「エンジニアの未来サミット for students」レポート。Rubyの生みの親であるまつもとゆきひろ氏が、エンジニアを目指す学生に向けて「成功する方法」を語った。おとぎ話「わらしべ長者」のように、自分がやりたいことや好きなことを“わらしべ”にして、世界に飛び立とう。 |
「目指せ、わらしべ長者」 |
技術評論社とサイボウズは12月11日、エンジニアを志望する学生を対象としたセミナー「エンジニアの未来サミット for students」を開催した。同セミナーは、10月から月1ペースで開催されている。
最終回である第3回のテーマは「まつもとゆきひろのグローバルエンジニア論」。Ruby設計者のまつもとゆきひろ氏が、「エンジニアとして成功する方法」「世界で通用する人間になるために持っていたい心構え」について講演した。
「皆さんの中で、失敗したいと考えている人はほとんどいないと思います」――まつもと氏はこう学生に呼びかけ、「成功する方法」というキーワードを挙げた。
まつもとゆきひろ氏 |
成功するために必要なのは、まず「自分にとっての成功」を定義することだ。「自分はこんなことがしたい」「こうなりたい」という「成功」の定義を“自分で決めること”がかなり重要だと、まつもと氏は強調する。
「皆さんの多くは、組織に所属することになるでしょう。通常、組織があなたたちに望むのは、組織にとって都合のいい人間であってほしいということです。でも、それは皆さんが望む姿とは違うかもしれません」
だからこそ、自ら決める必要があるのだという。さらに、まつもと氏は「人生は平等でない」と語る。生まれる国や環境は人それぞれ違い、アドバンテージを持つ人とそうでない人が存在する。人生のスタート地点は同じではない。
だが、スタート地点が違っても、それは大きな問題ではない。成功するルールを知っていれば、スタート地点の差はある程度縮められる。
成功=目標×行動×運
「目標」「行動」「運」のうち、「運」は自分では動かしようがないものだが、「目標」と「行動」は自分でコントロールできる。というわけで、次のステップは「目標を決める」ことだ。目標には、
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という2種類がある。短期的な目標とは、1〜5年以内に実現したい目標だ。社会状況はそれほど変化しないため、ある程度は予測可能である。長期目標は5〜10年という、長いスパンでものを見なくてはならない。ただ、長期目標を立てるのはなかなか難しい。IT技術は日進月歩で発達しているため、10年後という遠い将来を描くには相当の想像力が必要になる。だから、まずは「短期的な目標」を設定することから始めるのが肝心だ。
次に考えるべきは「行動」だ。「行動しなければ成功はない」と、まつもと氏は強調する。行動しなければ何も始まらず、成功もない。
プログラムで書くとこうなる |
だが、どんなに頑張っても、努力が報われない場合がある。「行動しなくては始まらないが、行動してもダメな場合もある。最後は結局、運に左右されてしまうのか」――その疑問に答えるかのように、まつもと氏は「運任せのところはあるにしても、成功確率は上げられる」と語る。
その方法として、まつもと氏は下記の2つの方法を提示する。
「たとえ100回失敗しても、101回目で成功したらその人は成功者になります」
「時間的確率向上」とは、シンプルにいえば「成功するまでやる」ことだ。成功する確率が10%のことがあったとすれば、計算上は10回チャレンジすれば1回は成功する。最後に立っていた者が勝者になるのだ。
まつもと氏の言葉は、「失敗を恐れずにチャレンジせよ」というメッセージでもある。
特に、IT技術を使って新しいサービスを始める場合、何かにチャレンジするコストは劇的に下がっている。リスクがそれほど大きくない分、何度でも挑戦しては失敗できる。このようにして、成功する確率は上げられると、まつもと氏は解説する。
「空間的確率向上」――これは「自分はどこで戦うか」ということだ。
上記の条件が満たされていれば、成功する確率は上がる。だが、ここで考えなくてはならないのが「マーケットの広さ」だ。全国で100人しか欲しがらないサービスは顧客が少な過ぎる。できるだけ、自分の「専門分野」を求めるマーケットが広いことが重要だ。そこで、日本だけではなく世界に目を向けてみることが必要になってくる。
自分の専門分野をどのように世界に届けさせればいいのか?
上記のうち、「物流」「通信」のコストは数十年前に比べて劇的に下がった。一方、変化しないものもある。「言語」「意識」の壁は、いまだに根強く残っている。
だが、まつもと氏によれば、「壁を越える方法はいくらでもある」。
まつもと氏は「世界共通語は“英語”ではなく“下手くそな英語”」と述べ、「下手でも取りあえず話す」ずうずうしさが日本人には必要なのでは、と提案する。エンジニアなら、英語が分からなければプログラミング言語で会話する、という方法だってある。壁は、越えようと思えば越えることができるというのが、まつもと氏の主張だ。
壁を越える方法として有効なのが、「わらしべ長者」メソッドだ。
わらしべ長者は、自らが持っていた1本のわらをミカンや反物と交換し、ついには屋敷を手に入れる。「自分が持っているものを“てこ”にして、1つ上のものを得る」――これが「成功の大きな原則」だとまつもと氏は語る。
「わたしが筑波大学にいたころ、プログラミングする人は周りにたくさんいました。しかし、プログラミング言語を作ろうという人はほとんどいませんでした。わたしはプログラミング言語が大好きな、いわば変人だったのです。しかし、この“言語が好き”という気持ちが“わらしべ”だった」
まつもと氏の証言「口を開け」「自分を磨け」「外に出よ」 |
まつもと氏は「プログラミング言語が好き」という気持ちをてこにしてRubyを設計し、英語でドキュメントを整備したり、情報発信をすることによって、言葉の壁を破って世界に飛び出した。いま、Rubyは世界中で使われる言語になっている。
「皆さんは、ほかの人が知るに足る人物でしょうか?」。まつもと氏はこう問い掛ける。
「皆さんは、ほかの人が知りたいと思っている情報をすでに持っているんじゃないかと思います。自分が持っている情報=“わらしべ”を発信してみると、新しい道が開けるかもしれない」
「自分のわらしべをどのようにして見つければいいか」という学生からの質問に対して、まつもと氏は「インベントリ=棚卸し」を提案した。自分が好きなこと、やりたいことを定期的に見直す作業=「棚卸し」をすることによって、自分の“わらしべ”を見つけられるかもしれないという。
最後にまつもと氏は「皆さんも、何か得意なことがあるはずです。これまで好きだったことや得意なものを“わらしべ”にして頑張って、成功に近づいてください」と学生を励まし、「目指せ、わらしべ長者!」とまとめた。
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