第4回 ムカつくけどしょうがない【最終回・社会復帰編】
豊島美幸
2008/9/19
■「ムカつくけどしょうがない」――職場のみんなはあきらめろ
「てんさんは宝塚歌劇が好きなんだよね」とツレさんが振ると、「そうなんですよ」と、細川さん。笑顔がとてもチャーミングだ |
前回詳しく触れたように、うつ病患者は自分の心を自分の意志で制御できなくなる。まして他人の心情を思いやって行動するのは至難の業。誰の心も推し量れないから、周りの目には、本来の性格とは関係なく「自分勝手な嫌な人間」に映る。
そんな人間が職場に帰ってくると「職場の雰囲気が悪くなるんですよね」と、細川さん。「でも職場のみなさんは、『病気のせい』を合言葉に理解してあげてください。ムカつくけどしょうがないってあきらめることです」。超然という彼女は、パートナーがうつになったことですっかり悟っているようだ。
とはいえ先述のように、中途半端にかかわるのは一番危険。職場では、周りの人が「『私が冷たく接するのは、ビジネスライクだから』と、復帰してきた本人に「ビジネスライク宣言」を先にしておくのもいいかもしれません」と、ツレさんが提案する。そうすれば「冷たくされた。自分は必要とされていない」と、本人が追い詰められるのを防げるはずだ。「同じことを家族の人がいうと、本人が見放されたと受け取ってしまうんで、この対処法は職場の人限定です」
ただし、職場のみんなが適切に接するためには、復帰してきた本人がうつ病だったことを知っているのが大前提。自分の弱い部分をビジネスの場では絶対見せたくない――そんな人もいるのではないだろうか。「確かにいるかもしれません。でもいつまでもカミングアウトできなくて、うつによる諸々の行動で周囲から浮き、悪循環にハマる人もいます。周囲も対応しやすいから、カミングアウトはした方がいいですよ」と、2人はいう。
■職場復帰した患者が最初にする仕事は「焦らず治すこと」
「PCが急速に普及してからうつの人が増えた気がします。PC社会とうつって関係ある気がしませんか?」と、問いかけるツレさん |
そもそも患者が職場に復帰するサインは医師の許可だ。復帰していいですよ、とゴーサインを出されて復帰する。「困るのは自分だけで判断する場合か、医師に偽ってまで診断書を書いてもらう人です」。仕事をしようと焦るあまり、そこまでしてしまう人がいるという。
「そういう人ほど『もう治った。大丈夫』って口にするんですよ。でも見ていると、張り切っている人ほど治ってないですね。メールでも『もう治りました。大丈夫です』って報告が来る人に限ってまたダメになるパターンが多いです。本人は治った落ち込んだ、って1人で上下しているので、周りの人はそれに流されず、一定の距離感を持って観察しておく必要がありますね」
焦るあまり時期尚早に職場復帰する人は、基本的にはマジメな性格なのではないかと2人は分析する。「マジメなことはいいんです。でもだましだまし職場に行っても、浦島太郎なわけだから結局みんなに迷惑かけるだけ。半端にマジメなのではなく、本当にマジメに仕事をするとはどういうことなのか、考えてほしいですね」。ツレさんは問いかけて続ける。
「焦っちゃダメです。自分がいない状態でみんな働けている状態から職場に加わるんですから、みんなを観察するまたとないチャンスなんですよ。浦島太郎になった違和感を楽しんでみてください。職場復帰して最初にやる仕事は、焦らず病気を治すこと。それでもまだ無理そうだと思ったら、復帰が早いってことなんで、もう一度休めばいいんです」
「僕にとって今は余生。生きてるだけでもうけもん」 |
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