今年開始予定の大型資格
ITコーディネータは使える資格か?

加山恵美
2001/7/6

2. ITコーディネータとは?

ITコーディネータに求められる能力

 “経営的観点から戦略的情報化を推進する人材”であるITコーディネータに求められるのは、経営戦略策定から情報化企画や資源調達、情報システムの開発から、運用に至るまでのプロセスを一貫して監視することができる能力や、企画や調達ではユーザーのリクエストに応じて自らがプロジェクトマネージャの役割も担える能力が必要とされる(図1)。

 経営戦略策定では経営コンサルタントとなり、戦略情報化企画ではシステムアナリストとなり、情報化資源調達ではプロジェクトマネージャとなり、情報システム開発では設計からエンジニアやプログラマーへの指示など、そしてシステムの運用段階では保守と、あらゆる段階で対応可能な知識と判断力が求められる。

図1 ITコーディネータの活動フェイズ

 こうしてみると、いわゆる“何でも屋”であり、分業化されていない無秩序な役割を求められているように見えるが、すべての役割を担う必要はない。すべての段階で適切な判断が下せ、状況を把握することができるような人材であればいいのである。つまり、全体を広く見渡して、適切な人材に適切な指示を与えられるコーディネータであることが重要な役割だ。特に重要なのが経営的な観点からシステムを見つめることができる点である。

 大規模システムでは分業化が進み役割が細分化されがちだが、このプロジェクトでは中堅・中小企業を対象としているため、深く専門分野に特化した人材というよりは、広く浅く全体を見渡せる人材を想定している。そのかかわり方も、次のように数日程度のアドバイスで済むものから、経営者から一定の権限委譲を受けて一連のプロセスを一貫して監視するものまで幅広く想定されている。

(1)ITに関するちょっとした相談
経営者層へ、パソコンやインターネットの利用についてアドバイスする(例:数日程度の訪問)

(2)IT顧問
情報活用度の診断と改善、パッケージソフト選定、インフラ整備方針についてアドバイスする(例:年間顧問契約)

(3)IT導入のアドバイザー
業務改革推進のための情報化企画、複数の見積もり(いわゆる相見積もり)から最適なシステムの調達、情報システムプロジェクトのマネジメント支援(例:常勤して経営の企画や立案のサポート)

(4)IT導入マネージャ
IT戦略企画、複数の専門家から構成されるプロジェクトの調整、情報システムプロジェクトのマネジメント(例:常勤して経営者から一定の権限委譲を受けてプロセス全体を管理)

図2 ITコーディネータの想定されるサービス

 ITコーディネータの役割はさらに、ITソリューションビジネスや新しいITサービス市場を創出する場における中心的な存在であったり、将来のCSO(Chief Strategic Officer:情報化戦略担当役員)人材源としても期待されている。

 このITコーディネータ、情報化投資に正確で適切な判断を下せる人材が中小企業の間に広まっていけば、家電やゲーム業界などのように国際的競争力のある市場を育成して、ゆくゆくは情報技術の底上げに貢献し、より強い産業競争力を有した中小企業の育成にもつながると見込まれている。

ITコーディネータ資格認定制度

 中小企業を主な活躍の場として、幅広い守備範囲で活躍が期待されているITコーディネータだが、その目標だけでは理想論で終わってしまう。そのため、資格認定制度(ITコーディネータ資格制度)を制定して、人材の育成と認知を広めようというのである。ITコーディネータ資格認定制度には3つのポイントがある。

(1)継続学習と実務経験の義務化による高い品質の維持
 一度資格を取得したら永遠に認定されるのではなく、認定には有効期限を設ける。それにより認定者が常に最新のITスキルを持っているかどうかをチェックする。実務と継続経験を義務化し、その経験で一定量のポイントが取得できなければ認定は失効する。これらの義務化によって、ITコーディネータの品質を高く維持するようにする。

(2)実績やユーザー評価も用いて社会的な信頼を高める
 定期的にユーザーからの活動実績の報告を求め、活動概要を公表する。オープンにすることでITコーディネータの活動の透明性と社会的信頼を高める。また、公表することによって個々の実務能力をアピールして今後のビジネスチャンスにつなげる。

(3)多様な手段で資格の維持が可能なマルチエントリーポイント制度
 実務に追われていたり、自己の得意分野があるITコーディネータのために、さまざまな環境においても資格維持が可能としやすい「マルチエントリーポイント制度」を採用する。ITコーディネータの資格維持に必要なポイントを実務や研修や執筆活動によっても取得できるようにする。

 また、資格の有効期限は基本的には1年単位となる。マルチエントリーポイント制度に従って必要なポイントの申請を行う。審査結果が出るまでの申請・審査期間は前年度の資格が継続するものとする(図3)。

図3 ITコーディネータ資格は基本的に有効期限は1年間だが、申請結果が出るまでは、前年度の資格がそのまま有効とされる。この例では、3月で失効するはずだが、申請期間と審査期間は前年度の資格がそのまま有効となる

マルチエントリーポイント制度

 資格維持に必要なマルチエントリーポイント制度について、もう少し具体的に見ていこう。ITコーディネータはITコーディネータ補を経て、ITコーディネータの資格を取得する。イメージ的には運転免許の仮免を経て本免許を取得するような感じだ。

 ポイント制度から資格取得の段階を追うと、資格受験者は研修修了とITコーディネータ補試験にて、資格が認定され、ここで65ポイントが付与される。その後、65ポイントを維持すると資格更新、継続学習や実務経験によってポイントを増やし、100ポイントに達すると晴れてITコーディネータに認定される。そして更新時に100ポイントが維持できればITコーディネータの資格は維持できることになる。

図4● マルチエントリー制度

 ポイント取得には知識ポイントと実務ポイントの2種類があり、さまざまな方法によってポイントを取得することができるようになっている(表1表2)。

取得項目例
対象者
ポイント例
知識試験 ITC補試験 受験者 40P
ポイント不足者に対する知識試験 資格保持者 40P
知識研修 ITC専門知識に関する研修受講(協会主催または協会認定外部教育サービス企業などの専門知識研修コースの修了) 受験者/資格保持者 4時間で1P
ITC専門知識に関するセミナーへの出席 資格保持者 4時間で1P
知識取得 関連他資格取得・更新 資格保持者 1資格で10P
ITC向けケース研修教材の開発 資格保持者 4時間で1P
ITC活動による成功事例論文の発表 資格保持者 1件で3P
ITC専門知識に関する原稿発表・学会発表・書籍の執筆 資格保持者 1件で2P
ITC活動に寄与する図書の書評 資格保持者 1件で1P
協会が認定する刊行物の購読 資格保持者 1年度間で3P
表1 知識ポイントの一覧。ITCはITコーディネータのこと。Pはポイント。なお、各項目には、3年間でのポイント上限などの各種取得制限もある

取得項目例
対象者
ポイント例
ケース研修 ITC補受験用研修 受験者 25P
ポイント不足者に対するITC補、
ITC資格取得後のケース研修
資格
保持者
4時間で1P
実務
経験
マネジメントに関する実務経験 資格
保持者
32時間で1P
助言・指導に関する実務経験
評価に関する実務経験
支援(実作業の伴うもの)に関する実務経験
監査に関する実務経験
教育に関する実務経験
プロジェクトのモニタリングに関する実務経験
協会
活動
協会主催の研修・セミナー・交流会など
における インストラクター・講師活動
資格
保持者
8時間で1P
協会の各種委員会活動
基準作成などの協会運営上の協力活動
実務
活動
協会主催以外の中小・中堅企業向けセミナー・交流会
でのインストラクター・講師活動
16時間で1P

都道府県など中小企業支援センターなどが
行う専門家 派遣事業での活動

16時間で1P
表2 実務ポイントの一覧。項目ごとに3年間でのポイント上限などの取得制限があるのは、知識ポイントと同じ

民間認定試験としてスタート

 ITコーディネータは、事実上経済産業省から生まれた資格でありながらも、実は情報処理試験とは異なり国家資格ではなく、あえて民間の資格としている。IT技術の進展の速さに対応して、認定制度の価値や品質を高めるためにも、民間資格とした方が良いだろうと判断されたためだ。これを受けて、ITコーディネータ資格取得者が受講する研修や関連書籍の作成は、それぞれの分野ごとの専門家が受け持つことになっている。現時点でITコーディネータ専門知識教材・研修ガイドラインの内容に沿って審査を受けた教材は、ITコーディネータ協会のWebサイトで発表されている。

 また、育成や認定試験を運営するITコーディネータ協会も国の団体ではなく、特定非営利活動法人(NPO)として活動を進めていく。ITコーディネータ協会は育成と認定を活動の核としつつ、ITコーディネータ活動を通じて得た無形資産の社会への還元を行う。ここでいう無形資産とは、ITコーディネータが生み出す戦略的情報化ネットワークの相互活用や、ITコーディネータが収集する戦略的情報化投資に関する情報の相互活用の促進を意味する。

 余談だが、取材したITコーディネータ協会の担当者は公務員(または元公務員)だと思っていたが、そうではなく、民間ソフトウェア企業での勤務経験者であった。民間企業でIT化を進めた経験者も加わり、ITコーディネータ制度は作られている。

プロフェッショナル特別認定制度

 ITコーディネータ プロフェッショナル特別認定制度が、2003年度末までの3年間だけ通常のITコーディネータ資格認定試験とは別に実施されている。これは、すでにITコーディネータ資格認定制度で求める知識要件、実務能力を満たしていると思われるプロフェッショナルに対して、特別な研修コース受講修了後、ケース研修を受け、その後試験に合格することでITコーディネータとして認定されるものである。

 このように3年間とはいえ、通常のITコーディネータ資格認定試験とは別にITコーディネータを“量産”するのは、本記事の最初にも触れたように(「1.日本の経済再生を支える人材」を参照)、中小・中堅企業のIT化が急がれているためだ。しかも、通常の試験では、ITコーディネータ補になってからさらにITコーディネータとして認定されるまでの期間(タイムラグ)が生じてしまう。そのため、徐々にITコーディネータを輩出し、制度が定着するのを待つのではなく、早急にITコーディネータを認定し、中小・中堅企業のIT化を急速に進める必要があるわけだ。ITコーディネータ プロフェッショナル特別認定制度の適用対象となるのは、次の資格である。

  • 情報処理技術者(システムアナリスト、システム監査技術者、プロジェクトマネージャ、上級システムアドミニストレータ)
  • 技術士(情報工学部門)
  • 中小企業診断士
  • 公認会計士
  • 税理士
  • PMP(Project Management Professional)
  • 公認情報システム監査人(CISA)
  • 日本経営品質賞審査員(主任審査員、審査員、審査員補)

 このうち、PMP、公認情報システム監査人、日本経営品質賞審査員の3つの資格は、ITコーディネータ協会が当初2001年2月14日に公表した段階ではなかったものである。また、これらの資格を保有する人をITコーディネータにするプロフェッショナル特別認定制度も、当初公表されていたものと一部手続きの順番が入れ替わったりしているので、日本ITコーディネータ協会のWebサイトから、常に最新の情報を入手することをお勧めする。同Webサイトには、必要な資格、提出書類、専門知識研修コースの詳細など、さまざまな情報が掲載されている。なお、本稿執筆時点では、2001年第1期の申し込みは終了し、現在第2期の申し込み(実務・実績審査)を行っている(2001年7月16日〜9月14日)。

 すでに説明したように、一部のIT関連資格保有者もこのITコーディネータ プロフェッショナル特別認定制度が利用できる。この機会に受験してみてもいいかもしれない。

2/3
ITコーディネータの行く末は?

Index
ITコーディネータは使える資格か?
  1. 日本の経済再生を支える人材
2. ITコーディネータとは?
  3. ITコーディネータの行く末は?
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