第2回 行動に磨きをかけてチャンスをつかむ
樋口研究室
飯田佳子
2009/11/16
「自分は正しく行動している」と考えていても、評価者がそう感じていなければ、あなたの評価はあなたが納得する形でなされない可能性が高い。評価者に考え方を変えてもらう? もちろん、それは不可能ではないが、はっきりいって非常に難しい。むしろ、自分のビュー(視点)を相手のビューにチェンジ(変化)させた方が楽だ。 |
不況下でも、ここ一番というチャンスは来るものだ。そういうときに限って、打って出るための人材や商材がない。しかし、みすみすそれを逃してしまうのは惜しい。なんとかそれを活用したい。そういうときの、ビューチェンジを使った行動方法を考えてみよう。
■案件に入れたい若手社員
今回、登場するのは、中堅ITサービス会社で受託営業をしているAさんだ。
Aさんの会社は、期末になると案件が終了して、本社に戻ってくるエンジニアが増えるという。戻ってきても次の案件がないと、そのエンジニアは待機(案件待ち)要員になる。
待機要員が多くなると会社はもたない。だからAさんは毎日、多数の顧客にアクセスし、次の案件を探し出し、待機要員を出さないようにしなくてはいけない。そういう大変な仕事をしている。
先日、ある開発案件があった。2次請け案件だが、元請けがエンジニアを探しているという。うまくいくと、次の案件も受注できる可能性がある。だから、どうしてもこの案件が欲しい。
「誰をこの案件にアサインしようか……」。Aさんの頭に、真っ先に浮かんだのは、ある若手社員だ。この社員はもう3カ月間、本社のイスを温めている待機要員だ。
しかし、この若手社員は1つ気になる失敗をしている。それがもとで、Aさんはこの若手社員を案件に入れるのが、後回しになっていた。
Aさんがわたしのところに来たのは、そういうときだった。
■バランスの悪い若手社員
(若手社員の)失敗とはどういうものか、Aさんに尋ねた。
3カ月前のことだ。ある元請け先がエンジニアを探していた。Aさんは、この若手社員を採用してもらうために、元請けの面接に連れて行った。そこで“事件”が起きた。
若手社員は約束の時間に現れなかったのだ。連絡がまったく取れないため、若手社員に何が起こっているのか、まったく分からなかった。そのため、Aさんは(若手社員が)来ない理由を面接官にうまく説明できなかった。原因は人身事故による電車の遅延だった。予期せぬ原因での遅刻であり、若手社員に非がないとはいえ、原因を告げずに元請けの面接官を待たせてしまったことは事実だった。
面接の最中も若手社員の態度は良くなかったらしい。若手社員は面接官の質問に困ってしまうと、沈黙して、まったく動かなくなってしまうのだ。若さがない、覇気がない、明るくない。これではこの若手社員を雇いたいと思わないだろう。
そして面接の最後に「見えた」もの。スーツの肩の上に白いものがポツポツと……。フケだ。している腕時計は文字盤がスケルトン(透明)だし、持っているカバンはプラスチック製の書類ケースだ。じっくり見ると、身なりのバランスが悪い。
まずいな……。Aさんは直感的に思ったそうだ。若手社員を観察する面接官には、全部、見えていただろう。そう思うとAさんは「今回はひょっとしてダメかも……」そう感じたそうだ。
そしてその日の夜、元請けから入った連絡は「もうちょっと、まともな人を……」だったそうだ。
事情はだいたい理解できた。Aさんは若手社員に「君はそれでも社会人なのか!」と喝を入れたいと思っていた。しかしこの若手社員は、とてもマイペースだ。待機要員をゼロにしたい会社の事情なんて理解できないだろうから、自分のいうことは通じないだろう。Aさんはそう思っていた。
■仕事に問題のない若手社員
わたしには、もっと気になることがあった。この若手社員に仕事を与えても、本当にうまくやっていけるのか? その方が心配だった。
だがAさんがいうには、若手社員はけっこうまじめに仕事をするそうだ。依頼はきちんとこなすし、納期も守る。技術力も悪くはないらしい。
本当にそうなのか? だったらわたしがこの目で、若手社員の仕事ぶりを見てみたい、そう感じた。そこでAさんに若手社員に会えるようにお願いしてみたところ、Aさんは快く引き受けてくれた。
若手社員は、会社がオフ(休日)のときにわたしを訪ねてきた。どんな若手社員が来るのか、かなりドキドキしたのだが、わたしは若手社員を見て驚いた。
若手社員は、カジュアルな身なりだった。髪はワックスで固めている。Aさんのいっていたスケルトンの腕時計とプラスチックの書類ケースを持っている。この場面では、まったくおかしくない。逆に小ぎれいで、カッコいいではないか……。
若手社員は、次々と案件に放り込まれ続けていたらしい。だからいままで、仕事の手順やマナーについて、教えてもらうことはなかったという。
数十分ほど会話して別れたが、そんなに悪くないエンジニアだ。これなら若手社員は、うまくやっていけるかもしれない。
だったら、若手社員を面談で落ちないように立ち居振る舞いに磨き上げて、とにかく待機要員から脱出させよう。きっちり指導すれば、面談で光る。わたしはそう感じた。Aさんもこれに同意してくれた。
■磨く作業をスタートさせる
わたしは、以下のようなことを若手社員に提案した。
例えば、電車の遅延のような突発トラブルがあってもいいように、いつもより30分早く家を出て、事故があったら携帯メールや電話で、すぐに知らせる。相手から質問されても沈黙はやめて、とにかく「分かりません」や「う〜ん」でもいいので、声を出すなり体を動かすなりして反応する。面接のときは、髪や眉を整える。髪を染めるのはダメ。アイロンをかけたワイシャツを着る。カバンはAさんが貸す。クツは磨く。腕時計はなくてもよい。
まったく基本的なことだが、若手社員に、これを躾(しつけ)るようAさんにお願いした。
しかし若手社員が、これを実行するかどうかは別の問題だ。いま、できていないことを実行するのは、それなりの覚悟がいる。何か1つでよいので、若手社員の行動を促すきっかけがいる。わたしはそう感じた。
そこでわたしは、Aさんに提案した。若手社員に「この案件を逃したら、わたしたちの賞与がなくなるかもしれないぞ……」、そんなふうに耳元でささやいてください、そういう提案だ。Aさんは、やってみると約束してくれた。
面接の当日、Aさんの行動は緻密(ちみつ)だった。面接の時間は午前9時だが、2時間前に若手社員と本社に集合。そこで若手社員に「返事」と「うなずき」を忘れない練習を実施。会場のロビーに到着したら、髪と服装と持ち物をチェック。
そして面接の直前だ。Aさんは若手社員にささやいたそうだ。「社運は君にかかっているからな……」。若手社員は、とても緊張したそうだ。しかし、面接は無事に終了し、案件は獲得できた。Aさんの思っていた以上に効果が出た。
■行動を磨いてチャンスを手に入れる
流れに身を任せ、一生懸命やるだけでは、仕事はうまくいかない。時々流れてくる流木(チャンス)をきっちりつかんで、目指す方向に微調整しながら進むことで成功に近づく。
しかし、チャンスはいつ来るか分からない。それなら積極的にチャンスを拾いに行ってほしい。ビューチェンジは、そういうときの手法として使える。
今回のキーワードは「磨く」だ。人の行動が鈍るのは、3つの原因があるといわれている。「遅い」「汚い」「守らない」だ。こういうときには、それぞれに逆転のビューチェンジをかけてほしい。そうすれば、鈍った行動に磨きがかかり、そこから突破口が見つかる。
図1 鈍った行動に磨きをかける |
1.「遅い」を改善する
遅いのなら、行動を遅延させている余計なものを突き止める。そしてそれを取り除いて「速く」する。
2.「汚い」を改善する
汚いのなら、変(奇妙)に見えるとか、不自然に感じるものを突き止める。そしてそれを取り除いて「きれい」にする。
3.「守らない」を改善する
守らないのなら、破られても問題が出ないように、2重、3重の対策を練る。そして、その対策ですべてを「固める」ようにする。
磨くときは表面だけでなく、内面もきちんと磨くこと。これを忘れないようにしてほしい。
筆者プロフィール |
飯田佳子●樋口研究室の認定IT コーチ。会社では、プロジェクトの品質管理の仕事をしている。システム構築には技術やプロセスも重要だが、もっと重要なのは人間の品質アップ。そう信じて、日々、社員のパフォーマンス向上を目指している。 |
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