2006年秋・いまお薦めのスキルはこれだ!
長谷川玲奈(@IT自分戦略研究所)
2006/10/24
■徹底的に学んだ基礎が2年の経験を超える
グローバル ナレッジ ネットワーク 取締役 技術担当 横山哲也氏 |
この羽賀氏のコメントのように、各社から話を聞く中で一様に強調されていたのが「基礎的なスキルの重要性」だ。グローバル ナレッジ ネットワーク 横山氏は、今後若手エンジニアが学ぶべきスキルとして「やはり基礎的なところが一番重要です。ネットワークやOSの基本的な動きなど、基礎ができていると新しい技術も簡単に習得できるので」と断言する。「例えば、UNIXをやっていた人間がWindowsを勉強すると、わりと短期間で習得できることが多い。逆にWindowsの操作だけをやっていた人、あまりネットワークを知らない人は習得に時間がかかる」という。中でもWindows関連で学習を勧めたい技術はDNSだという。「DNSでつまずく人が多いから」とのことだ。
横山氏は、「特に若いITエンジニアは、早いうちに基礎を学んでほしい」という。「すぐに業務に役立つスキルではないだけに、いったん現場に入ってしまうと学ぶのは難しい」。しかし即座に業務に役立つものではないといっても、基礎をしっかり学んだかどうかで後になって差が出てくるはずだ。今後の伸び方も大きく異なるだろう。横山氏は、基礎を押さえているかどうかで「習得する速さが全然違います」という。
グローバル ナレッジ ネットワーク 兵藤氏は「今年は新入社員研修でも、企業から『OSの内部の動きを説明してほしい、OSの成り立ちまで深彫りして教えてほしい』のような要望が多かった」と話す。
グローバル ナレッジ ネットワーク エンタープライズ事業部 事業部マネージャー 兵藤成美氏 |
新入社員に基礎的な知識をしっかり教え、育てようという考え方は増えてきているのだろうか。兵藤氏は「今年は多かったですね」という。これまでの新入社員教育は、実践的に行い短期間で即戦力をという流れだったが、今年の初めごろから基礎力重視の考え方が増えてきた。そうして徹底的に基礎を学んだ新入社員が、即戦力重視で教育された3年目の社員を超えてしまうことも珍しくないということだ。怖いほどに基礎力の大切さ、基礎をしっかり学んだITエンジニアの強さを物語っている。
会社の方針で付け焼き刃的な学習をしてきた3〜4年目のITエンジニアに対しては、基礎力強化の研修をする動きはあるのだろうか。兵藤氏は、「中堅社員研修の機会は増えているが、基礎ではなく応用研修になる」という。しかし、応用研修にも基礎的な事項は入れてあり、基礎の再確認はできるようになっているそうだ。
NECラーニング 矢納氏も「いまのITエンジニアはがむしゃらに勉強する必要がある。業務に近いところはできるだけ早く吸収することが必要」としたうえで「理論を知ってしまえばほかの技術にもすぐ応用できるので、最初が肝心ですね」という。よく挙げられる例だが、1つの言語を完全に習得してしまえば、ほかの言語に移行するのはさほど難しくないということもある。
富士通ラーニングメディア 羽賀氏は「教育が製品関連に偏っていた時期から、また基礎教育の重要性が見直される時期に来ている」と指摘する。およそ10年に1度ほどの周期で基礎教育は重視される傾向があるという。「現場にすぐに配属されると、つまみ食いのようにスキルを身に付けることになってしまう。それでは知識が体系化されず、つながりも持てない」という。「研修を開発するに当たっても、つながりのある、現場感覚の持てるような体験コースを作りたい。そういうコースをいま『実践トレーニングシリーズ』として提供しています」
■OJTリーダー研修からその上の中堅社員研修へ
そのほかに興味深かったのが、「OJTリーダー(トレーナー)研修からその上の中堅社員研修へ」という流れがあること。各社とも入社3年目ほどの若手教育に力を入れていて、新人を受け入れるOJTリーダー研修もその中に位置づけられる。
グローバル ナレッジ ネットワーク 田中氏は「2003年からOJT制度を導入するIT企業が大幅に増えました。それに伴ってOJTリーダー向け研修を始め、2004年ごろから人気があります」と語る。内容は技術的なものばかりではなく、コーチングや倫理観も含むものだ。「OJTリーダーにコーチングを教えても、その上司が理解できず非協力的な場合もあります。現在はOJTリーダーの上司である部課長を対象に、新人とOJTリーダーの両方を支援するための研修を提供しています。このパターンはヒットしていて、毎年継続しての受注が多いです。人を育てるには相当力を入れないといけないということですね」
富士通ラーニングメディア 羽賀氏は「われわれもトレーナー教育には力を入れている」という。「新人教育とセットで考える必要があります。新人が学んだ結果を十分に発揮するには、トレーナー側が正しく受け入れ接していかなければならないというメッセージを発信しています。本当は役職者にも受けてほしいところです」
「若手向け研修という意味では内定者研修も増えています。若いうちにしっかり教育を受けてほしい。同時並行で幹部社員にも。でも最も力を入れているのは、3年目くらいまでの若手エンジニアです。彼らに(インフラ系、システム開発の基礎のような)SEの基礎を学んでほしい」
■ITエンジニアのスキルは広く、ところどころ深く
技術の進歩により、時には社会情勢により、注目のスキルは変化する。その時々で必要とされるスキルを身に付ける必要ももちろんあるだろう。しかしすべてのスキルの基本、応用力の基、付け焼き刃の最新スキルを超える武器となるのは「体系化された基礎知識」だ。当たり前のようだが大切なことだ。
加えて重要なのは「自分の担当分野だけではなく、広範囲のスキルを身に付けること」であることが、各社の話から読み取れた。専門領域に関しては深く、その周辺に関しては広く。簡単にできることではないが、今後ITエンジニアとして成長していくには必要なことだと思う。
NECラーニング 矢納氏は「IT技術の教育でよくいわれるのは『ベンチマークができるプロになれ』ということ。一定の領域だけ知識を掘り下げても比較はできません。データベースならOracle、SQL Server、オープンソースのデータベースなどを知って初めて、プロの技術になります」。しかし、ベンチマークのできるITエンジニアは少ないという。「今後プロとして生きるのであれば、ベンチマークができるようなスキルを持つことは1つ大切なことだと思います。新入社員はともかく、30代くらいの中堅社員であればその辺のスキルはぜひ身に付けてほしい」という。
富士通ラーニングメディア 羽賀氏も「いまの時代、学ぶことは幅が広く、深くだから難しい。全部を深く学ぶ必要はないが、幅は広くないといけない。もともとITエンジニアは好きな分野、やらなくてはいけないことは深堀りするんです。でもそれ以外はやらない。今後は幅広く学ばないとダメなのではないか」と警告する。
具体的にはまず、「担当分野の隣接領域を知る必要があります。開発をしているならその上流の設計で何をやっているか、その後の運用はどうしているか」ということだ。「個人の担当は部分的なシステム、工程のある部分というケースが多い」ため、意識しないと細分化されたものの一部しか学ぶことができない。
「システムのライフサイクル自体が短くなっているいま、ITエンジニアは新しいプロジェクトに次から次へと参加せざるを得ない状況です。時には複数プロジェクトに参加することもあるでしょう。新しいことを勉強するのは難しいですが、やらざるを得ない。1つの手段は教育を受講することですが、受講中は一時的に仕事を離れることになります。計画的にやるしかない」
体系化された基礎知識、そして広範囲なスキル。最新のスキルや注目のスキルを追うことも大切だが、基礎力に少しでも不安があるなら、担当分野の周辺を理解していないと感じたなら、しっかりと学び直すこと、視野を広げることにチャレンジしてみてはどうだろうか。きっとITエンジニアとしての底力となり、今後の成長の糧となるはずである。
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