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プロからのアドバイス:横山隆一教授インタビュー

5年後のためにいま動け。付け焼刃に頼らない就活を


金武明日香(@IT自分戦略研究所)
2010/3/8


3月は、就職活動生にとって正念場である。面接がどんどん進んでいる学生もいれば、自分の就職活動を見直そうとしている学生もいるだろう。学生はどのような行動指針を持って就職活動をすべきか、いますぐ改善できる行動はないか。大学院の教授からアドバイスをもらった。

 就職活動の選考が進んでいるいま、学生は「自分は何ができるのか」「企業はどんな人を求めているのか」と、改めて考察する時期に来ているのではないだろうか。作業に追われがちな時期だからこそ、あらためて就職活動を俯瞰してみる必要がある。早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科教授の横山隆一氏に、就職活動中の学生が持つべき「目線」と「能力」について、アドバイスをもらった。

「ナレッジ」と「インテリジェンス」、できる人間が持つ2つの能力

 「企業が求める学生、それは“インテリジェンス”を持つ学生です」と、横山氏は主張する。インテリジェンスとは、いったいどのような能力なのだろうか?

早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科教授 横山隆一氏
早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科教授
横山隆一氏

 「できる人間」として評価される能力は大きく分けて2つある。ナレッジ(知識)とインテリジェンス(知恵)だ。ナレッジとは、「正解のある問題に正答する」能力のことだ。ナレッジを持つ人間は、教科書に書いてある内容を正しく理解し、試験の際には優秀な成績を残すことができる。「いわれたとおりのことをきちんとこなす能力」ともいえるだろう。

 一方で、インテリジェンスは「答えのない問題に取り組み、解決する」能力だ。そして、企業が求めるのは「答えのある問題」を適切に解ける学生ではなく、「答えのない問題」に果敢に取り組む学生なのだ、と横山氏は語る。

 「企業は常に、『消費者はどう考えているのか』や『新製品をどう開発するか』など、答えのない問題と対峙しています。そのため、企業は答えのない問題に取り組む能力――すなわちインテリジェンスを持つ人間を求めているのです」

まずは「行動」――知識を経験に変える「実践」訓練をせよ

 それでは、「インテリジェンス」は具体的にどのような能力なのだろうか。横山氏は「知識を探す力」「知識を経験として身に付ける力」「身に付けた経験で問題を解く力」という3つの要素を挙げた。

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 例えば、誰かの家に行くとしよう。まず、地図や電車の経路などの「情報」を自分で探す必要がある。情報を利用して目的地にたどり着ければ、次からは情報がなくても行けるようになる。知識が身に付いて、自らの「経験」となっているからだ。経験を生かせば、新しい場所にどんどん行くことができる。

 知識を探し、経験を身に付け、いま目の前にある問題を解く「問題解決能力」こそがインテリジェンスである。ただ知識を集めるだけではなく、実践して「経験」とすることが重要なのだ、と横山氏は語る。

 本来なら、これらの能力は学生時代に身に付けておくべきものだ。しかし、日本の大学は問題解決能力を会得しにくい環境である、と横山氏は指摘する。その背景には、大学の授業形式と学生自身の意識、2つの問題があるという。

 アメリカの大学は、授業の半分以上がディベートで、皆が自分の意見を述べる環境が整っている。しかし、日本の大学は教授が一方的に教えるスタイルであるため、自分の考えを表明する機会がない。そのために問題解決をする実践の場が大きく失われているという。

 日本とアメリカの差はそれだけにとどまらない。また、学生の勉強への意識も大きな差がある。「休講があったとします。日本の学生達の多くは『やった!』と喜びますが、アメリカの学生は『いつ補講をやってくれるんだ』と詰め寄ります。勉強への姿勢や真剣度がまったく異なるのです」(横山氏)。

就活生は「百聞は一見にしかず」を頭に叩き込め

 それでは、十分な社会経験を積んでいない学生は、どのようにして問題解決能力を身に付ければいいのだろうか。

 「いますぐできることは2つあります。『情報を十分に集めること』と『実際に足を動かしてものを見ること』です」と、横山氏はアドバイスする。

 「就職活動中の学生は、まず就職したい業界や企業の情報をしっかり収集してください。自分の興味がある業界を絞り、経営理念や業務内容、強みの技術や目標を深く調べるのです」。自分の興味がありそうな企業を漫然と20社くらいを回って「自分に合う会社はないだろうか」と場当たり式に探すのは愚の骨頂だ、と横山氏は忠告する。

 そして、十分な情報を収集したら、次は企業が「自分に何を望んでいるのか」を知ることが必要だ。会社のニーズをとらえずに「わたしはこれがしたい」という自分中心の志望動機を述べても、企業側からは魅力的に見えない。「A企業は、この目標を達成するために、適切な人材を探している」という、会社のニーズをまずとらえる。その後に、「自分がそのニーズに応えることができるか否か」を判断する必要があるという。

 また、横山氏は「足を動かした情報収集」を推奨している。志望する業界の展示会やエキスポなどは、業界の雰囲気や規模を知るのにうってつけだ。インターネットだけに頼った情報収集は限界がある。実際に見ないと分からないことはたくさんあるからだ。

「付け焼刃」に頼らないために、“いま”学生が持つべき心得

 横山氏は「土壇場になってから慌てないよう、もっと先のことを見据えるべきだ」と強調する。大学入試は、大学に入ることが目的ではない。大学で学び、その知識を社会で生かすことが目的だ。同様に、企業に就職すること自体を目的にするのではなく、「入社したその先」を見据えて行動すべきである。では、今後社会人として働く学生が、将来を見据えて持っておくべきものは何だろうか。

 「人間関係ですね。友人関係を作ること、そして外に出ていってコネを作ることが大切です」と、横山氏は語る。仕事は1人でするものではない。自分で情報収集をしながら、いろいろな人の意見を聞き、仕事を進めていく。そのときのために、いろいろな場所に友人や知人のネットワークを作っておくことは非常に役に立つ。

 さらに、英語を中心とした語学力も必要だ。特に理工系学生の場合、仕事はグローバル化が進み、外国との接触が避けられない。積極的に外国に行って、語学研修やプレゼンテーションを経験して語学力を身に付けるべきだ、と横山氏はアドバイスする。

 また、横山氏は米国電気電子工学学会(IEEE)の学術誌『proceeding』などの「英語で書かれた論文」を読む習慣をつけるよう勧めている。「専門的な知識を習得しながら、技術英語にも慣れ親しむ方法として非常に有効です。IEEEの学会誌は、世界最先端の情報が掲載されていて、慣れれば極めて読みやすい雑誌です。『雑誌を読む』という少しの努力によって、短期間に実務的な知識と経験を得ることができるため、わたしは研究室の学生に義務つけています」と語る。

 企業は、5年後にプロジェクトを任せられる人材になってほしいという期待を込めて学生を採用する。5年後に活躍するには、現時点で未来を見据える「長期的な視線」が必要不可欠となるだろう。面接対策などももちろん必要だが、将来を見据えて「未来への投資」を始めてみてはいかがだろうか。いまから始めて遅すぎるということは決してない。



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