エンジニアのための
Linux認定資格・試験ガイド
第3回 LPI認定試験の傾向と対策
中島能和
2002/5/29
Linuxの認定資格・試験について、雑誌やWebサイトで見掛けることが多くなってきた。しかし、Linuxの認定試験というと、まだまだマイナーな印象を受ける。また、まとまった情報を見る機会も少ない。そこで本連載では、Linux関連の認定資格・試験の全体像を提示した後、各資格試験の特徴や傾向などを紹介していく。 |
■LPI認定とは
「LPI認定」(LPI Certified、略してLPIC、エルピックと読む)は、カナダに本部を置く国際的な非営利団体(NPO)であるLPI(Linux Professional Institute:Linuxプロフェッショナル協会)が実施する、Linux技術者のための認定プログラムだ。LPIは、ベンダやディストリビューションにとらわれず、Linux技術者の力を中立的な立場で認定する機関として1999年に設立された。日本ではLPI-Japanが普及活動を行っている。
LPI認定の特徴は、試験の開発がオープンな形で行われていることだ。業界関係者からヒアリングを行って必要項目を洗い出し、それに基づいてLinuxのエキスパートが問題を作成する(問題作成やベータテストに参加することも可能だ)。試験の難易度は、ベータテストを通して合格率が65%前後になるように設定される(表1)。また、試験内容が古くなりすぎないように、定期的な見直しも行われている。なお、レベル1の試験については、近々改訂が行われる予定だ。
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表1 LPI認定試験の試験情報 |
LPI認定は3段階のレベルに分けられている。レベル1(基礎)、レベル2(中級)、レベル3(上級)のうち、現時点ではレベル1とレベル2が、英語および日本語で実施されている。レベル3は2002年中に開始される予定だ(表2)。認定を取得するには、それぞれのレベルごとに2つの試験に合格しなければならない(レベル3は2試験を選択)。
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表2 LPI認定レベル |
レベル1は、半年〜1年程度の実務経験があるLinux技術者を想定している。レベル2は、3〜4年程度の実務経験があるLinux技術者を想定している。
■レベル1の試験の種類と範囲
レベル1の試験は、101試験と102試験に分かれている。LPI認定レベル1を取得するには、両方の試験にパスしなければならない。同時に受験する必要はなく、どちらから先に受けてもよい。レベル1の難易度は「比較的簡単」と書いたが、これは合格ラインが低めに設定してあるためで、出題される問題は初歩的なものからかなり高度なものまでさまざまであり、難易度の幅は広い。決して易しいというわけではない。
レベル1の試験は「Linux一般」となっているが、101試験はコマンドの利用についてや、Linuxそのものの理解に関する出題が多く、102試験についてはネットワークとパッケージ管理に重点が置かれている(表3)。
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表3 レベル1試験の出題範囲 |
上記の表の各項目について、さらに細かく内容を確認してみよう。
「GNU&UNIXコマンド」では、基本的なコマンドやbashシェルの基礎知識、プロセス管理、テキストフィルタコマンドを使った処理(head、join、sedなど)、ファイル管理の基礎、ワイルドカードや正規表現について出題される。
「デバイス、Linuxファイルシステム、FHS」では、パーティションやファイルシステムの作成と管理、マウントとアンマウント、ディスククォータの設定、アクセス権や所有権によるファイルアクセス制御、ハードリンクとシンボリックリンク、ディレクトリの構造とFHSに基づいたファイル配置、ファイルの検索などについて出題される。
「起動、初期化、シャットダウン、ランレベル」では、ブートローダの仕組み、システムの起動や終了、ランレベルの変更などが出題される。
「ドキュメンテーション」では、オンラインマニュアルの使い方や、lessなどのページャの使い方、インターネットを利用したドキュメントの検索方法について問われる。
「アドミニストレーション業務」では、ユーザーアカウントやグループアカウントの管理、環境変数、syslogの設定と運用、cronやatを利用したシステム管理の自動化、効率的なバックアップについて出題される。
「ハードウェアとアーキテクチャ」では、PC/AT互換機の基礎知識と、ハードウェアまわりの簡単な設定について問われる。BIOSの設定やIRQ、I/Oアドレス、SCSIインターフェイスなど、基本的なハードウェアの理解が必要となる。
「Linuxのインストールとパッケージ管理」では、ディスクパーティションの切り方、ブートローダの詳細、ソースからのソフトウェアインストール、RPMやdpkgでのパッケージ管理、共有ライブラリについて問われる。特にRPMとdpkgでのパッケージ管理はかなり詳細なレベルで問われる。
「カーネル」では、カーネル構築の基礎知識と、カーネルモジュールの管理(lsmodやmodprobeなど)について出題される。
「テキスト編集、印刷」では、viエディタの使い方、ローカルもしくはリモートプリンタの設定と運用について問われる。
「シェル、スクリプト、プログラミング」では、簡単なシェルスクリプトと、シェル環境のカスタマイズについて問われる。なお、シェルはbashが対象となっている。
「X Window System」では、XFree86の概要からインストールと設定、XDM、ウィンドウマネージャについての知識が問われる。X Window Systemの特徴と仕組みを正確に理解しておく必要があるだろう。
「ネットワーク基礎」では、TCP/IPの基礎知識(IPアドレスやポート、プロトコルなど)と、簡単なトラブルシューティング、PPPやDHCPの基礎知識からの出題がある。
「ネットワークサービス」では、スーパーサーバinetdと、sendmail、Apache、DNS(BIND)、NFS、Sambaといったサーバについての基礎的な知識が問われる。
「セキュリティ」では、TCP Wrappers、シャドウパスワード、パッケージの検証、SSHなどについて問われる。
それぞれ出題トピックごとに重要度が10段階で決められていて、重要度の高い範囲からはそれだけ出題も多くなる。試験対策を行う際には、重要度をあらかじめ確認しておいた方がよいだろう。試験についての詳しい情報は、LPI本部サイトに掲載されている(101テストの詳細、102テストの詳細)。
■試験の種類と範囲(レベル2)
レベル2の試験は、201試験(Linux応用管理)と202試験(Linuxネットワーク管理)に分かれている。LPI認定レベル2を取得するには、レベル1認定に加え、両方の試験にパスしなければならない。難易度は「やや難解」としておいたが、普段から実務でLinuxに携わっていれば、少なくとも実務で扱う範囲についてはそれほど難解とは感じないだろう。ただ、対象範囲が広いので、実務だけではカバーしきれない場合が多いかもしれない。その点に注意する必要がある。
201試験はハードウェアまわりのシステム管理やトラブルシューティングが中心となり、202試験ではネットワークと各種サーバが中心となる(表4)。
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表4 レベル2試験の範囲 |
上記の表の各項目について、さらに細かく内容を確認してみよう。
「ファイルシステム」では、ファイルシステムの詳細な設定、デバイスファイルの追加など、レベル1より高度なシステム管理知識が問われる。
「ファイル共有サービス」では、SambaとNFSに関して出題される。レベル1にも同じテーマはあるが、こちらは数段難しくなり、実務レベルでの出題となる。WINSサーバなど、Windowsネットワークの基本的な理解も必要になるだろう。
「ハードウェア」では、デバイスの設定、新規ハードウェアの追加、RAID、LVM、PCMCIAなどについて問われる。
「カーネル」では、カーネルエラーの診断と問題の特定、カーネルモジュールの管理、カーネルの再構築、ハードウェアに関する問題の修正について出題される。
「システムの起動」では、ブートの詳細な仕組みについてやinit、LILOのトラブルシューティングに関する出題がある。
「システムメンテナンス」では、リモートのsyslogサーバ、RPMなどソフトウェアパッケージの作成、システムのバックアップについて問われる。
「トラブルシューティング」では、ブートディスクの作成や、システム環境の診断と修復について問われるが、幅広い知識が必要とされる。
「スクリプト・スケジューリング」では、cronやatに加え、シェルスクリプトやsedについても問われる。
「メール・ニュース」では、sendmailの構成とinndニュースサーバ、majordomoメーリングリストサーバについての設定が問われるが、sendmailに関する出題が中心で、バーチャルメールドメインやprocmailの知識も必要だ。
「セキュリティ」では、ipchainsやiptablesを使ったIPマスカレード、匿名FTPサーバのアクセス制御、OpenSSHの導入と運用、inetd/xinetdによる制御、Kerberosのインストールと設定などが問われる。
「ネームサーバ」では、BIND8の知識が問われる。DNS全般の理解はもちろん、chrootを使ったセキュアな運用についての理解も求められる。
「Webサービス」では、Apacheの知識が問われる。一般的な設定はもちろん、バーチャルホストやSSLの設定に関する知識も問われる。また、squidによるプロキシサーバの理解度も問われる。
「ネットワーク」では、基本的なネットワークコマンド(ifconfigやroute、netstatなど)やルーティングに関して出題される。ダイヤルアップサーバの設定(mgettyや認証プロトコルの設定など)についても問われる。
「クライアント管理」では、DHCPやNISの管理、LDAPサーバの設定と運用、PAM認証について出題される。
「ネットワークトラブルシューティング」では、基本的な設定ファイル(/etc/resolv.confや/etc/hostsなど)や基本コマンドを使ったトラブルの特定と修復について問われる。
このように、対象とする範囲はかなり広く、実務レベルの出題がなされるので、業務でカバーできていない分野については、それなりの対策が必要になるだろう。
レベル2についての詳細な情報も、LPI本部サイトにある。「201テストの詳細」、「202テストの詳細」をご覧いただきたい。
■受験方法
現在、受験会場となっているのはVUEのみであるが、近々アール・プロメトリックでも受験できるようになる予定だ。試験の申し込みはVUEのWebページ上から申し込めるが、申し込み前にまずアカウントを作成しておく必要がある(無料)。アカウントの登録には1営業日かかるので、早めに準備しておこう。
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写真1 オライリー・ジャパンの『LPI Linux認定試験クイックリファレンス』 |
■試験対策(レベル1)
出題の多くは選択問題であるが、出題の2割弱は、コマンドや用語をキーボードから入力する記述式問題だ。単にコマンドを入力するだけのものから、引数やオプションも正確に入力しなければならないものまで、難易度にずいぶん開きがある。
LPI認定レベル1の主な試験対策教材としては、オライリー・ジャパンから刊行されている『LPI LINUX認定試験クイックリファレンス』(写真1)と、技術評論社から刊行されている『標準合格テキスト LPI Linux認定試験』(写真2)がある。『クイックリファレンス』は解説が大変充実しており、『標準合格テキスト』は模擬問題が多数収録されている。
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写真2 技術評論社の『標準合格テキストLPI レベル1 Linux認定試験』 |
もちろん書籍のうえだけの試験勉強では意味がない。試験のテーマを理解し、実際にLinuxを動かしてみることが必要だ。おそらくLinuxで業務をやってきた人でも、レベル1に登場するコマンドの中にはあまりなじみがないものもあるだろう。それを理解することによって、よりLinuxを効果的に扱えるようになると思う。
コンピュータスクールの中には、LPI認定対策向けの講座を開設しているところがある。現在はまだ数校だけのようだが、今後は増えてくるものと思われる。
■試験対策(レベル2)
原稿執筆時点では、レベル2に対応した市販教材は、英語・日本語を問わず存在しない。書籍や雑誌などでも十分学習できるので、Linux関連の月刊誌などを丹念に読んでいれば、1〜2年程度でレベル2相当の知識を得ることも可能だろう。もちろん知識だけではなく、相応の経験が求められることはいうまでもない。Linux JF(Japanese FAQ) Projectのドキュメントは参考になるものが多いので、試験のトピックに関連するドキュメントに目を通しておくことをお勧めする。
■試験終了後
レベル1の場合は、101・102試験の両方に合格した後、1〜2カ月程度で、LPI本部より認定証が郵送されてくる(基本的に月末締め、翌月発送だ)。レベル2の場合も、201・202試験の両方に合格した後、同様に認定証が郵送されてくる。認定のための手続きは特に必要ない。同封されている書類に記されたURLからロゴの画像データをダウンロードし、名刺にロゴを入れることもできる。
■LPI認定の意義
エンジニアとしてLPI認定を取得することにはどんなメリットがあるだろうか。
ベンダにとらわれないLinux技術者の認定資格としては、現時点ではLPI認定が標準と考えられつつある。これは、Linuxに力を入れている大手ベンダがスポンサーとしてバックアップしていることも関係あるだろう。
また、LPIは世界共通基準で認定を行っているため、国際的に技術力をアピールできるという面もある。
最後に、LPI認定に限ったことではないが、試験のための学習を通して、それまで漠然と業務をこなしてきた場合でも、その経験を体系的に整理して理解することができる。そのことによってLinuxに関する理解を深め、業務の効率を向上させることも可能だろう。
Linuxが使われる現場のヒアリングに基づいて作成され、Linuxに関する幅広い知識と実践のノウハウが求められるLPI認定の取得を目指すことは、Linuxのエキスパートに近づくための、1つの優れた道筋と考えてもよいのではないだろうか。
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筆者紹介 |
中島能和● 株式会社クロノス常務取締役。講師としてLinux/ネットワークの研修に携わりつつ、書籍の執筆やエンジニアの採用も手掛けるエンジニア。効率的なLinux教育を模索していたときにLPI認定を知り、Linux関連資格・試験にのめりこんでいるという。 |
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