 「うつ」をタブー視する必要はない
ピースマインド
カウンセラー 谷地森久美子
2004/6/24
エンジニアにとっても人ごとではないのが心の健康だ。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。 |
■うつ病は「心のカゼ」
先日、私のもとにカウンセリングを受けにきている方がポツリと語りました。
「うつって“心のカゼ”といいますが、その表現って間違いだと思うのです。カゼなら、すぐに治るじゃないですか……」
その方は、(ある医師に)うつ病と診断された後、いくつもの心療内科を渡り歩いたといいます。そして、2年近く経過してから、やっと信頼できる医師に出会い、その先生の紹介でピースマインドに来所されました。
身近な病気の1つであるカゼは、軽くみてこじらせると肺炎になることもあり、抵抗力が弱い乳幼児や老人の場合は、命を落とすことすらあります。ある程度の体力を持った人が“いつもと違う”微妙な変化に気付き、状態が悪化する前に十分な栄養や睡眠を心掛けたり、大事になる前に病院に行ったりすれば、すぐに治る病気といえるのです。
うつ病に関しても同じことがいえます。1人で何とかしようとせずに、うつ病が初期の段階で誰かのサポートを求めたり、適切な診断や処方ができる医師のもとに出向き、ある時期しっかりと治療に専念すれば、確かにカゼのように回復することができます。
■放置しておくと回復に時間がかかる
反対に、「何となく、おかしい」状態をそのまま放っておいてはいけません。放っておけばおくほど“いつもの調子”に戻るには、それ以上の時間がかかってしまうからです。
心を地球に例えると、太陽に照らされている明るい部分は「これが私だ」と頭で分かっている側面です。一方、地球の裏側になっている部分は暗くてよく見えません。しかし、その部分も“意識していない私自身”なのです。
つまり、心には明と暗(光と影)の側面があるといえます。現代は効率・スピードを重んじる時代です。常に「上へ、上へ」「速く、速く」――。特に企業で働く人は、いつも緊張して息を抜けない環境下にあります。
しかし、より高くより速く、明るい太陽だけを目指していると、心の見えないところでひずみが生じ、ある日突然あなたを「ぐっと暗闇に引きずり降ろそう」とする働きが起こることがあります。
昼があれば夜もある。陽が転じて陰になる……。心がバランスを取ろうとした表現の1つが「うつ」といえるでしょう。
■「うつ」をタブー視する必要はない
ここで大事なことは、せっかく、あなたの体と心がうつのサインを出しているのですから、うつを悪者・忌み嫌うものとして一面的に対処しないことです。もちろん病院で治療していくことや、薬を飲むことは必要です。
しかし、それだけに終始してしまうと、うつの種がさらに奥の方に隠れてしまい、まさに「根深く」なってしまいます。何年も通院しながらも、うつの症状がだらだらと続いていたりするのは、そのためです。
日本の社会、特に組織で働いている人の間では、自分の心と体の微妙な変化や、言葉にしにくい微妙な感覚を話題にすることは、暗黙のうちにタブー視されています。いつの間にか、「価値(意味)がないこと」と決めつけたり、「青い(成熟していない)」「女々しい」「神経質・過敏」などと、周囲から評価されたりするのではないかという恐れが生じるからです(と同時に、自分の感覚に耳を傾けることに集中すると、逆に仕事ができなくなってしまうためとも考えられます)。
■心が発するメッセージに注意する
いまや「病院」という枠組みの中でさえ、自分の症状や病気に対する気持ちや思いを丁寧に話す機会が狭められているのが実情です。
私たちを取り囲む、このような状況の中で、自分の心や体が発する大事なメッセージ(感覚)について手間暇かけること――。1人で行うのは難しいことが多いため、心や体の中の“小さな声”について安心して語り合える家族や友人、パートナーのような存在が、皆さんにはいらっしゃいますか。
仮に自分にはそういう存在がいない方も、心配はいりません。安心してください。そういうときこそ、心の専門家であるカウンセラーを活用してみましょう。
うつという表現は何を伝えているのか。上を目指しすぎていないか。それとも自分の中のエネルギーを現在の自分が十分発揮できず、くすぶらせてしまったために結果的にうつになったのか。
皆さんの中にも、現在調子を崩されている方がいらっしゃるかもしれません。「うつ」をきっかけにして、「太陽に照らされている明るい世界(現実生活)」と「いままで見てこなかった側面」――その両方に対して、親しみと関心を持って生活をしていくと、心と体、全体の健康へとつながっていくことでしょう。
もし、「うつになったかな」と感じたときは、うつを“タブー視”せずに、信頼のおける医師のもとで治療を受けることをお勧めします。
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