有限会社NTX 野口和裕
2005/11/30
SEこそ、ファシリテーションが必要だという。そもそも、ファシリテーションとは何だろうか。そしてSEになぜ、ファシリテーションが必要なのか。それを解説しよう。 |
■SEに役立つファシリテーション
SEの皆さん、会議やミーティングに費やす時間はどれぐらいですか。
顧客との打ち合わせ、プロジェクトの進ちょく会議、部内打ち合わせ、営業会議……。すべてを合わせると、かなりの時間になるのではないでしょうか。
もし、この時間の効率が2倍になるとしたらいかがですか。つまり、会議時間が半分!
そんなうまい話があるものか。そう思われるのも無理はありません。しかし、それが、あるんですよ。
そして実際は、2倍どころかそれをはるかに超える効率アップが可能なのです。
顧客との要求仕様の見解の相違、これがシステムテストのときに明らかになったらいかがでしょうか。手戻り工数は莫大(ばくだい)です。プロジェクトの進ちょく会議、うまく進んでいると思ったら、納品寸前で問題噴出、そこからのリカバリにどれほどの労力が必要か……。会議時間だけでなく、効果的に意思疎通が図れなかったことによる時間のロスは膨大です。
これらが少しでも改善すれば、大きな時間の節約になり、私たちはSE本来の仕事に集中できるのです。その鍵はファシリテーションにあります。
■ファシリテーションとは?
ファシリテーションとは、組織のパワーを引き出し、優れた問題解決に導く技術です。会議の進行だけでなく、プロジェクトの推進、組織変革、教育など、幅広い分野で活用できます。
会議のファシリテーションについて、少し説明してみます。
目的がはっきりせず、発言している人は特定の人ばかり。そして下手に発言すると攻撃される。各自の主張はかみ合わず、納得のいく合意とは程遠い結果に終わる。――そのような会議はたくさんあると思います。
ここで登場するのが、ファシリテーターです。ファシリテーターは、会議のプロセスに介入します。ポイントは、プロセス(進め方)に介入してコンテンツ(中身)に立ち入らないということです。ファシリテーターは、プロセスに着目して、会議の目的を達成するために、参加者を決めたり、雰囲気づくりをしたり、参加者が安心して発言できるようにします。
参加者同士が対立状態になったときは、お互いの主張が正しくかみ合うように、ファシリテーターは論点を整理していきます。
中身(議論)に立ち入らないので、中立の立場でいられます。それによって客観的に会議の進行を監視でき、また参加者は安心して発言できるのです。会議を進行する人が特定の考えに偏っていたら発言する気が失せますよね。
いままでは個人の技や運任せに頼ってきた会議進行が、やっと体系化され学習できるツールが現れたのです。
その技術の体系がファシリテーションなのです!
■ファシリテーションの学び方
さて、それではどのようにファシリテーションを学ぶかです。これは3ステップで考えてみてください。
ステップ1:理想的な会議をイメージする。
ステップ2:現状を観察する。
ステップ3:理想と現状のギャップから問題を考える。
プログラム言語の上達もこのステップですよね。上級者のきれいなソース(理想)を見て、自分のソースを見る(現実)。そしてその違い(改善点)を考えて、よいソースをまねながら上達していく。上達方法はJavaもVisual Basicも同じです。
まず、ステップ1です。理想的な会議を知るには、理想的な話し合いを体験するのが1番です。しかし、これはなかなか難しい。「今日はいい話し合いだったなぁ」なんて会議を振り返れる人は、よほど幸せな方でしょう。
ファシリテーションを会得するには、できればファシリテーションの研修に参加するなどして体験するのが一番です。しかしそれが難しければ、ファシリテーションの入門書などを購入して最初から最後まで読んで、理想的な会議のイメージを自分なりにつくり上げてください。
次に、ステップ2です。現状を分析してみましょう。幸いにも(?)ひどい話し合いの場は、周囲にたくさんありますよね。ここで、ステップ1で頭の中でイメージした理想的な会議と、どの部分が異なるのか、何が問題なのかを客観的に観察してみましょう。違いを生んでいるもの、着目するのはそこです。いままで苦痛でしかなかったダメ会議が、一転して分析の場になります(図1)。
図1 ひどい話し合いの場は、周囲にたくさんあるはず。それを分析の対象としよう |
最後にステップ3です。違いを生むものが分かりましたか。いったい何が問題なのでしょうか。
ここで大切なのは、手っ取り早く解決策に飛びつくのではなく、まずは問題を明確にすることです。バグの対応と同じですね。取りあえず直すと後でひどいしっぺ返しがきますよね。
問題をはっきりさせたら、対策を考えてみましょう。
「目的がはっきりしない」というのが問題と感じたら、会議で目的を明確にする方法を考える。
「雰囲気が悪い」であれば、雰囲気を和ませる方法を考える。
「発言がでない」ならば、何が発言を拒んでいるのかをはっきりさせる。
これらの問題に対する解決方法は、ファシリテーションの技術の中に見つけることができると思います。
■あとは実践あるのみ
さて、3ステップで何をやるかを決めたら、あとは実践です。プログラムでもどんどん作らないと上達しませんよね。
勇気を出してやってみると、うまくいくことがあると思います。小さな成功体験の積み重ねで、いろいろ試すのが面白くなれば、しめたものです。
私が最初にはまったのは「座席配置」です。座る位置を変えるだけで何が変わるのと、思われるかもしれません。しかし、これだけで雰囲気が随分変わるんですよ。
話し合いを短く終わらせるために、立って会議をするというのがありましたが、その逆をついて、地べたに座り込んでの会議……。何だか不思議な親近感が芽生えます。中高生が座り込んでいるわけが分かりますね。
ほかには向かい合って座るのでなく、横並びに座るだけでも随分雰囲気は異なります。特にお客さんとモメているときは、向かい合って座ると完全に対決の雰囲気になってしまいますが、横一列に座って、ホワイトボードなどを前に持ってくるだけで、協力して問題に当たっている雰囲気が自然に出てきます。
座席配置は、ほんの一例ですが、ファシリテーションのスキルは奥が深く、まだまだたくさんあります。
まずは、できそうなところから始めて経験してみるのが一番です。プログラムもそうですよね、最初は簡単なところ、「Hello world」の出力からですよね(ひょっとして古いか!)。
どうせ、そのままでもダメ会議なら、失敗大歓迎でやってみましょう。
■得意分野でコミュニケーション
コミュニケーションに自信がない、そう思っているSEの方も多いと思います。しかし、会社やSE向け書籍はコミュニケーション力が必要と、ことさら強調されて、何だか危機感を感じますよね。
いまの時代は、昔よりシステムは複雑で、そして顧客の業務により密接に結び付いて、おまけに技術のスピードもアップして、なかなかヒューマンスキルを磨く時間はありません。
そこで、この部分にファシリテーションというツールを利用してみてはどうでしょうか。ファシリテーションの技術は、対人力が問われる部分と、論理力が問われる部分があります(よく右脳系、左脳系と呼ばれています)。
そうです、対人関係に自信がなければ論理力で勝負する方法があるのです。論理力といえば、私たちSEのおはこ(ですよね?)です。ホワイトボードを使って、論点を整理し、みんなの頭の中にある考えを図などを使って整理する。このことも優れたコミュニケーション技術です。
しゃべくりだけがコミュニケーションではありません、安心してください。ファシリテーションの世界は得意分野で力を発揮できる奥が深いものなのです。
■ファシリテーションの世界
私はファシリテーションを学ぶうちに、これがただの会議進行のスキルでないことに気付きました。素晴らしいファシリテーションは、会議がうまくいく以上の価値がありました。自分のことを理解してもらえる喜び、そして他人のことを理解する喜び、距離が縮まり価値観の相違を乗り越え1つに力を合わせる感覚。これは素晴らしい経験でした。
会社の会議やプロジェクトがこうだったら、どれほどすてきでしょうか。
ファシリテーションはチームワークを促進する技術です。ファシリテーションのスキルは会社だけでなく、家庭や地域社会にも非常に役立つものです。
いまの社会の問題は、人間関係がうまくいっていないことが大きな原因です。相変わらず戦争・紛争は起こっているし、地球規模での環境破壊も止まりません。
人と人との関係性をよりよいものにしていくことにより、この社会も、良くなっていくのではないでしょうか。ファシリテーションはそのための1つの、そして非常に有望なツールです。
SEとしても、社会人としても、ファシリテーションを身に付けて損はありません。皆さんも私とともにファシリテーションを学んで、この世界を変えていきましょう。
レッツ、ファシリテーション!
筆者プロフィール |
SEの経験を生かし広島で起業。現在能力開発研修とシステム開発の会社を経営する。尊敬する人物は本田宗一郎氏、最近研究しているのは、システム思考だという。 |
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