旬なスキルは何か

下玉利尚明
2006/5/17

多くのITエンジニアが気になるのは、スキルアップを図るに際して、次に何を学べいいかではないだろうか。今回、教育ベンダの富士通ラーニングメディアに、いま旬なスキルがあるのか、あるとしたらそれは何かを伺った。今後のスキルアップの参考として読んでいただきたい。

 富士通ラーニングメディア(以下、FLM)が提供する教育・研修プログラムは「ネットワークの基礎」といったベーシックなものから「プロジェクトリーダーに求められるファシリテーションスキル」などまで、年間1000コースにも及ぶ。

 注目度の高い「人気コース」ともなれば、その内容は当然、企業側がどんなITエンジニアを育成したいと考えているかを反映したものとなる。裏を返せば、ITエンジニアに「いま、まさに必要とされている知識やスキル」といえる。同社の教育・研修コースのトレンドからITエンジニアに「何が求められているか」を浮き彫りにしてみよう。

基礎的な知識とスキルの体系的な習得が大切

 2005年度にFLMが提供した教育・研修プログラムの「人気コース」は何だったか。その受講トレンドにおけるキーワードは「ヒューマンスキル」「プロジェクトマネジメント」「ITサービスマネジメント」(ITIL)、「システム基盤」だ。つまり、これらのキーワードに関連するコースの受講者が多く、企業側もこれらのキーワードに関連した知識やスキルを備えたITエンジニアを求めているということだ。

富士通ラーニングメディア 研修事業部長の羽賀孝夫氏

 FLMの研修事業部長である羽賀孝夫氏は、「基礎知識・スキル(原理原則的なもの)の研修におけるニーズは、周期的に高まる時期があるように思う。現在が基礎知識や基礎のスキルを学ばせたいと企業が考える時期に当たっているのではないかと感じている」と述べる。

 羽賀氏によれば、以前は企業側が積極的に基礎知識やスキルをしっかりと身に付けさせようと、教育・研修プログラムに若手のITエンジニアを参加させていたという。ところが開発案件が増加し、開発のスピードアップも求められるようになった。「ゆっくりと基礎を教育する余裕がなくなり、現場にどんどん若手のITエンジニアを投入せざるを得なくなった。そのことに危機感を感じている企業が、再び基礎の重要性を認識し始めているのです」(羽賀氏)

基礎的な知識やスキルを身に付ける

 プログラマやシステムエンジニア(SE)としての経験が3年、5年というITエンジニアであれば「基礎ぐらいもう身に付いている」と思うかもしれない。ところが「しっかりとした基礎」というのは、実は単純なことではない。「基礎を学ぶ」ということは「体系的」に知識を身に付けていくということである。例えばサーバもネットワークも、どれもITシステムの中で単独で存在しているのではない。それぞれ周辺技術との関係性にまで理解を広げないと、優れたシステムの構築は難しい。

 ところが「現場のプログラマやSEは、自分が『担当する部分』のみの開発に追いまくられています。開発スピードが速すぎて開発現場のOJTでプログラマやSEを育てる時間的余裕もない。ただひたすら「断片的な知識とスキル」をフル活用して仕様書どおりに作ることに追われてしまい、それがシステム全体のどの部分で使われるのかが理解できていない。『つぎはぎ』の知識やスキルしかないITエンジニアばかりが増えています。だからこそ、いま、あらためて『体系的な基礎』が重要視されているのです」(羽賀氏)

コミュニケーション力が重視されている

 この「体系的な基礎知識の習得」が、若手のプログラマやSEに「いま、求められていること」である。それでは、そういった若手ITエンジニアが今後、プロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャを目指す場合、あるいは、現在、プロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャとして活躍しているITエンジニアが、さらにキャリアを構築していくには、どのようなスキルを身に付けることが求められているのだろうか。

 それに対する羽賀氏の回答は明確だ。「ヒューマンスキル」である。「2005年度にFLMが提供した教育・研修コースの受講者数を上期と下期で比較し、その増加率を調べてみました。その結果、上位20コースのうちにヒューマンスキル関連のコースが7つも入っていたのです。ここにきて注目度が急激に高まっています」(羽賀氏)

 とりわけ「コーチング」や「ヒアリング」など、開発現場で活躍するITエンジニアのコミュニケーションの活性化に役立つようなスキルを習得できるコースの人気が高い。「受講者数は平均すると大まかには、過去3年間で毎年約1.5倍の増加率になります」(羽賀氏)という。

 この背景には、ITシステムの構築が困難を極めているという現状があるようだ。プロジェクトは必ずといっていいほど「火を噴く」。度重なる要件変更を乗り越え、何とか納品しても結果的にコスト割れ。そのようなシステム開発の現場で誰もが抱える悩みを解決できる糸口の1つとして、「プロジェクトマネージャのヒューマンスキル」が非常に重要視されてきているのである。

 「知識やスキルがあるのは当たり前。プロジェクトをマネジメントする方法論も重要ですが、それだけでもプロジェクトはうまくいかない。システムを導入する企業の担当者との話し合い、要件定義から聞き出したことを現場のプログラマやSEに『いかに正確に伝えて』『どう開発を進めさせるか』。いま、求められているヒューマンスキルとはコミュニケーションスキルともいい換えることができるでしょう。つまり、『しゃべらないリーダー』がプロジェクトを引っ張っていけるわけがないということです」(羽賀氏)

 羽賀氏が指摘する「コミュニケーションスキル」には、例えば会議のようなグループ活動が円滑に行われるように中立的な立場から働き掛けを行う「ファシリテーションスキル」や、潜在能力を引き出す「コーチングスキル」、あるいは「ヒアリングスキル」など「対人関係のスキル」全般が含まれている。

 「FLMでは、例えば『システム開発事例で学ぶヒューマンスキル』など演習形式のコースを用意しています。さまざまな演習形式のコースでファシリテーションスキルやコーチングスキル、問題解決力などを養えるのです。それらのコースの受講者数が多いことからも、いま、多くの企業ではヒューマンスキルやコミュニケーションスキルを持ったITエンジニアを求めているのです」(羽賀氏)。さらに羽賀氏は直近のトレンドとして「ITIL」に関連したコースの受講者が増加していることも指摘する。

技術の原理原則と周辺技術を体系的に理解しよう

 ITエンジニアとして必須となる「基礎知識=体系的な知識を身に付けること」、プロジェクトマネージャやプロジェクトリーダー、あるいはそれらを目指す若手のITエンジニアたちにとっては「コミュニケーション力を中心としたヒューマンスキルこそが求められていること」が羽賀氏から指摘された。

 それでは、これらのスキルを身に付けるためには何をすればいいのだろうか。「最も効率的なのは教育ベンダの教育・研修コースに参加することです。ただし、多くの教育ベンダは企業向けがメインなので個人で参加している人はほとんどいません。個人で身に付けるには『原理原則』を見極めるという気持ちで意識を高く持って勉強する・。そういった努力の積み重ねしかないのではないでしょうか」(羽賀氏)

 具体的なアドバイスはこうだ。例えばデータベースのITエンジニアであれば、Oracleなど製品に関連した知識とスキルを徹底的に磨く。「まず製品にターゲットを絞ると勉強すべきことが明確になる。次にその製品だけでなくデータベースそのもの論理設計や仕組み、なぜこの仕様になっているのか、なぜこういった処理をするのかなどの『原理原則』を徹底的に押さえる。そして、特定の製品にかかわらず、データベースならどこの製品でも自信あり、といえるまで勉強する。まずはそこからです。そして、データベースのみならず、ネットワークやサーバなどシステムを構築する要素との連携、関係性をしっかりと理解する。いわば、原理原則からシステム全体にまで体系的に理解を広げていく。それができればITエンジニアとしてのステップアップにもつながるのです」(羽賀氏)

 原理原則を学び、ITシステム全体をも視野に入れた理解を深める……。こういった学習スタイルで身に付けた知識やスキルを持ったITエンジニアは、現場でも活躍できる。

 「FLMでは講師育成の過程で、講師に富士通やその関連会社の開発現場を体験させています。その間は、その現場のプログラマやSEになって働くのです。講師は原理原則や周辺との関連性を深めた知識をしっかりと学習しているでしょう。プロジェクト全体を見渡す力もある。だから、若手でも出向して数カ月でプロジェクトのリーダーを任されるといったこともあるのです」(羽賀氏)

 体系的に基礎知識を学習し身に付けることは、地味ではあるが、ITエンジニアとしてのステップアップ、キャリアを実現してくれる近道なのかもしれない。羽賀氏は「いま、企業が求めているのは技術・実践力・ヒューマンスキルをバランスよく備えたITエンジニア」という。

 基礎的な知識とスキル、そしてヒューマンスキルをキーワードに自分自身の強味と弱点を見直し、地道にキャリアの第1歩を踏み出すという気持ちが大切なのかもしれない。

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