eラーニング技術の最新標準化動向
特集 進化するeラーニングの標準技術を知る

株式会社エヌ・ティ・ティ エックス イーキューブカンパニー
仲林 清
2002/2/22

2 SCORMを中心とした標準技術

  ここではWBTコンテンツの標準規格であるSCORM(Shareable Content Object Reference Model)を中心に、eラーニング標準技術の内容を説明する。前節でWBTプラットフォームと教材コンテンツの分離ということを述べたが、SCORMもこの考え方にのっとった規格となっている。

SCORMで対象とするWBTの動作

 まず、SCORMで前提としているWBTの動作を再度確認しておこう。図で「サーバ」はWBTサーバ、「クライアント」は通常のWebブラウザである。WBTを用いた学習は、以下を繰り返すことによって進行する(図3)。

図3 WBTシステムでのサーバとクライアントの動作の確認

(1)表示する教材画面をサーバ側で選択する。教材全体は教科書のように目次構成・章立てを持っていて、画面は目次の中の各ページに相当する。サーバは基本的に目次構成の順番に従って画面を選択していく。教材によっては、学習者がある演習問題や章を習得するまで次の章に進めないように、章やページの間で前提条件を定義する場合もある。

(2)選択された教材画面・演習問題画面をWebブラウザに表示する。画面は通常のWebページで、HTML、動画、アニメーションなどで構成される。演習問題の場合は、HTMLフォームを用いた選択式や記述式の問題、対話型アニメーションを用いたシミュレーション問題、などが考えられる。

(3)学習者が、「次画面」ボタンを押したり、目次を閲覧するなどして、ほかの教材画面を要求する。演習問題の場合は解答を入力する。これによって、解答・得点・学習時間などがサーバに送られる。

(4)サーバで解答・得点・学習時間などがファイルやデータベースに記録される。

 以上の動作を実現するために、前節の初めに述べたように、「教材選択提示機能」「演習出題採点機能」、それに「学習履歴管理機能」の3つの機能が必要となるのである。これらの機能を、WBTプラットフォーム機能(教材共通機能)と教材コンテンツ機能(教材固有機能)に分け、さらに、教材コンテンツ機能をサーバ側コンテンツとクライアント側コンテンツに分けたものが表1である。

表1 教材コンテンツをサーバ側とクライアント側とで分けると、この表のようになる

 例えば、「教材選択提示機能」では、個々の教材画面、教材画面の順番を決めるための目次構成・章立ての情報が必要である。これらの情報は当然個々の教材固有のもので、教材コンテンツの一部となる。また、教材の内容によっては、学習者がある演習問題や章を習得するまで次の章に進めないようにするというように、章やページの間で学習を進めるための前提条件を決めたい場合もある。このような情報も教材固有のものでコンテンツの一部となる。一方、このように教材画面の順番や前提条件があらかじめ与えられれば、WBTプラットフォームは表示する画面を選択してWebブラウザに表示する機能を実行することができる。

 次に、「演習出題採点機能」に関してだが、演習問題の画面や問題の正解は当然コンテンツに含まれる。採点方法は判断が難しいところで、問題形式を限定すれば採点機能をWBTプラットフォームに持たせることも可能である。しかし、正解と判断する基準や解答を許す回数などは問題によって多様に変化する。また、問題形式自体も単純な○×式や選択式だけでなく、複雑なシステムの動作を模擬するシミュレーション型と呼ばれる形式もある。シミュレーション型の場合は、対象とするシステムの動作や正解の評価基準が千差万別で共通化するのは非常に困難である。従って、このようなシミュレーション型の教材も扱うことを考慮して採点方法はWBTコンテンツ側の機能とする。WBTプラットフォームは演習問題のWebブラウザへの表示と採点結果のファイルへの格納を行う。

 最後に「学習履歴管理機能」に関して、成績ログの内容は演習問題と同様、教材の内容に依存する。例えば得点の付け方などは共通の方法を決めることはできない。従って、成績ログの生成はコンテンツで行い、ログのファイルなどへの格納はWBTプラットフォームが行う。

SCORM規格の内容

 表1の内容を具体的にWBTの構成要素に対応させたものが図4である。前節で述べたように、SCORM規格ではコンテンツを、サーバ側コンテンツとクライアント側コンテンツに分けて考える。サーバ側コンテンツでは、教材の目次構成、章立てや前提条件などを定義していて、これらをひとまとめにして「コンテンツ構造」と呼ぶ。教材の構成は通常の教科書のような「章・節・項」からなる階層型である。階層の深さは任意である。

図4 表1の内容をWBTの構成要素に対応させた

 階層型教材の一番末端のページには、ページごとにクライアント側コンテンツが対応付けられている。クライアント側コンテンツのことをSCO(Shareable Content Object)と呼ぶ。SCOとは、Webブラウザで表示されるテキスト、画像、音声や、演習問題のHTMLフォーム、シミュレーションのJavaアプレットなどのことである。SCOは、学習時間、演習問題の解答、正誤、得点などをサーバとやりとりする。

 SCORMではこのような構成のWBT環境に関して、以下の3点を標準規格として規定している。

(1)コンテンツ構造のデータモデルと表記方法
(2)実行時環境。SCOがWebブラウザ上で動作する際の起動方法、サーバとログデータなどを通信する際のデータモデル、および通信のインターフェイスを提供するJavaScript API
(3)コンテンツ構造の各階層レベルのコンテンツ集合、および、SCOに関する属性情報を付与するためのメタデータのデータモデルと表記法

 以下、(1)と(2)に関してのみ簡単に説明する。

 コンテンツ構造には、階層型教材構造データ、および学習の流れを制御するためのデータが含まれ、XMLで記述される。階層型教材構造データは、前述のように教科書の章節項の構造に対応するもので、任意の深さの階層構造を作ることができる。階層型教材の一番末端にある個々のページはそれぞれがSCOに対応しており、ページはSCOのURLを保持している.WBTサーバは選択したページのSCOのURLをWebクライアントに通知して表示させる。

学習の前提条件

 学習の流れを制御するためのデータとして、最新のSCORM1.2では前提条件を指定することが可能である。前提条件とは、あるページやある節を学習するためにあらかじめ習得しておかなくてはならない条件である。例えば、「ページ2」を学習するためには、あらかじめ「ページ1」を習得しておかなくてはならない、とか、図5のように「節2」を学習するためには「ページ1」か「ページ2」を習得しておかなくてはならない、といったものが前提条件となる。

図5 節2を勉強する場合、ページ1とページ2の学習を前提とする

 これらの例から分かるように、前提条件はページや章節項の習得・未習得状態をAND、ORの論理演算子で結び付けたものとなる。ちなみに、章・節・項で習得したと見なされる条件は、その下位のすべてのページが習得されたときであり、ページが習得されたと見なされる条件は、そのページに対応するSCOが習得された場合である。SCOは、次に述べる実行時環境を利用して習得状態をWBTサーバに通知する。

 実行時環境は、Webブラウザ上で実行されるSCOがWBTサーバと情報を交換するためのインターフェイスを提供する(図6)。

図6 SCOは、実行時環境を利用して、学習する章・節・項の前提となる条件をWBTサーバと情報を交換する

 実行時環境の実体は、JavaScriptの関数で、SCOを起動する際にWBTサーバがWebブラウザにこれらの関数を読み込ませる。従って、SCOの作成者はこれらのJavaScript関数があらかじめ用意されているという前提でSCOを作成することができる。用意されている関数は、以下のとおりである。SCOはこれらの関数を呼び出してWBTサーバと通信を行う。

(1)LMSInitialize:通信初期化を行う
(2)LMSFinish:通信終了処理を行う
(3)LMSGetValue:WBTサーバからデータを取得する
(4)LMSSetValue:WBTサーバに送るデータを設定する
(5)LMSCommit:WBTサーバにデータを送る
(6)LMSGetLastError:エラー情報を取得する
(7)LMSGetErrorString:エラー情報の詳細を取得する
(8)LMSGetDiagnostics:WBTサーバに依存するエラー情報の詳細を取得する

 SCORM規格では、通信を行うデータの種別も規定している。WBTサーバからデータを取得する際にはLMSGetValue、WBTサーバにデータを送り込む際にはLMSSetValueを使用してこれらのデータを送受する。WBTサーバから取得可能なデータは、学習者の氏名、ID、過去の習得状況、過去の得点、これまでの学習時間などである。また、WBTサーバに送信可能なデータは、SCOを実行した結果の習得状況、得点、学習時間、演習問題の解答、正誤、得点などである。

 以上述べたように、SCORM規格に準拠したコンテンツは、サーバ側コンテンツとクライアント側コンテンツから構成されていて、コンテンツを作成する際にはこれらをそれぞれ作成することになる。サーバ側コンテンツはXMLで記述されるが、通常、WBTサーバには付属のGUIベースのオーサリングツールがあり、これを用いてドラッグ&ドロップで階層型の教材構造を組み立てていくことになる。従って、XMLを直接編集する必要はほとんどない。SCOはJavaScriptのAPIを使用するため、SCOの作成にはJavaScriptの知識があることが望ましいが、定型的な選択式や○×式の演習問題SCOであれば、GUIやウィザード形式でJavaScriptを意識せずに作成可能なツールが用意されている。また、最近ではAuthorwareなどのマルチメディアオーサリングツールもSCORM実行時環境に対応してきており、容易にSCORM対応教材を作成する環境が整いつつある。

2/3
今後の標準化の動向は?

Index
特集:進化するeラーニングの標準技術を知る
  1 eラーニングの進化と標準化の流れ
2 SCORMを中心とした標準技術
  3 今後の標準化の動向は?
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