データベースエンジニアを目指せ!

顧客の変化とともに成長するエンジニアになる

下玉利尚明
2003/3/7

 データベースエンジニアとひと口にいっても、データベースの開発者、データベースの管理者というように、現場での仕事内容はさまざまだ。今回は、サイベースのセールスエンジニアリング部 プリンシパルエンジニアの永渕隆志氏に、実際の現場での業務と合わせながら、データベースエンジニアとなるために必要な知識やスキルについて、そしてどんなエンジニアが求められているのかについてお話を伺った。

顧客ニーズの変化

サイベース セールスエンジニアリング部 プリンシパルエンジニア 永渕隆志氏●プロフィール 1990年、日本タイムシェアに入社後、サイベース製品のライセンス販売担当からSybase製品マーケティング、広報、およびサイベースとの窓口業務などを経験した後、1995年に技術部門に転籍。サイベース製品のテクニカルサポート&プリセールスを担う。1996年、サイベースに転職し、プリセールスエンジニアとして活躍。主にテレコム業界を担当

 永渕氏は、いわゆるプリセールスエンジニアである。金融、流通、製造、官公庁など多くの顧客を回り、顧客が何を求めているのかを聞き出し、サイベースのデータベース製品やサービスの販売につなげる「お客さまの最初の窓口」(永渕氏)にあたる仕事を担当している。サイベースのプロダクト、サービスに関する深い知識はもちろんのこと、オラクルのOracle9iやマイクロソフトのSQL Server、IBMのDB2など他社のデータベース製品やサービスについての知識が必要となる。こうしたことを知っているのがプリセールスエンジニアというイメージがある。

 しかし、永渕氏によれば「最近はお客さまのニーズそのものが様変わりし、製品、サービスに関する知識だけではプリセールスエンジニアとして通用しないことが多いようです」という。サイベースの製品を他社製品と比べて、「ここが優れているから導入を検討されてはいかがですか」といっても、「データベースの比較はもういいよ」といわれてしまう。現在は、もう一歩さらに踏み込んだ提案が求められるという。

求められる能力や知識

 そのため、実際の現場では、顧客が「何を実現したいのか」を聞き出し、他社製品を含めて、「以前に使用していたデータベースでは、どこに問題があったのか」を明確にする。そしてサイベース製品では、その問題を「どう解決できるか」を提案していく。自社の製品、サービスをはじめ、サポート、導入事例までをトータルで把握し、顧客に提案できなければならない。プリセールスエンジニアには、サイベースや他社製品を含めたデータベース製品に関する深い知識だけではなく、顧客のニーズをヒアリングする能力、ソリューションの提案能力が求められているようだ。

 それでは、永渕氏は具体的にどのような知識とスキルを身に付けているのだろうか。「多くのお客さまがデータベースの重要性は十分に認識し、基本的な知識も身に付けている場合があります。そのため、プリセールスエンジニアには、技術や知識だけではなく、その周辺のスキルが求められているのです。私の場合は、金融、流通といった、業界に関する知識も不可欠になります」

データベースの知識だけでなくハードウェア、ネットワーク、OSについても知っておくべきだという永渕氏

例えれば、それは医者

 永渕氏は、自分が担当する業界に関する専門紙・誌を中心に知識を収集し、「業界のタイムリーなキーワードはキャッチアップするように努力しています」とのことだ。また、現場ではデータベースのパフォーマンス向上についての相談を受けることが多い。その場合、「真っ先に疑うべきはデータベースの設計です。そこで設計に関する知識、次にハードウェア、ネットワーク、OSについても『プロフェッショナル』なレベルではなくても、相手先のそれぞれのエンジニアとしっかりとコミュニケーションできるレベルの知識は必要となると思います」。それらの知識をベースに、パフォーマンスが向上しないボトルネックは何かを解明していくのである。そのほかにももちろん、データ構造、SQLの理解、物理設計、論理設計などは、ひととおり手順を踏んで理解していなければならない。

 他社製品を含めて、データベース製品の歴史は長く、製品も数多く市場に出回っているのに、いまだにどの製品についても、体系的に「こうすれば100%のパフォーマンスを発揮できる保証はない」(永渕氏)のが実情である。そのため、データベースのパフォーマンスを向上させ、最適な環境を提供するために、さまざまな角度から検討し、ソリューションを提案するのである。

 「私の仕事は、例えるなら『医者』のようなものだと思っています。どう具合が悪いかを聞き出し、これまでの生活習慣、食生活を尋ねるように過去にどのようなデータベースを、どのように使っていたのかを聞き出すのです。それがどこまでできているのか、自分ながら心配ですが……」(永渕氏)。実際の現場では、データベースのサーバを目の前にしながら、「昨日、どのベンダやSIer(システムインテグレータ)がやって来て、どこをどういじっていたか」を詳細に聞くこともある。しかも、「どうしても解決できない場合には、その「ベンダさんやSIerさんを訪ねて、直接お話を聞くこともあります」と、笑いながらいう。

具体的な勉強方法

 さて、現在はプリセールスエンジニアとして活躍している永渕氏は、どのように勉強をすることで知識とスキルを身に付け、キャリアアップしてきたのだろうか。

永渕氏は、実践することが理解の早道だという

 永渕氏は、多くのエンジニアと同様に、データベースに関する書籍や専門雑誌で知識を吸収したり、外部のトレーニングコースにも参加したりしたそうだが、初めてデータベースを「理解できる」と感じたのは、「自分でデータベースをインストールして、自分で実践してみたとき」だったそうだ。

 「専門書に書かれている内容を読んで、キーワードの意味は理解できても、自分の頭の中で具体的なイメージにつながらない。実際に自分でデータベースをインストールし、環境を整えたマシンで専門書に書かれている内容を実践してみたときに初めて『体感』でき、理解できたのではと思いました。昔と違い、いまは自宅でも簡単にデータベースの環境を整えることができます。読んで覚えるだけでなく、実際に実践してみることが重要だと思います」(永渕氏)。

 永渕氏は、オフィスにも自宅にもハイスペックなマシンを用意し、いつでも実践できる環境を整えているそうだ。しかも顧客を回り、トラブル発生から解決までの一連の流れをそのマシンなどで再現し、その解決パターンを覚える作業を日々続けている。「トラブル解決までの一連のプロセスで発生した顧客とのやりとりのドキュメント、履歴は絶対に捨てません。それこそデータベース化し、ナレッジとして保存してあります。経験を積んでいくと解決パターンが見えてくるので、A社での事例をB社に援用する、といったことも可能になります」とのことだ。

サービス志向にこたえられるエンジニアに

 永渕氏はいま、顧客のニーズが大きく変わりつつあることを実感しているという。顧客は、データベース製品だけを求めるのではなく、「サービス志向が非常に強くなっている」と感じている。ハードウェア、データベース製品、ネットワーク単体ではなく、システム全体で提案できなければならない。

 そのため、これからのエンジニアには、システム全体を見通すだけの知識とスキルも求められてくることになるだろうというのだ。永渕氏は、「SQLの知識は当然のこととして、Javaアプレット、Javaサーブレット、XML、アプリケーションサーバなどの知識は、これからのデータベースエンジニアにとって不可欠の知識となると思います。Javaからスタートしたエンジニアは、SQLの知識がなくてもデータベースとのやりとりができるようになりつつありますが、それはそれで問題があります。SQLの知識は大前提です。そのほかに、さまざまな知識とスキルが求められているのです。また、クラスタについても『もう知っていて当然』の知識になりつつあります。ITとビジネスプロセスが接近しつつある現在、もう『素晴らしいデータベースです』だけでは通用しません」と語る。

永渕氏のオススメ書籍

 それでは、最後に永渕氏がお薦めする本を紹介しよう。

   分散型のデータベースが分かる

 データベースの基本概念から、分散型データベースとは何か、分散型データベースのシステム形態、分散型データベースのトランザクション管理、分散処理のためのネットワークまで、多くの図を用いて分かりやすく説明されている。

永渕氏:「これからデータベースを勉強したい初心者向けの書籍です。SQLに特化しているわけでもなく、アーキテクチャなど全体的に基本的な知識を身に付けるには優れた書籍だと思います」

図解分散型データベースシステム入門(COMシリーズ)


疋田定幸著
オーム社
1989年5月
ISBN4-274-07513-3
2800円


   OLTPの技術や事例などを学べる1冊

 OLTPの技術の概要、OLTPシステムの環境、トランザクション機構に基づくデータベース保護のメカニズムや事例、動向が掲載されている。クライアント/サーバのOLTPシステムに合ったベンチマークの仕様も紹介されている。システム開発者だけでなく、ネットワークやデータベースなどを手掛けるエンジニアにお薦めの1冊だ。

永渕氏:「エンタープライズを構築する際の心得が分かりやすく解説されていて、役立った書籍です。タンデムの話が中心ですが、オンライントランザクションを『こうさばけばいい』と理解できます。いまでもたまにリファレンスとして利用しています」

OLTPシステム オンライントランザクション処理

渡辺栄一ほか著、渡辺栄一編訳
近代科学社
1995年8月
ISBN4-7649-0240-0
4078円


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