ストレスと上手に付き合うために
ITエンジニアにも重要な心の健康
第14回 レーシングマシンのような生き方を考える
ピースマインド
カウンセラー 谷地森久美子
2005/3/10
エンジニアにとっても人ごとではないのが心の健康だ。ピースマインドのカウンセラーが、毎回関連した話題を分かりやすくお届けする。危険信号を見逃さず、常に心の健康を維持していこう。 |
■体調不良を繰り返す
体調を崩したときに表れる症状は、不眠・入眠困難・食欲不振・胃かいようなど、人によってさまざまだ。
ある人は症状として体に表れ、ある人は精神的につらさを感じる。どちらにしても、体調を崩したら病院で診察を受け、病名を聞き、薬を飲んだり休養を取ったりすることが、一般的な病気の治療法だろう。
そのような治療が大事であることはいうまでもないが、今回はそこから一歩進んで「どうしてこの病気になったのだろう」と問い掛けることを考えてみよう。それは自分の生き方を振り返ることにもなる。
ある人のケースを見てみよう。
「このごろ体調が思わしくないのです。体に自信が持てません」と語るのは、IT系企業に勤める糸川さん(仮名・32歳)。27歳で派遣社員として採用されてから、スキルと経験を身に付けるためなら労力はいとわないという気持ちで、日々業務に携わってきた。
派遣という不安定な立場なこともあり、気が付くと派遣の同僚が姿を消していることも珍しくない。そんな浮き沈みの激しい世界で糸川さんが生き残っているのは、ある特定領域における豊かな知識と作業の早さに定評があるからだ。
ところがここ1、2年、体の調子がいまひとつ良くないのだ。元気なときとそうでないときのギャップが激しい。数カ月に1回は決まって高熱を出して胃腸障害を起こし、10日間ほどまったく動けなくなってしまうのだ。
そういう状態が続いてもなお、糸川さんは「仕事をしているときだけ、生きているという実感が持てるのです」という。胃腸障害から回復すると、それまでの分を挽回するかのように働き始める。自分の仕事が忙しくない時期であっても、ほかの人の問題処理にまで手を出し、われを忘れるほど仕事に没頭する。結果としてまた体調を崩し、症状が再燃する。そんなことの繰り返しだそうだ。
■レーシングマシンのような生き方
自分の体をいたわるという発想がまったくない糸川さんを見ていると、筆者はレーシングマシンを思い出す。
レーシングマシンは信頼性・耐久性を犠牲にし、勝利を追求している。少なくとも筆者にはそう思える。
例えば一般ドライバーが一般車に乗り、サーキットを何周か走ったとしても、故障することはあまり考えられない。ところがレーシングマシンは、エンジントラブル、ブレーキトラブル、ミッショントラブルなどで止まってしまうことも珍しくない。勝利最優先のハイリスク・ハイリターン型なのである。
一方、一般車は故障せず安全であることを第一に考え、速さよりも信頼性・耐久性を重んじる。ローリスク・ローリターン型である。
糸川さんは数カ月ごとに、マシントラブルが続いて走れない時期と、走れなかった分の遅れを取り戻すかのように尋常ではないスピードで走る時期とが交互にある。まさにレーシングマシン的生き方だ。
■自分が本当に望む生き方は
レーシングマシン的生き方は、ある意味では刺激に満ちあふれ、充実した人生なのかもしれない。しかし、そんな生き方をしていると事故が絶えず、いつしか車体、つまり体がぼろぼろになっていくだろう。レーシングマシンなら代わりの部品はあるが、人の体は取り換えが利かないのである。
人にはそれぞれ生き方がある。レーシングマシン的生き方も1つのありようであり、良い悪いの評価をするものではないだろう。歴史上の人物や偉人を見ても、激しく短く生きている人もいれば、穏やかに長く生きている人もいる。
しかし、自分の生き方について考えてみることは必要だろう。あわただしい生活を送る中、ついつい時間に流されてしまいがちだが、時には目をつぶって深呼吸をし、自分自身に問い掛ける時間を持ってみてほしい。
自分はレーシングマシンか一般車か。
自分の生き方にはどんな傾向があるのか。
周囲の期待に応えているだけということはないか。
自分が本当に望んでいる生き方はどんなものか。
生き方の傾向を自覚すると、自然と自分が本当に望んでいることが姿を見せたり、悪循環から抜け出すための方法が浮かんだりすることがある。
このことは、自分をいたわる1つのアプローチとして、心に留めておきたいものだ。
筆者が日本経済新聞 夕刊で連載している週刊コラム 「こころのサプリメント」を参考にしている |
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