エンジニアに変革を迫るITSS 自分のスキルレベルが分かる?
ITSSはエンジニアに変革を迫るか

穴沢悦子(インフォテリア株式会社 教育部)
2004/8/11

定義されているスキルとは

 『スキルとはITサービスのビジネス上は、「スキル」は、特定の製品・サービスの適用ノウハウや特定のプログラミング言語などの要素スキルで語られることが多い。しかし、本スキル標準では、スキルをそのような要素スキル単位でとらえるのではなく、自らの業務課題を満足に実現できるかどうかの「実務能力」として捉えており、単に個別の要素スキルを束ねたものではなく、要素スキルを課題解決のためにいかに最適に選択し、統合し、適用するかを実現する総合的な能力を主眼としている。』(ITスキル標準ver1.1「概要」からの抜粋)

 従ってITスキル標準の「スキル熟達度」は目指したいレベルの経験を積むために必要な「実務能力」を抽象的に記載しているものであり、残念ながら個々の要素スキルまで落とし込みはされていない。例えば「開発チームメンバーとして、担当する領域においてアプリケーションデザインを実践することができる」といった具合にスキル熟達度の記載が行われている。「アプリケーションデザインを実践」するために必要な要素スキルは記載されていない。

 記載されている「実務能力」を身に付ける具体的な教育カリキュラムなどの指針は、同じく経済産業省より「研修ロードマップ」として公開されてはいるが、こちらもあくまでも教育ベンダに対する指針のような形式となっており、実際の教育については教育ベンダが個別に作成または既存コースのマッピングを行っている。

ITSS高レベル人材へのレベルアップへの道筋

 ITSSの特定レベルを目指すときにどうやってレベルアップすればよいのか。前述のようにITSS仕様書内での「スキル熟達度・知識項目」の定義は要素スキルにまで落とし込まれていないため、特に要素スキルやそのスキルに対応する既存資格とのマッピングの要望が多く寄せられている。

 ITSSは経験、実績を基にレベル分けしているので、講習会受講、資格取得だけでレベルアップが計れるわけではない。そのため単純なITSSのレベルと資格、講習会のマッピングは難しい。

 ITSSの特定レベルを目指したいという場合、下記のような三段論法で資格や講習会とのマッピングを考えることになるだろう。

1)専門分野NレベルVに定義されている実績を挙げるために必要な要素スキルはP
2)要素スキルPを認定しているのは、YYY資格
3)専門分野NレベルVを目指すにはYYY資格取得を推奨

 例えば「XMLマスター:プロフェッショナル」という資格は、「XMLデータを処理するシステムの構築技術」という要素技術を認定している。この要素技術は職種「アプリケーションスペシャリスト」専門分野「業務システム」の場合には、主にアプリケーション間連携を行う際に必要とされると考えるため、レベル3を目指すエンジニアに取得を推奨する資格と考えられる。

 実は「XMLマスター」についてはこのような考え方でITSSの職種・レベルとのマッピングはすでに完了しているが、正式なマッピング結果はまだ公表されていない。各資格が同じマッピングルールでマッピングされないと使う側が混乱するからだ。私はその役割を現在ITSSユーザー協会に期待している。

 そのITSSユーザー協会とは、ITSSを活用したITサービスプロフェッショナルの育成とスキル標準の定着を目指す団体である。ITSSユーザー協会では現在、ITSSの各職種・専門分野ごとの人材像や各レベルに必要なスキル要素、既存IT資格やコースとのマッピングなどを策定している。実はITSSユーザー協会の教育研修部会内でも先日この三段論法に近い提案が行われていた。このITSSユーザー協会のアウトプットの公開がITSSの普及に大きなはずみとなるのではないかと考えている。

完全無欠ではないITSS

 これまでITSSのスキル・フレームワークで目標を見極めてステップアップしていくことを推奨してきた。ITSSはレベル0の人が、今後どのようにして自分の価値を高めていこうかということを考える上のヒントとしては大変有益な辞書だ。しかし、このようなフレームワークは完全無欠ではないこともあらかじめ考慮しておくべきである。

 ITSSのスキル・フレームワークはあくまで大ざっぱな指標でしかない。自己価値を高める手段をITSSレベルに頼り過ぎるのは危険な側面もある。

 ITSSの各レベルの判定はすべて経験値だが、その経験の測り方はいってみれば「大卒」「高卒」という程度の大ざっぱさだと思う。XX大学を首席で卒業しても△△大学を留年を繰り返しながら卒業しても同じレベルに位置付けられる。例えば同じ規模のプロジェクトリーダーの経験があれば、そのプロジェクトがお客さまに満足されるシステムでなかったとしても、スケジュール管理がきちんとできていなかったとしても一応レベルをクリアしてしまう。しかし、それでは真に自分の価値を高めたことにはならない。

 また、「一度レベル5になったら永久にレベル5の状態が保てる」というのは誤りだと思っている。ITSSはヒューマンスキル、IT技術力すべてを総合した人材価値の指標である。ヒューマンスキルは一度身に付くとほぼ永久的に身に付いたままでいられると思うが、IT技術の方は日進月歩である。

 ITSSに定められている経験(例えば50名以上のプロジェクトのリーダー経験)が10年前に一度だけある場合にそのレベルの人材として世間一般に認められるとは思えない。時代が変われば設計手法、開発手法、必要な技術知識などが大きく変わるため、そこの部分は補わなければ高度IT人材としての本当のバリューは維持できない。

 東京大学を卒業すれば、それなりに社会的なステータスを得られるが、それが仕事の実力と必ずしも一致しないのと同じではないかと考えている。

 ITSSを活用しながらもクリアしたレベルに甘んじることなく、常にその時代が必要とする高品質な仕事をする高レベルなIT人材を目指し、自己のバリューアップを図っていただきたい。

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今回のインデックス
 ITSSはエンジニアに変革を迫るか(1ページ)
 ITSSはエンジニアに変革を迫るか(2ページ)

筆者プロフィール
1983年東京工業大学 工学部高分子工学科卒業後、日立製作所に入社。メインフレーム関連の教材開発および講師を担当。1995年6月ロータス(現IBM)に入社し、日本でのロータス ノーツR4関連科目の立ち上げを担当。その後、コンパックコンピュータ入社し、日本でのASE認定資格を推進。2002年1月インフォテリア入社。現在、インフォテリア認定コースの取りまとめ、及びXML技術者育成推進委員会事務局としてXMLマスター普及の推進を図っている。
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