成果を生み出すコーチング

第4回 コーチングで風土改革に挑戦

小田美奈子
2006/7/7

コーチングやファシリテーションは、IT業界でも積極的に取り上げられ、活用している企業や個人も多い。そこで本連載では、コーチングやファシリテーションなどのヒューマンスキルを活用している人と、その事例を紹介していく。

 今回は、システムインテグレーション、ソフトウェアの設計・開発などを手掛けるNECネクサソリューションズ:NEXS(社員数2800人)の人材開発部にて、人材育成、教育研修プログラムの企画・運営を担当されていた中島英幸さんのお話を伺いました。

中島英幸氏のプロフィール:1960年生まれ。1983年、日本電気(NEC)入社。人事畑や海外勤務を経て2002年、NEC関連会社5社の合併に伴い、NECネクサソリューションズ人材開発部 人事・人材開発総括グループマネージャに就任。2006年4月より、日本電気 コーポレートコミュニケーション部所属。CTIジャパンコーチング応用コース修了、米国CCE認定GCDF-Japan。

お客さまとの信頼関係の構築などを目指す

 中島さんが2006年春まで所属していたNEXSは、NECグループ5社の合併により発足した組織です。中島さんは、合併会社の融合・飛躍をミッションに、人事採用教育統括、全社風土改革プロジェクト事務局長などを担当されました。

小田 中島さんが合併当初に感じていた課題や、社員にこうなってほしいと思っていたことはどんなことでしたか。

中島 1つ目は、顧客の課題に対して、SE(システムエンジニア)と営業が一体となって、価値のあるソリューションを提案していけるようになることです。そのためには、常に部門間や職種間のチームワークが求められます。そのときに必要になってくるのが、チームの一体感やお互いに対話できる関係や共通の価値観など、風通しの良い文化です。

 2つ目は、IT業界は非常に変化が激しいため、トップの号令一過ではなく、社員1人1人が、日進月歩の変化に柔軟に対応して、自律的な判断や前向きな気持ちで物事を進めることが求められます。

 3つ目は、営業もSEも、お客さまとの間にパートナーシップを構築することが必要であり、そこで一番重要なのは信頼関係です。

 4つ目は、マネジメントが非常に難しくなってきていることです。いまのマネージャは、プレーヤーとしての技術的な勉強や最先端の知識などのスキルを持ちつつ、部下のマネジメントやモチベーションの向上も図るといったプレイングマネージャ的な要素が求められています。技術が進歩していることで、部下の方が最先端のことを知っている場合が多い。昔のように経験の積み重ねだけでものをいうマネジメントはできなくなっています。部下の持っている意見の方が正しいときがあるかもしれません。ということからも、部下の話を聴く必要が出てきます。

 これらを総合すると、相手の話を聴くというコーチングスキルの要素が、マネジメント、プレイング、部門間連携、お客さまとの関係などのすべてにおいて必要とされています。

小田 コーチングのどんな部分が特に有効だと思われましたか。

中島 コーチングは、お互いの信頼関係を築いて、対話によって課題を解決していきながら、最終的には、クライアント自身が自律的な意思決定を促していけるプロセスです。もともとはカウンセリングを研修に組み込み、職場のマネジメントに生かしたいと考えていましたが、コーチングは、信頼関係を基に、課題をきちんと設定して、行動変革に生かしていこうという要素が加わっているので、企業内に展開していくのに非常にいいと思ったのです。

「自律分散型」組織を目指す

小田 実際の取り組み内容についてお聞かせいただけますか。

中島 社内の調査を通じて見えてきた課題を基に、「社員自らが課題認識をし、その課題を解決する企業風土・文化・体質の会社にする」ことを活動の目的としました(図1)。コミュニケーションの向上とモチベーションの向上を目指し、そのための手段として下記の3つに分け、これらを2004年から1年半かけて取り組みました。

図1 社員に「いわれたことをこなす力」だけではなく、「自ら気付き、考え、動く力」を醸成する取り組みを実施することにより、会社全体として1つの方向に向かって進みながら、社員が自律的に判断・行動していく自律分散型組織を目指した

 コミュニケーションの向上とモチベーションの向上を目指し、そのための手段として下記の3つに分け、これらを2004年から1年半かけて取り組みました。

(1)技(コーチングスキルを身に付ける)
(2)場(コーチングスキルを発揮する)
(3)観(コーチングスキル発揮状況を評価する)

着手期:2004年下期〜2005年上期

中島 手順としては、まずはコーチングを体験しようということで、そのための「場」を作りました。いきなりスキルの教育や研修をしようとすると、社員にやらされ感が出て、コーチング研修の効果が半減してしまいます。研修を大々的に導入しても、それを職場に持ち帰って実際に生かすのは大変だと思ったからです。

着手期での「場」の取り組みの詳細

(A)オフサイトミーティング(全社価値観共有)

 部門間の横断的なコミュニケーションの場。10人くらいで実施し、自己紹介をしながら、仕事の課題なども話す。自分たちの思いや、漠然と感じる疑問点を具体化して、解消していくことで、モチベーションも上がり、職場内の連携も高まる。

(B)プロセス改革運動(自主的横断的ボトムアップ小集団活動)

 部門内で、上司は外し、現場のメンバーだけで日常、職場の中で問題になっていることやこうすればもっと良くなるなどを話し合う場。

(C)研修後のグループコーチングサロン(マネージャ&主任クラスのコーチング研修のフォローアップ)

 コーチング研修後に受講者同士のグループコーチングを2週間に1回実施。問題をみんなで聞き、コーチングの意識を日々忘れないようにする仕組みとして実施。

(D)ハッピーアワー(時間外に小1時間職場でビール懇親会)

 前向きなことのみ話す。何かを生み出すというよりは、コミュニケーションを深めるための場。

   

今回のインデックス
 成果を生み出すコーチング(4) 1ページ
 成果を生み出すコーチング(4) 2ページ

 

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