第5回 年末大放談 「なぜ私たちはやせられないのか」
千葉大輔（＠IT自分戦略研究所）
2007/12/27
■自炊で食事をコントロールの幻想
こんな2人の会話を「この人たち、何をいっているんだろう」という目をしながら話を聞いていたのは宮本さんだ。宮本さんは高校生のころに太っていたが、大学生にとなり、1人暮らしを始めてから自炊で食事をコントロールしながら、ダイエットしたというつわもの。そんな人の目には、自炊をしているのにもかかわらず、食材があればあるだけ使ってダイエットできないわれわれが、ダメな存在と映っているだろう。
しかし、われわれにもいい分がある。鷹木さんは過去を振り返りながらこう語る。「昔住んでいた家の近くにファミレスがあって、安くてそれなりのボリュームの料理が食べられた。そのため、しょっちゅう通っているうちにどんどんと体重が増えてしまった。いまは近くにそういったものがないので、自炊をしているけど、同じようにファミレスがあったらもっと体重が増えている」。
「これはだめそうだ」。宮本さんと荒井さんの目にはあきらめの色が広がったが、筆者も鷹木さんの主張に大いにうなずいていた。「これがダメな理由だろう」と気付いていても、ここはうなずくしかないのだ。
筆者も社会人になりたてのころは外食が多くなり、半年で10kgほど体重が増えてしまった。いまあれほどまでに体重が増えない、また体重が現状維持できているのは自炊とダイエットのおかげなのだ……と信じたい。
■食品に過度の期待を抱きがちなダイエッター
ダメダイエッター2人の苦しいいいわけはまだまだ続く。「だって僕らは魚介類（野菜）とか結構食べているから……」。「そんな、いっぱい食べたら一緒じゃないですか」。荒井さんの正論が胸に突き刺さる。どうも、ダイエットがうまくいかない人の話を聞くと、食品に対して過度の期待を抱いていると感じることが多い。「魚（野菜）をよく食べています」「このお茶は脂肪を分解するのです」「○○はダイエットにいいらしいですよ」確かに少量ずつ食べていればそれなりの効果が出るのだろうが、度が過ぎれば意味がない。それを見失っているのだ。
食事に対して、ああでもないこうでもないと理屈をこねていたそのとき、「でも、食事のときが一番幸せなんだよね。なかなかその幸せを我慢できない」。筆者の口からつい本音が漏れ出した。とどのつまりは、「ここで満足」というラインをうまく引けずに食事を、飲酒を我慢できないそんな精神力の弱さがダイエットの結果に反映されているのだった。
■2人の反省会だったはずなのだが
さて、ここまでで「僕たちって何てダメなんだろう」ということがさらされてしまったが、ここでもう1人の出席者である荒井さんにダイエットについて聞いてみた。しかし、そこにはわれわれの耳を疑うような答えが待っていたのである。
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| 筆者に体重増の理由を説明する荒井さん。「肥満は伝染する」といわれて、さっぱりリアクションが取れない筆者。目が泳いでいる。決して酒によるものではない |
「社会人になってから体重が増えています。ダンスが趣味でレッスンにかよっているんですけど、運動するとどうしてもおなかがすいて食べちゃうんですよね。実家住まいで普段は、家族が食事を用意してくれているのですが、やっぱり忙しいので、ついつい外食に頼ってしまって……」
あれ？ 今日は突っ込み役として招いたのに……。君もか……。さっぱりとしたメニューを頼んでいたのは自分のためでもあったのだね。そう思いながら荒井さんに生暖かい視線を送っていると、
「これは千葉さんに問題があるんです！」。荒井さんは強い口調で筆者を攻め立ててきた。筆者のダイエットがうまくいかないことと荒井さんの体重にどんな関係があるのだというのか。荒井さんは一枚の紙を筆者に差し出した。Webニュースを印刷したそれには次のように書いてあった。
「肥満は人から人へと「伝染」する、ハーバード大学医学部が研究報告」
何でもその記事によると「肥満の友人がいる場合は肥満が悪いことだという認識が薄れ、それは普通のことなのだとする考えが浸透してしまうことが肥満が人から人へと「伝染」する原因になっているのではないか」という。にわかには信じられない……。
「そんな人のせいにするなんて……」と筆者は荒井さんを見た。しかし、そこにいたのは、筆者や鷹木さんと同じ目をし、同じ空気をまとっている1人の女の子であった。もう何もいうまい。筆者はすでに何杯目か分からない酒を飲み干し、深いため息をつくのであった。
2人の反省会のつもりがいつの間にか3人に……。残る1人の冷ややかな視線を受けながら3人は「来年こそは」と誓うのだった。
（いや、その先送り精神が失敗なんだって）
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