「怪盗ロワイヤル」開発チームは2009年5月15日に結成された。最初の2〜3日は毎日、各自10案ずつアイデアを持ち寄っていた。これは「企画者はもちろん、エンジニアも」だという。ゲーム開発未経験者だった彼らは、ニンテンドーDSやネットゲームを参考に各アイデアをブラッシュアップし、5月25日には2〜3案まで絞り込んだ。
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その後、キーコンセプトの詳細をエンジニアが決め、企画書を作成、社内でゲームに詳しい人やマーケターに相談した。ところが、相談を持ち掛けた全員が「何が面白いの?」と見向きもしなかったという。企画書だけで納得してもらうのは無理だと考えた彼らは、「実際に動くものを作って見てもらおう」と、6月上旬には制作をスタートさせてしまった。
6月下旬までに、キャラクターデザイン決めの作業を行った。「ルパン三世」を意識したスタイリッシュなコンセプトを基に、イメージに合ったイラストレーターを探し、コンペをして決定した。こうしたプロセスにも、エンジニアがしっかりかかわった。エンジニアがこうした仕事にかかわるのはとてもDeNAらしいところだと能登氏は語った。
キャラクターデザイン固めた後に、PerlとMySQLというDeNAの標準的な環境で開発を始めた。しかし、「(画面も機能も)圧倒的にしょぼかった」(能登氏)ため、Flashを導入することに決めた。新卒エンジニアはFlashの未経験者だったが、一から勉強して1カ月で実装を完了した。こうして「怪盗ロワイヤル」は9月上旬には一通り完成した。
その後、社内外でユーザーインタビューを行い、得たフィードバックを基にブラッシュアップの日々が続いた。
「9月はかなり夜遅くまでやってました。別に、上司にやれといわれてやっていたわけではなくて、自分たちで『いいモノを作るために』やっていたんです」
9月25日にリリースした「怪盗ロワイヤル」だが、最初は4万人限定のクローズドリリースだった。直前までプログラムを直していたので、「正直、バグがあるのは承知のうえだった」(能登氏)そうだ。ユーザーの反応を見て、簡単すぎず、難しすぎず、というバランスを取るため、各種パラメータのチューニングに明け暮れた。10日間ほどデバッグとチューニングを続け、10月8日に正式リリース、課金を開始した。
公開後はいきなり想像以上のPV規模になってしまったため、今度は負荷との戦いになった。データベースチューニングを専門とする社内のインフラエンジニアが参加し、データベースの分割やチューニングを行う日々が続いた。安定したのは「つい最近」(能登氏)のことだ。
この事例を基に、能登氏は「DeNAでは、良いサービスにするためにエンジニアがどんどん企画にかかわっていくし、口を出す」と説明、「誰かが作ってといったものをただ作るのがエンジニアの仕事ではなく、エンジニア自身がどういうものを作るべきか考えながら作る」と語った。
また、DeNAのサービスは「たくさんの人に使ってもらうのがゴールであり、受託開発のように『完成させることがゴール』ではない」という点を能登氏は強調した。そのため、リリースしてからユーザーの反応を見てチューニングしていく必要があり、外注ではスピードが追い付かない。だからこそ、自社開発が行える体制と、メンテナンスしやすい美しいコードが重要になるのだという。
まとめとして能登氏は「ITエンジニアはソフトウェアやネットサービスを作るうえで欠かせない存在。どんなに良い企画でも、エンジニアがいなければ実現しない。外注していては勝てない」と語った。また、「自分たちで何を作るべきか考え、コードを書いて、世界を変えていこう」と強調。そのためにも、「何を作るべきか、エンジニア自身が考えられるような会社を選んでほしい」と締めくくった。
続いて、サイボウズ・ラボの竹迫良範氏が登壇。Perlコミュニティ「Shibuya.pm」の2代目リーダーとしても知られる竹迫氏は、「ITエンジニアと株式会社の付き合い方(恋愛編)」と題し、ユニークな「株式会社論」を語った。
サイボウズ・ラボ 竹迫良範氏 |
「株式会社とは誰のものでしょうか?」という問いから講演はスタート。竹迫氏は「株式会社が株主のもの」であるとするならば、「株式会社はすでに機械のものではないか」と語った。近年、人間の代わりにコンピュータが大量の株取引を行うシステムトレードや、あらかじめ条件付けしておいた設定で取引を行うアルゴリズム取引が普及してきている。プログラムが株を売買しているのであり、「その会社を生かすかどうか、実はコンピュータが判断を握っているのではないか」と語った。
さらに竹迫氏の(不思議な)トークは加速。サーバやデータセンターは快適な居住空間と空調設備が与えられ、絶え間ない電力供給が行われ、故障するとすぐ人間が駆けつける医療保障まで付いていると語り、「すでに人間は機械の奴隷なのかもしれない」と竹迫氏流のジョークを展開した。
また、竹迫氏は「人間はウイルスを生命であるとまだ定義できていない。ウイルスが生命なら、コンピュータウイルスも生命といっていい」と説明。一方で「人間は記号化されたコミュニケーションを行い、意思決定を検索やリコメンドエンジンに委ねるようになってきている」と語り、「機械は人間らしくなってきているし、人間は機械らしくなってきている」と、人間と機械の境界があいまいになってきていることを強調した。
ここで竹迫氏は話を変え、株式会社の歴史について解説を開始。「法人格」の誕生を例に取り、「会社と出資者が契約を結べるように、会社を法的に『ヒト』と同じように見立てた。非常にバーチャルな事例」と説明した。竹迫氏によれば、これは「(恋愛ゲームの)『ラブプラス』のヒロインと恋愛し、結婚してしまうのと変わらない」のだという。「すべてはバーチャル。株式会社もゲームとの恋愛も、バーチャルを利用してリスクを分散する仕組みだ」(竹迫氏)
株式会社やラブプラスは(バーチャルな意味で)ヒト。ウイルスが生物なら、コンピュータウイルスも生物。生物と非生物の定義はあいまいになり、世界はどんどんバーチャルになっている――そう竹迫氏は主張し、「バーチャルな社会にITは不可欠。そういう社会をつくり、動かしていくITエンジニアはすてきな仕事だ」とまとめた。
最後に登壇したのはサイボウズの田縁英司氏。大学院修了後、NTTデータ、富士通系システム企業を経て、2004年にサイボウズに入社した田縁氏は現在、パッケージグループウェアやインフラサービス、ネットサービスの開発に従事している。
サイボウズ 田縁英司氏 |
田縁氏は「IT業界のヒ・ミ・ツ」と題しつつも、「実は大してIT業界の秘密は話に出てこない」と苦笑い。学生が「ブラック企業」に入って後悔しないためにできる「3つのこと」を解説した。
1つ目は「住みたい世界を選ぶ」こと。ITの仕事はひとことでは説明できないほど多岐にわたる。職種はさまざまだし、業種もさまざま。それぞれで求められる技術力やコミュニケーションスキルは異なる。「おそらく、着ている服も違うと思いますよ」とカジュアルな服装をした田縁氏は語る。
こうした「多種多様な世界」について学び、自分がどの世界に住みたいのかを明確にすることが重要である、と田縁氏は強調した。採用面接などでよくあるケースとして、「あれもやってみたい、こういう仕事でも構わない」などといろいろいって、結局その学生が本当は何をやりたいのかが分からない、という例を挙げ、「何を目指したいのか、しっかり考えておくこと」の重要性を説いた。
2つ目は「住みたい世界を知る」こと。自社開発と受託開発で「世界の内側」はまったく異なるし、上流か下流かという点でも大幅に変わる。「もしかしたら、あなたの住みたい世界では、ポインタの知識より簿記の資格の方が必要かもしれない。住みたい世界のことをしっかり知ることが重要」と田縁氏は語った。
3つ目は「入ってしまったら覚悟を決める」こと。希望どおりの会社に入れたとしても、すぐに希望の仕事ができるとは限らない。ただし、そこで腐ってしまうのではなく、アンテナを常に張り続けることが大切だという。「必ずチャンスは巡ってきます。そのときにチャンスを逃さないこと」――そう田縁氏は話して講演を終えた。
講演終了後は、各社のエンジニアと学生数人ずつがグループとなって座談会が行われた。直接、エンジニアたちに話を聞けるという点は、少人数制セミナーの利点といえるだろう。
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