今年開始予定の大型資格
ITコーディネータ資格は使えるか?

加山恵美
2001/7/6

3. ITコーディネータ資格の行く末は?

情報処理技術者試験との関係

 ITコーディネータ試験は、情報処理技術者試験(「情報処理技術者試験は受験すべきか」を参照)とは違う試験制度である。明確な違いは先にも述べたように、国家資格か民間資格かというところである。また、情報処理技術者試験はあくまでも技術者としての試験で、その守備範囲や役割があらかじめ明確に定義されている。情報処理技術者試験が大規模システムやプロジェクトにおける特定の役割を担う人材の認定とするなら、ITコーディネータは比較的小規模の単位、つまり中小・中堅企業におけるITに関する“よろず相談所”の所長の認定のようなものである。そして特定分野の専門家というよりは、技術者のスキルに加えて、経営者を経営者に近い立場からサポートする立場である。そのため、経営者と渡り合えるような感性、つまり経営的な観点や発想を持ち合わせていることが重要だ。そのため、技術者というよりもアナリストやコンサルタントに近い。

 ただし、違うといっても関連性はある。情報処理技術者試験の延長・拡張として、ITコーディネータが考えられている。これは、技術者として知識やスキルを修得し、実践を重ねた後のキャリアパスの1つとして考えられているからだ。近年、IT業界に就職する人材が爆発的に増えているが、この若い技術者がいつまでも技術者のままでいるとは限らない。技術者として経験を積んだ人材の将来像として、ITコーディネータは位置付けられている。技術者として専門分野を極めるのもよし、経営的なセンスを身に付けてITコーディネータに進むのもいいだろう。

 技術者のキャリアパスの延長というからには、ある程度の実践を積んだ人材がITコーディネータの受験者と想定されている。もちろん、資格には年齢制限などはないので、学生でも取得しようと思えば不可能ではない。しかし、実務経験や実践を重視したポイント制度があるため、実際にITの現場で働いている社会人でないと資格の取得と維持は困難だろう。また、ITコーディネータ補になるのに必要なケース研修の費用は50万円とのことで、費用面からも学生がITコーディネータ(というよりもITコーディネータ補さえ)となるのは難しそうだ。

ITコーディネータ利用促進策

 早急にITコーディネータを世の中に送り、一刻も早く中小・中堅企業のIT化を進めようというわけだが、さらにこれらを後押しするため、政府などによる補助という“実弾”も用意されている。これは、中小・中堅企業がITコーディネータを利用する際の支援策で、次のようなプログラムが用意されている。なお、具体的な補助の金額・申請などについては、ITコーディネータ協会に問い合わせてほしい。

  • ITコーディネータを活用して行う中小・中堅企業向けセミナーや研修などへの補助
  • 都道府県などの中小企業支援センターなどが行う専門家派遣事業への活用(3分の2補助。ただし上限あり)
  • 政府系中小企業金融機関で、ITコーディネータを活用した場合の特別貸付制度の創設

 こうしたITコーディネータ利用促進策は、中小企業総合事業団、中小企業支援センター、政府系金融機関などが中心となり行う。

ITコーディネータは人気資格となるか?

 ITコーディネータとは、現在日本が抱える不況と情報化投資の空回りという問題点を改善すべく、政府が立案した資格制度である。わたしにとって意外だったのは、ITの動きの速さに追いつこうとするために、国ではなく民間が主体となるような運営方法を選んだ点だ。ITコーディネータ制度は、ほぼ最終段階に近づいたがまだ準備中であり(2001年7月上旬現在)、この資格にどれだけの人が応募して取得するのか、また社会にどのような影響を与えるのかは未知数の状態だ。

 わたしの印象として、ある程度IT業界で経験を積んだ技術者人物であれば、システムアナリストでなくても経営的な戦略を考慮するのは当然であり、そういった意味でこのITコーディネータの掲げる人物像は、特別な存在とは思えないと感じていた。

 しかし、考えてみれば経営的な観点からシステム企画を考案したとしても、最終的に狙いどおりの効果が得られるとは限らない。システムは成功しても経営的には不成功に終わったプロジェクトは山ほどある。水の泡となったIT投資は、教訓という無形物だけがかかわったわずかな人にだけ蓄積されたり、葬り去られたりしている。情報化プロジェクトを経営的にも成功をもたらすことのできる人材は、確かに重要だ。

 情報化プロジェクトを成功に導けるようにするには、人材の育成から社会的な基盤まで、まだまだ数多くの課題が残っている。それらを改善するための一環として、政府も加担しようという動きがあるというだけでも、好意的に解釈すれば朗報ではないかと思える。

 現時点ではITコーディネータの資格は取得にこだわるよりも、真の意味でITをコーディネートすることのできる人物像に必要な要素をじっくりと検討することと、経営的なセンスを身に付けたIT技術者を、広く育成することに重点を置いてもらいたいというのがわたしの個人的な意見だ。

 ただし、いくつか懸念も存在する。ITコーディネータ試験は、先ほども触れたようにケース研修に50万円の費用がかかる。また、ITコーディネータ補になった後、継続学習と実務経験を積んで初めてITコーディネータになれる。つまり、受験者に対してかなりの投資をする必要がある。そのため、ITコーディネータとなり得る人材は、大企業のSIベンダなどの輩出に限られる可能性があるのだ。

 実際、大手のSIベンダなどのITコーディネータへの期待はかなりのものだ。特に40歳代のITエンジニアの新たな受け口となるのではないかと話すベンダも存在する。40歳代のエンジニアは、人にもよるだろうがすでにプログラム知識や新しい技術を覚えるにはきつい年齢でなる。しかし、SEとしての経験や経営全般の知識、これまでにかかわった業界の業務知識などは、若手エンジニアとは比較にならないほど豊富に持っている。この年齢層のエンジニアをどう無駄なく活用できるかが、大手ベンダの課題となり、そのために、広く浅く高所から判断すべきITコーディネータは、そうした熟練エンジニアにぴったりの資格になる。

 中小・中堅企業の経営という観点からは、税理士や中小企業診断士などからもITコーディネータを輩出してほしいとITコーディネータ協会ではいっているが、実際の状況を聞くと、ITに関連するスキルや知識について、多くの税理士や中小企業診断士にはきつそうだという。

 最後に、大手ベンダのためのシステム提案(つまり自社の受注せんがためのシステム提案)などを行う人材ではなく、真に中小・中堅企業のIT化を推進する人材を育成する制度となるように願っている。

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Index
ITコーディネータは使える資格か?
  1. 日本の経済再生を支える人材育成
  2. ITコーディネータとは?
3. ITコーディネータの行く末は?
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