データベースエンジニアを目指せ!
データベースの習得に王道はあるか?

加山恵美
2003/3/21

 データベースに関する技術は近年大きく応用範囲を広げてきている。その変化は主に、「データの活用方法」と「扱うデータの種類」が多様化してきている点に表れているという。これからのデータベースエンジニアには、そうした変化への対応を求められている。今回はそうしたことを中心に、日本アイ・ビー・エム(IBM)の長沢信吾氏に伺った。

データベース技術の広がり

長沢信吾氏●日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業部 ソフトウェアテクニカル・サポート データマネジメント技術部 部長

 「データベースエンジニア」と呼ばれるエンジニアの業務内容が変わりつつある。従来の感覚なら、データベース技術はほぼ確立されていて、基本技術と経験に加えて、現場での研ぎ澄まされた勘を駆使して、発生するトラブルに早く適切に対処したり、パフォーマンスを追求したりといったことに終始していた。

 「もともとコンピュータというのは、何らかの形でデータを保存する必要があり、それを効率よく取り出す技術としてリレーショナルデータベースといったような考え方が始まりました。その後の研究により、データを構造的に扱うことで効率化が図られ、その一方で標準化が進みました。データベース技術は学術的な観点からスタートし、現在はほぼ完成し、IT技術の根幹を成しています」と、長沢信吾氏は語る。

 しかし、データベースに関する技術は近年大きく応用範囲を広げている。その変化の第1は、データの活用方法である。蓄積したデータをどう加工するのか、ほかとどう連携させるのかなど、データの利用方法が同じではなくなってきた。

 そして第2に、扱うデータの種類も多様化してきている。文字や数値だけではなく、画像や映像といった多種多様なデータを扱う必要性が出てきた。格納するデータの種類が多様化すれば、それを取り出し加工する方法も多様化する。そうした多様化に柔軟に対応できることが、データベースエンジニアに求められている。

データベースエンジニアに求められるもの

スキルの上達には、多少遠回りの道も必要だという

 データベースエンジニアに求められる技術は、基本的な範囲であれば普遍的といえる。まずは、基礎理論に始まり、具体的な実現方法や実装方法がある。実装の場面では、製品知識が必要となる。また、リレーショナル・モデルにシステム化要求をどう当てはめていくのかといった設計の資質と応用力が求められる。

 開発が終わって運用フェイズに入ると、障害を素早く解決するためのあらゆるノウハウが求められるようになる。その知識はデータベースだけではなく、データベースが稼働する前提となるインフラにも及ぶ。つまり、OS、ネットワーク、ハードウェアの部分だ。まとめると、(1)基礎理論(2)製品知識(3)設計能力(4)障害対応能力、となる。

 それに加えて、データベースにどういう立場でかかわるかによって焦点が変わってくる。その立場というのは、「作る側」の開発者なのか、それとも「データベースを管理する側」の管理者なのかで分かれる。開発者なら、どんなプログラミング手法や製品を使うのかが問題となり、管理者なら、いかに障害を未然に抑えて安定稼働させるかが課題となる。

 そういった「求められるスキル」を業務の中で基礎から順に学べれば理想的だが、実際はそうもいかない。必要に迫られて、目前のプロジェクトで採用した製品知識を吸収していくことが多い。「そうなると、枝葉の部分だけで、なかなか本筋に到達しないこともあります」と、長沢氏は危ぶむ。技術の本質と全体を見渡せるようになることが何よりも重要だという。「多少遠回りの道も必要でしょう。『王道はない』と覚悟した方がいいでしょう」

 また、データベースエンジニアには知識だけではなく、経験も重視される。どんなデータベース製品でも講習会を開いているが、例えば3日間の講習の翌日から実務で設計できるかというと、そうはいかない。データベースを究めるには一朝一夕にはいかず、なのだ。

技術習得の道

 「王道はない」といえど、少しでも効率よく技術を習得する方法はないだろうか。

 「それはいま、私を最も悩ませている大きなテーマの1つですね」と長沢氏は笑う。「基礎理論はすでに学校で習っている人がいます。最近は学校などのカリキュラムに含まれることが増えているようです。また、習っていなくても、弊社の新人研修である程度のことを教えます。しかし、教育の重点はやはり製品知識になります。いかに素早く実践で活躍できるようなところまで高めるかが重要です」と長沢氏はいう。

 では、問題の実務知識だが、IBMのDB2 UDBの場合は以下のようなアプローチ方法が用意されているという。

研修コース
 基礎からインフラを含むものまで、目的や期間に応じて選べる。

Webサイト
 好きなときに目的に応じた情報収集ができるWebサイトも用意されている。DB2のポータルサイトとしてのDB2.jpや、開発者向けのDB2 Developer Domainがある。

eラーニング
 DB2の認定制度であるDB2グローバルマスターのページから、自習ソフトのダウンロードやインターネットでの利用ができる。

書籍・雑誌
 DB2の書籍は、最新バージョンが昨年の末にリリースとなったため、最新バージョンに対応した書籍はまだ準備中のものばかりだが、随時出版される予定だ。ムックでは、『SUPER DB2 MAGAZINE』(ソフトバンクパブリッシング刊)がある。

一人前。そして、それからの道

 それにしても、どこまで習得すれば一人前のデータベースエンジニアと呼ばれるようになるのだろうか。長沢氏によれば、「データベースエンジニアなら、データを扱うことが中心になります。そこでは経験によるノウハウが重要です。個人差はあるので一概にはいえませんが、一般操作を覚えるようになるのは大して時間はかからず、1カ月から数カ月で習得できるでしょう。ただし、データベースそのものを熟知するレベルにまで到達するには、3年から5年くらいは要するのではないでしょうか」

 では、一人前になったら次は何を目指すのだろうか。それは職場で求められるもの、または本人の意思にも影響するが、データベースエンジニアの技術を広げた先の流れとして想定される道がいくつかある。

 例えばデータウェアハウスのように、より巨大なシステムを扱うならトータルでどう管理するかが重要となる。また、データの多様化に応じて従来のデータベースでは扱えない種類のデータを扱うようになるかもしれない。ほかにも、複数のシステムやデータを統合して扱う場合が考えられる。

これからの技術予測

長沢氏はデータベースエンジニアは、今後XMLの関連技術が必要だという

 冒頭に、データベースエンジニアは技術の多様化に柔軟に対応できることが求められていると述べたが、具体的にはどんな技術がそれに該当するのか長沢氏に聞いてみた。

 「まず、インターネットの普及に合わせ、Webサービスに対応していく必要がありますので、XML関連技術が必要でしょう。また、今後のキーワードとして、グリッドコンピューティングがあります。複数のコンピュータの処理能力を合わせたコンピュータグリッド、または各所にあるデータベースを合わせたデータグリッドの2種類が考えられます。まだ理論的な段階で実装にはまだまだ技術的な課題が山積していますが、将来的にはこういったことに携わるエンジニアもいるのではないでしょうか」と、将来を語る。

 「それから一般的なことですが、各種ソフトウェアの難しい処理を簡単に実行できるようになるでしょう。操作する側としては楽になりますが、いつも期待したとおりの動作を行ってくれるとは限りません。そのようなときのために、ソフトウェアが裏でどう処理しているのかを見抜く能力がこれまで以上に必要になるでしょう」

 ただ、長沢氏は次のような危ぐを持っているという。「現在はエンジニアの数は増えましたが、昔のような『職人』の割合は減りました。開発期間の短期化という外的な要因もあり、データベースの本質まで到達することが難しく、考える時間を取ることも難しくなってきています。また、コンピュータの世界はいまだにフォンノイマン型のまま、データベースも昔ながらの理論の上に成り立っています。私はいつか、そういったものがビジネスの変化のスピードに合わなくなるときが来るのではないかと危機感を持っています」

 難しい問いである。フォンノイマン型コンピュータや現在の理論に限界は来るのだろうか。性能の進化やグリットで限界を先延ばししたり、根本的な問題を解決する斬新なモノが登場するかもしれない。いずれにせよ、将来はますます高度化・複雑化の道をたどるだろう。しかし、だからこそ原点を知り、基礎理論をしっかりと把握しておく意義は大きい。

   RDBの基本知識をしっかりと身に付けたい人に

 本書は900ページにも及ぶ本格的なデータベースの解説書である。リレーショナルデータベースに関して、基礎理論から今後の展望まで言及されている。また、古典的な分野だけに限らず、オブジェクト指向のデータベースまで幅広く網羅している。

長沢氏:「RDBの基本的な内容をすべて網羅している書籍です。章ごとに要約が付けられ、練習問題により理解度を確認しながら読み進めることができます。ただ、900ページを超えるボリュームであり読破するにはそれなりの時間と覚悟が必要です」

データベースシステム概論

C.J.Date著、藤原譲監訳
丸善
1997年3月
ISBN4-621-04276-9
1万8000円
(税別)


   手軽にRDBの世界を理解したい方のために

 こちらは価格もページ数も『データベース概論』ほどでなく、読みやすいだろう。データベースの基本概念から構築までの必須知識が図解でまとめられている。データベースに対して基本的な疑問を持つ人から、より高度な説明を求めている人までに対応し、バランスよくまとめられている。簡単すぎず、難しすぎず、手ごろな1冊だ。

長沢氏:「手軽な入門書は多く出版されていますが、この本には『ファイル編成からSQLまで』と副題がついており、ファイル編成との比較について詳しく説明されている点がユニークです。基本的な質問について丁寧に解説されていて、図解やコラムが豊富に取り入れられているため、入門書としてお勧めできます」

図解でわかるデータベースのすべて―ファイル編成からSQLまで

小泉修著
日本実業出版社
1999年6月
ISBN4-534-02949-7
2500円(税別)


   リレーショナル・モデルについて理解を深める

 リレーショナルデータベースの基礎概念から、実践にの設計に至るまで、その考え方を体系的に解説する。背景となる考え方や具体的な技術までを網羅している。特に、正規化の説明は非常に優れている。

長沢氏:「リレーショナルデータモデルを詳細に理解するために、その誕生から意義、正規化理論に関して理解を深めることができます。最適なデータベース設計を行うためには、これらの意味を十分に理解することが必要になります。本書は1990年に出版されたため、商用RDBMSに関する内容が最新情報に更新されていない点が残念ですが、データモデリングに関する記述は現在も変わらぬ原則として生き続けています」

リレーショナルデータベースの基礎 データモデル編

増永良文著
オーム社
1990年10月
ISBN4-274-07564-8
2800円(税別)


   データウェアハウスを理解したい方のため

 企業の持つ膨大なデータを有効活用するための新しい管理技術として、データウェアハウスを解説した入門書だ。データウェアハウスの考え方、データベースとの関係、構築方法から活用方法まで、初心者にも分かりやすいよう解説している。企業の情報管理部門向けの内容だ。

長沢氏:「データウェアハウスは、利用者の要求にフレキシブルに対応して自由に情報を引き出す仕組みです。データベースの構築方法や情報にアクセスするための方法は多種多様です。本書は、データウェアハウスに関連する用語がすべて網羅されており、特徴を容易に理解することができます。データウェアハウスを理解するための入門書として最適だと思います」

データウェアハウスがわかる本

鈴木健司著
オーム社
2000年6月
ISBN4-274-07904-X
1500円(税別)


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