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自分戦略研究室 Book Review

ストレスや心の病を知るための6冊

加山恵美
2003/10/18

 今回は心の病を医科学的に解説した本を6冊紹介しよう。現代ではストレスや過労で体はおろか、精神までを病むことがある。エンジニアとて無縁ではない。それどころか、開発現場が試行錯誤や紆余(うよ)曲折で混とんとし、現場のエンジニアに過重な負担が強いられる場合もある。また、PCなどを長時間使用する弊害とストレスとの関係も無視できない。

今回取り上げた本
専門医が語る よくわかる こころの病気
よくわかる自律神経失調症
なぜこの人は、自分のことしか考えないのか 神経症のことがわかる本
「心の悩み」の精神医学
人格障害かもしれない どうして普通にできないんだろう
絶望がやがて癒されるまで

 ストレスを心配し過ぎてストレスを生むなら本末転倒だが、ストレスが体や心をむしばむことへは日ごろから多少警戒しておきたい。

 これまで、日本においては長らく「心の病」はタブー視される領域でもあった。それで今回は、初心者にも分かる範囲で科学的な根拠を示しているものや、不安だけが残らないように治療や対策まできちんと言及してあるものを選んだ。これらの本から一般的な知識を得、今後の対人関係などに役立ててもらえればと思う。

  まずは心の病の概略を知る

専門医が語る よくわかる こころの病気

遠藤俊吉、森隆夫著
成美堂出版
ISBN4-415-01664-2
2001年3月
1000円(税別)

 初心者にも分かる範囲で、あらゆる精神的な病や障害の分類が大まかに記されている。単にうつ病や神経症といっても、原因や症状から多岐に分類される。これらを医学の専門家の立場から簡潔に解説してある。専門的な用語や症状が多く表で整理されており、概略的な知識整理に役立つ。

 今回紹介する本の中では、扱う範囲が最も広い。本書で挙げられているのは、分裂病(現在では統合失調症というようだ)、躁うつ病、神経症、心身症、外因性精神障害、依存症、痴呆といった「病気」とされるものから、性格異常や無気力といったものまで幅広く簡潔に解説している。

 また本書は医師が執筆していることもあり、脳波測定やカウンセリングなどにおける治療の最新事情を紹介したり、医師に相談するときの注意事項も記載してある。医師の立場から、そうした困難を早期治療するには何に注意しておくべきか、克服する過程でどのような心構えを持てばより効果的なのかなど、アドバイスがある。

 後半の一部でストレスそのものについての解説に紙面を割いている。自分がストレスの渦中にいれば気付きがたいが、医学的側面から客観的に解説している。筆者である医師はアドバイスとして、ストレスは時に不可避ではあるが「うまく付き合えば怖くない」という。悪循環に陥り深刻な症状や致命的な結果をもたらす前に、どうにかして早期治療を受けるなり、うまく自己制御できるようにしたいものだ。

  自律神経失調を克服する

よくわかる自律神経失調症

根岸鋼監修
ナツメ社
ISBN4-8163-2965-X
2001年5月
1000円(税別)

 本書は自律神経失調症に焦点を当てて解説してある。本書も豊富な症例と、各症状の原因や器官との関連性を図説している。また自己チェックシートもあり、初期の自己診断の目安となるだろう。巻末には自律神経失調症の治療が受けられる病院リストが付いている。

 さて、自律神経失調症とはどんな病気か。交通事故に例えると、車(各器官)には故障がないのに、居眠りやスピードの出し過ぎなどで起きる問題と考えられる。つまり、問題は運転する側にある。体を制御する神経の不調により、健康なリズムが乱れてくるのが自律神経失調症だ。

 自律神経失調症の場合、日常生活や仕事に支障を与えるほどではない「なんとなくだるい」といった漠然とした不調が長期化したりする。また、頭痛、肩こり、めまい、どうき、不眠といった複数の症状が絡み合うことも多い。そのため原因を特定するには根気を要するという。ちなみに明確な異常が特定できず不調が続くのは「不定愁訴」と呼ばれる。

 本書は治療法やセルフケアについて多く紙面が割かれている。治療法ではまず医師の選び方から、どんな治療方法や薬が処方されるかまでが解説してある。医療機関で治療をするときに併せて参考にするのもいいだろう。また、セルフケアの部分では日常生活を改善したり豊かにするヒント、ストレスや不調をうまく回避したり対処する手軽な方法などが提案されている。特に、ITエンジニアは過度のストレスに加え、PCの長時間使用で自律神経失調を引き起こしやすいとのいわれているので要注意だ。

  苦手なあの人は神経症かもしれない

なぜこの人は、自分のことしか考えないのか 神経症のことがわかる本

加藤諦三著
PHP研究所
ISBN4-569-62681-5
2003年2月
760円(税別)

 本書はこころの病気の中でも特に神経症に焦点を当てて解説している。ただし今回紹介する中で本書のみ、著者が精神科医ではなく心理学の専門家で、ラジオのテレフォン人生相談なども行っている。

 1冊目に紹介した「専門医が語る よくわかる 心の病気」では神経症の諸症状に並び、性格異常が記されている。そこでは性格異常には「自ら悩む」タイプと「社会を悩ませる」タイプがあり、ともに精神病質やいずれかの人格障害と分類されている。本書はそこでいう「社会を悩ませる」タイプのメカニズムを重点的に解説したものともいえる。

 神経症の典型例では、非現実的で壮大な願望を追求したり、自分の悩みで頭がいっぱいとなり、迷惑は顧みず周囲を振り回すことがあるという。そうした横柄な態度故に人間関係が空回りして、さらに悩みが増えて悪循環に陥ることもある。周囲からは「身のほど知らず」で「わがままな人」と片付けられてしまうが、その原因には過度のストレスが原因で心の健康を害したことや、発育の過程で十分なふれ合いが足りなかったことも考えられると著者は指摘する。

 「はしがき」には「神経症を理解することは人間の本質を理解することなのである」とある。迷惑な人間の言動から、多くの人間がひそかに持つ本質に気付かされることがあるのかもしれない。本書の最後には、どうしたら底なし沼のような不安や悩みから解放されるのか、そうした人とどう接するべきか、処方せん(アドバイス)がある。

  悩める人の自己回復力を導く

「心の悩み」の精神医学

野村総一郎著
PHP研究所
ISBN4-569-60017-4
1998年6月
660円(税別)

 本書は精神科医が8人を題材に、パニック障害、うつ、PTSDなど具体的な症例を解説する。心の病という難しい問題を扱いながら、率直で、小気味よく皮肉や冗談も混ぜるので読みやすい。著者の人情味も伝わってくる。

 精神科医である著者は、本書以外に「うつ」に関する著作を多く執筆している。治療経過の描写は心の病を扱う難しさが克明に記されている。著者の治療方法を見ると、投薬といった一般的な医学的手法も使うが、主に対話から深層心理に潜む問題点を見いだしていく。大切なのは患者の悩みに徹底的に付き合い、自己回復力を導き出すことだそうだ。

 うつの治療では、演技あり、投薬あり、ち密に言葉を選んで相談に臨み、あらゆる手法を駆使する。実直で驚かされるのは、患者の自殺についてだ。どんな名医でも精神科医をやる以上、患者の自殺とは無縁ではいられない。そのことについて「後味はもちろんひどく良くない。これはもう明らかな精神医療の敗北である」と正直に告白している。これは、患者が人生の崖っぷちから落下するかしないか、そんな水際での死闘を常に繰り広げているからいえるのだろう。著者は根気強く患者と向き合うことで、結果的に患者の自殺願望を静止したりすることに成功している。著者の医師としての実力と信頼性はかなり高いと確信できる。

 医師ではない読者でも教訓となるのが、悩める人との会話で使うテクニックだ。本文からいくつか見いだせるだろう。特に悩みを聞くときは下手に賛成も反対もせず、とことん聞いて理解を言動で示すことが大切だそうだ。相談者を通じて見た現代社会についての分析もとても説得力があって参考になる。

  正常な人格とは? 人格障害とは?

人格障害かもしれない どうして普通にできないんだろう

磯部潮著
光文社
ISBN4-334-03194-3
2003年4月
700円(税別)

 本書は冒頭の記述どおり「人格障害の概念を明確にし、人格障害を分かりやすく解説」している。最初に「人格」の言葉の意味を考察し、解説にはアメリカ精神医学界の診断基準であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)を用い、刑事事件を通じた人格障害者の考察には判決文を引用したりと工夫している。また実在の人物を例に取り、人格障害の光と影の部分をよく解説している。最終的にはそうした人とどう接するかのアドバイスもある。

 本書のDSMの記述は今回紹介する中で最も詳しい。DSMの変遷から功罪に至るまで言及している。本論では人格障害を10のタイプに分け、具体的なDSM診断基準も明りょうに示している。それぞれの性質や症状、治療の困難さやアプローチ方法まで異なることが分かる。

 人格障害の中で、最も特徴的で患者数も多いとされる境界性人格障害について、詳しく解説している。境界性人格障害に共通して見られる特徴として、(1)見捨てられることへの不安、(2)不安定な対人関係、(3)同一性障害(言動や性格に一貫性がない)、(4)衝動性、(5)慢性的な空虚感、が挙げられる。だがこうした弊害と同時に創造性のある能力も持ち合わせていることが多いという。

 例えば尾崎豊は境界性人格障害、三島由紀夫は自己愛性人格障害の診断基準を満たすと著者は分析する。加えて「破天荒な人生が存在したからこそ彼らの天才は輝いた」と彼らの人生を説明する。彼らの功績は人格障害の光の部分といえる。こうした人格障害の治療は長期にわたるが、生きてさえいればいつかは安定化すること、また周囲は否定的な部分だけに振り回されず当人たちの可能性も考慮すべきだと著者は主張している。

  心の病にはやみだけではなく、光も存在する

絶望がやがて癒されるまで

町沢静夫著
PHP研究所
ISBN4-569-54266-2
1994年2月
1310円(税別)

 最後の1冊にはせめて「癒し(いやし)」を求めてみよう。本書にはうつ病診断チェックが添付されているものの、専門的な論調にはなっていない。哲学に触れて考察するという、ほかでは見ないアプローチも興味深い。

 本書では『人格障害かもしれない』と同様、実在の人物が持つ人生の光と影について言及している。繊細な感性を持つ人間たち、その中でも宮沢賢治や芥川龍之介など歴代の文豪を題材にしている。特に高村光太郎と妻の智恵子の人生を詳しく追う。その論考は実に生々しく、彼らの葛藤が伝わってくる。高村光太郎の作品を違う視点から見ることができるだろう。

 それぞれの芸術家たちの作品が証明するように、彼らには偉大な功績がある。創造性の高さや作品を生み出すエネルギーは彼らの魂からあふれる光ともいえよう。しかし同時に、そうした感性の高さ故の「もろさ」や苦痛も存在してしまう。芸術家の多くが非常に危ういバランスの上に存在する人生を歩んだ。これは心の病を抱える人間たちにも共通した特徴だという。

 悩むことは確かにつらい。悩みすぎて命を落とす危険すらある。だが、悩みながら自分を見つめることができるのは人間故だからではないだろうか。悩むことは絶望だけではないことを気付かせてくれる1冊だ。

■     ■     ■

 あらためていうまでもないが、一般的に病気とは心身に異常が生じ、日常生活に支障を与える状態をいう。それが心となると、発見や治療は単純ではない。障害がありながらも自覚せずに生活できる人もいれば、逆に「自分は病んでいる」と信じ込み回復が進まない人もいる。心の病とは存在を認知することすら難しい。

 これらの本を読んで、それぞれの症例から自分との共通点を見いだすこともあるだろう。だがそれを「自分もいずれは心の病に……?」とむやみに脅えないようにしてほしい。何もないのに「病気がある」と錯覚して、本当に病気になってしまっては目も当てられない。もちろん本当に病気の可能性があるならば、事態が深刻になる前に早期治療に向けて適切な対策を講じるのが望ましい。

 加えて、心の病に対する否定的な一般概念を懸念すべきだろう。凶悪事件が起きれば、犯罪者を人格障害と疑い精神鑑定をする風潮がある。ここから人格障害に否定的な印象を持つ人も少なくないだろう。確かに凶暴な人格障害も存在する。だが一方、心の病を抱える多くの人たちが想像を絶する苦しみに耐えて生きていることも忘れてはならない。

 また、社会問題との関連性もそうだ。確かに社会問題の背景に心の病は存在するが、それらは病める社会の症状の1つと見なすべきではないだろうか。つまり、心の病から社会問題が生まれるという発想は順番として正しくないと私は思う。心の病は何かの悪循環が進行する過程に見られる悪い兆候であり、根本原因はもっと深いところにあるのではないだろうか。これらのことも踏まえて、今回の6冊が心の病を考えるきっかけになればと願う。

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