[条件1] コミュニケーションスキル
プロジェクトマネージャが開発プロジェクトをスムーズに牽引(けんいん)していくために、コミュニケーションスキルは必要不可欠な要素だ。ところで、コミュニケーションスキルとは、どのようなスキルを指すのだろうか。「プロジェクトマネジメントスキル 実践養成講座」は、以下のようにシンプルに定義している。
要は「適切な相手に」「適切な情報を」「適切なタイミングで」「適切な手段」で伝えることである。誰かに何かを伝える際にはこの4つの観点を押さえることが円滑なコミュニケーションに向けた第一歩といえる。
上記の4つのポイントをさらにシンプルにすると、「誰に」「何を」「いつ」「どのように」という5W1Hのうちの主要な疑問要素を「適切に」配置することを指すようだ。5W1Hのうち、残りは「どれ」「なぜ」だ。実は、コミュニケーションの健全なあり方を観察すると、「どれ」や「なぜ」もたいへん重要な要素だということに気が付くはずだ。膨大な情報や多数の選択肢の中から「どの」情報を選ぶか。決定事項の動機を論理的に説明する場面も出てくるだろう。こう考えると、コミュニケーションスキルというのは、5W1Hを適切に運用できることだということが分かる。
さらに考えを進めてみる。では「適切」には、どの程度までのゆらぎが許容されるのだろうか。どういう状態が適切なのか。
プロジェクト管理の標準的な方法論に「PMBOK」(Project Management Body of Knowledge)というものがある。PMBOKには、コミュニケーションマネジメントを定義した箇所がある。こう記述されている。
コミュニケーションマネジメント(と)は、プロジェクト情報の生成、収集、配布、保管、廃棄をタイムリーかつ確実に行うために必要なプロセス(である)
このプロセスは、以下の4つの要素で構成される。すなわち、
- コミュニケーション計画
- 情報配布
- 実績報告
- 完了手続き
だ。以下、簡単に解説する。
「コミュニケーション計画」というのは、プロジェクト内での情報の伝達手段を決めておくことを指す。連絡事項の通知方法や、議事録の作成者とその配布・閲覧方法などを定めておく。
「情報配布」における成果物には、「プロジェクト記録」や「プロジェクト報告書」「プレゼンテーション資料」が含まれる。プロジェクトの推進に必要となる情報を漏れなく記録し、関係者間で共有すべきである。
「実績報告」とは、進捗(しんちょく)管理や要求の変更管理など、プロジェクトを展開する過程で生じるさまざまな変更の把握のことである。
「完了手続き」は、あらかじめ定めておいた(プロジェクトの)マイルストーンや達成すべき目標に対し、中断、中止、終了といった判断を下すプロセスを決めておくことだ。
[条件2] 問題解決力
開発プロジェクトを率いるために必要なスキルとして「問題解決力」はとても重要だ。「問題解決力」とはどんな力か。出来(しゅったい)した問題の本質を透視し、最も効果的な解決手段を検討するだけではなく、問題解決の陣頭指揮をしていく膂力(りょりょく)のことである。
「初めてのプロジェクトリーダー」第5回では、問題の本質をつかむプロセスを3段階に分けて解説している。すなわち、
- 別々の問題が交ざっていないか、切り分ける
- 同じ原因で、違う現象が発生している問題を整理する
- 問題の本質ではない事柄を排除する
である。
問題解決において、何より重要なのは、以上のように、何が問題なのかをシンプルに整理することである。問題が整理されれば、それぞれの問題の本質について、原因を推測し、解決策を導出することも、それほど難しい作業ではなくなる。つまり、問題解決の要諦(ようてい)は、問題そのものの姿をきれいに洗い出すこと、なのだ。
[条件3] リーダーシップ
プロジェクトマネージャの資質で「リーダーシップ」は欠かせない。「何かがおかしいIT化の進め方」第26回で、筆者の公江義隆氏は、リーダーシップを構成する要素を3つに分解した。それが以下である。
- 目標設定力
- 動機付けをする力
- 統率力
チームが「きちんと」動くには、チームを構成するスタッフそれぞれに共通した目標が必要だ。プロジェクトマネージャは、チームの目標を設定してあげなければいけない。目標はビジョンという言葉に置き換えてもいい。“このチームは何を達成するために招集されたのか”ということをはっきりさせること。チームメンバーが、チームの存在意義を疑い始めたら、どんなプロジェクトも失敗するのである。そして、ビジョン(目標)を設定できたら、
「何のために、何を、どのようにして、どこまでやるか」
という風に、目標達成のための具体的な方法も明確にする。
チームメンバーがチームのために活動する動機(モチベーション)は、チームの目標が適切かつ明確に設定されていなければ、発生しない。これは前提である。この前提を元に、プロジェクトマネージャは、個々のチームメンバーのモチベーションを本人と合意のうえで、詰めていくことが求められる。理想は、チームメンバー個人の欲求と、チームとしての目標が同じ方向を向いていること。個々のチームメンバーの小さな欲求がそれぞれ満たされることが、結果として、チーム目標の達成にも貢献するように構造化されているとチームはわりとスムーズに動く。
リーダーシップを構成する最後の要素として、大切なのは、統率力だ。「何かがおかしいIT化の進め方」第26回では、こんな風に表現している。
優れたリーダーといわれる人にも実にさまざまなタイプがいる。大きく分ければ、1. 引っ張っていくタイプ、2. 押していく(支援)タイプ、さらにすごいのは、 3. 一見何もしていないように見えるのに、うまくいく人がいる。
統率力にもいろいろな種類があるようだ。ただし、結局、ポイントは1つ。統率力とは、チームメンバーをまとめあげ、目標達成のための行動を展開させる力のことである。
[条件4] 成功に対する執着心
プロジェクトマネージャにも優秀な人がいれば、そうではない人もいる。“できるプロジェクトマネージャ”と“それなりのプロジェクトマネージャ”を分けるものは何なのか? 「有能プロジェクトマネージャ育成術」第3回で、筆者の大上氏は、両者の違いをこのように解説している。
一般PMに支配的なビヘイビアだったのは、そもそも与えられた目標をただ達成すればいいという気持ちであった。それに対して有能なPMたちに共通していたのは、与えられた目標よりも良くすることに執念を燃やしていた点である。一番の違いは、結果を出すことへの執着心の差である。多くの場合、それは上司の同様の考えや行動を見て身に付けたものであった。
「結果を出すことへの執着心の差」。一見すると、強靭な精神力や粘り強さといった人間の性質的な側面を語っているようである。性質を変えるのは非常に難しい。そういう意味で、プロジェクトマネージャに“向く”人と“向かない”人がいるのは仕方がないことだろう。だが、先天的な要素と思われがちな“向き不向き”を、技術的に克服する方法はないものだろうか。
大上氏は、
一般PMをできるPMのレベルに近づけていくためには、彼ら一般PMに対して本来的に期待する水準について合意形成を行い、その上で一般PMに不足しているものを見極めて、それを手順化した形で教え、さらに場を与えて鍛えていけば育成の可能性があることが分かった。
としている。優秀なプロジェクトマネージャのノウハウを方法論として体系化し、1つ1つの手順を教えながら、実践することで育成の道筋が立つというのである。
[条件5] 人徳
プロジェクトマネージャたるもの、高い「人徳」を備えたいものである。プロジェクトマネジメントの技術体系に習熟するだけでは、さまざまな個性が集まるチームをまとめあげることはなかなかできない。
「あるプロジェクトマネージャの私点」第6回で筆者の野村氏は、
「正しいことをしていれば必ず自分に返ってくる」といえます。
と書いている。例えば、こんなケースがあるとする。
プログラムを開発しているが、どうしても納期までに完成しない。先週の報告で進ちょくに問題なしといってしまった手前、いまさら遅れましたともいえない。主要な機能は開発したから、例外処理の一部くらいなくても動くには動く。どうせバレないから一部開発せずに納品しよう。
納期の厳守とコストの削減を第1に考えれば、この例のように、一部の例外処理を無視したくなるかもしれない。もしかしたら、リリース後も顧客にバレないで済む可能性がある。しかし、このような手抜きはいつか必ず、自分が関わるプロジェクトに深刻な影響を及ぼすことになるだろう。
さらに、手抜きを是認する性質は、心あるスタッフの反発を招く。結果的にチームの結束力は弱まり、生産性は低下、成果物の質も落ちる可能性が非常に高い。プロジェクトマネージャの責務は、「プロジェクトの計画どおりの遂行」だけにあるのではない。
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以上、「凄腕プロジェクトマネージャ」を構成する5つの要素を紹介した。“凄腕”を目指すあなたはこのうちいくつの要素を持っているだろうか?
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企画:アイティメディア営業本部
制作:@IT自分戦略研究所編集部
掲載内容有効期限:2008年05月31日
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