成果を生み出すコーチング

第2回 コーチングで強いチームを作る

小田美奈子
2006/3/30

コーチングやファシリテーションは、IT業界でも積極的に取り上げ、活用している企業や個人も多い。そこで本連載では、コーチングやファシリテーションなどのヒューマンスキルを活用している人を取り上げ、その事例を紹介していく。

 今回は、インターネット総合サービス企業に勤務する中川朋子さん(33歳)が取り組んだ事例を紹介します。

 中川さんは、同社の20〜30代メンバーを対象に「強いチームづくり」を目指して、コーチングを導入しました。

 コーチングは、“人が本来持っている能力や可能性を最大限に発揮させることをサポートするシステム”で、対話を重視する質問型のコミュニケーションであることが特徴です。自ら考え、自ら行動する自律型人材を育成するためのアプローチとして、ここ数年、注目されています。

中川朋子氏のプロフィール:1972年生まれ。教育行政の取材記者や人文系の書籍編集などを経て、2003年よりインターネット総合サービス企業にてマーケティング業務に携わる。2002年よりコーチングの勉強を始める。2005年より、JICCC(日本企業内コーチコミュニティ=企業内にコーチング文化を築くことを目指す人の団体)に参加。財団法人生涯学習開発財団認定コーチ/日本コーチ協会東京チャプター会員

1人1人の力をつなぎ、チームの力を最大化

小田 もともと社内でコーチングを取り入れようと思ったきっかけはどのようなことでしょうか。

中川 入社して1年半くらいたったころ、内部の事情や社員の様子がよく分かってくるようになりました。そのときに、社員1人1人の力が、点になってしまっていると感じたんですね。点で動いているために、課題を1人で抱え込んでうまくパフォーマンスを発揮できなかったり、問題を解決できなかったりする状況がありました。

 ちょうど、コーチングの勉強も進んでいたこともあり、自分のやってきたことを伝えられると思ったのと、社員が横でつながるようになるために、コミュニケーションを円滑にするコーチングを取り入れてはどうかと思いました。

 中川さんが社内へコーチングを取り入れることを提案したきっかけとなったのは、2004年にある講演会で聞いた「自ら機会をつくり、機会によって自らを変えよ」という言葉でした。リクルートの社是であるその言葉を聞き、自分でやらないといけないんだ、と思ったのです。

 社内で実施することへの壁は感じたものの、ほかにも自分の考えを深めるエピソードが続きました。決め手となったのは、業務上でかかわりがあった他部署の社員に、「中川さんのリソースがもっと活用されるといいですね」といわれたことでした。自分のリソースとは何かと考え、社内でできることを挙げていったときに、コーチングがあると気付いたのです。

小田 コーチングを取り入れることで、どのような姿になることを目指しましたか。

中川 1人1人の力(点)がつながって、大きな力になればいいなと思いました。

 会社が創業されて間もないので、いろいろと土台をつくらないといけない時期であり、試行錯誤もあり、スムーズにはいかないことが多いですよね。

 そんな中で、社員がアイデアは持っているけれども、どのように具体化していいか分からない、という状況をよくしていきたいと思ったのです。

 対話を重視するコーチングを取り入れることで、1人1人が横につながって、強いチームになることを期待しました。その結果、社員がよりいきいきと働けるようになり、健康であることを目指しました。

リーダーの育成にコーチングを活用

 その後、中川さんの上司であるAさんに、社内にコーチングを取り入れることを提案。ちょうどAさんも、リーダー層を含め、若年層が多いメンバーの経験不足を感じていました。また、リーダー層が各自の努力で育成を行っていたという状況から、リーダー層の育成に関して何らかのサポートが必要であるという背景がありました。

 そんな中、Aさんが対話の中から答えを引き出していく“コーチング”の手法を知ったこともあり、その場で試験的に実施することが決まりました。

 決め手は、コーチングを取り入れることで下記のような成果を期待できるとの判断があったためです。

(1)リーダーとメンバーのコミュニケーション量が増えること
(2)メンバー自身の考える力を養えること
(3)リーダーの部下を育成する力のアップ、リーダーシップを発揮できるようになること

 2005年1月、同僚の協力を得て、まずはクリエイティブ部門、メディア部門に属する20代後半〜30代前半のリーダー層12人を対象にコーチング研修を行いました。

小田 研修では、具体的にどのようなことを行いましたか。

中川 参加者はマネージャ候補のため、マネジメントの視点を持ってもらうことを目的に、部下の力を引き出す手法としてコーチングを紹介しました。

 テーマは「チーム力アップ〜コーチングスキルでコミュニケーションを豊かに」「マネジメント力を磨く〜リーダーはビジョンを描く」「やる気を育てる」で、コーチングの基本スキルである「聴く」「質問する」「承認(認める)」「ビジョンを描く」などを紹介しました(全3回、各回1.5時間)。

 出席したリーダーたちは、スキルを実際に練習する場面でも積極的に参加し、熱心に取り組んでくれました。

 その後も営業部門のマネージャ、新卒社員のトレーナー、スタッフ部門を対象に実施。リーダー層には「リーダーシップ」をテーマに定期的に実施するなど、研修対象は広がり、受講者数は延べ150人となりました。

   

今回のインデックス
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