キャリア実現研究室 Book Review(1)
「転職を考えたとき」に読んでほしい6冊
〜転職先選びやキャリアデザインに活用しよう!〜
藤村厚夫、堀内浩二、小林教至
2004/1/20
2月から4月にかけて転職活動を行う人は多い。昨今は採用する企業側も、中途採用を増やして未経験者の採用数を減らしつつある。その意味では、即戦力となり得るエンジニアにとっては、いままで以上に大きなチャンスが訪れているといえるだろう。しかし、転職には情報収集が不可欠だ。と同時に、明確なキャリアビジョンがないままに転職すれば、失敗に終わる可能性もある。
そこで3人の選者がそれぞれの立場から、「転職志望者」にオススメの本をピックアップした。すでに転職活動の準備をしている人も、これから情報収集をする人も、満足のいく転職を実現するために、ぜひ参考にしてほしい。
エンプロイアビリティを高める 「魅力的なキャリア仮説」とは |
キャリアの教科書〜「自分の人生。自分の仕事」をつかむエンプロイアビリティの磨き方 佐々木直彦著 PHP研究所 ISBN:4-569-62998-9 2003年7月 1600円(税別) |
「エンプロイアビリティ」。「雇われる能力」と直訳できるこの語は、現代のビジネスマンにとり、キャリアを考える際のポイントをいい当てている。不安な時代、リスクある時代であればこそ「雇われる」ことは大きな主題となる。
本書の特徴は、エンプロイアビリティの観点でキャリアを設計する(あるいは再設計する)ための「教科書」を目指した点だ。
著者は、エンプロイアビリティの基本に、1.専門能力、2.自己表現力、3.情報力、4.適応力の4つの能力を挙げる。「情報力」とは、自身の専門能力をめぐる情報や人的ネットワークを、また「適応力」は雇用環境への順応力であり、同時により柔軟に自分を変化させる力を意味する。これら4つを磨くことが、総合的に「エンプロイアビリティ」を高めるというわけだ。
さらに、著者はエンプロイアビリティの高い人の共通項として、「魅力的なキャリア仮説」の存在を挙げる。彼らは「自分は、いま、なぜこの仕事をしているのか」「ここに至るまでの道のりはどのようなものだったか」「どんなビジョンを描いて、どのようなスタンスでいまを生きているのか」を魅力的に表現しているというのだ。
これらを整理するための問い、フロー、表現法などを提供することに、教科書としての本書の価値がある。総合的に自身のキャリアを考えたい読者にとって、格好の導きになるはずだ。
メジャーリーグもビジネス |
チャンスに勝つピンチで負けない 自分管理術 長谷川滋利 幻冬舎 ISBN::4-344-00274-1 2002年11月 1300円(税別) |
2003年、シアトル・マリナーズでクローザーの地位をつかんだ著者が自身の成功法則を解説したのが本書である。本書を選んだ理由は、「メジャーリーガーもビジネスマンだ」とする著者が、その成功法則「セルフ・マネジメント」について説得力あふれる解説をしているからにほかならない。
では、その「セルフ・マネジメント」とは何か。「まず、ゴールを設定する。すべてはそこから始まる」。そして「何をすればいいのかを次に考える。それから中期、そして次に短期のゴールを設定していく」。最後に「そのプランを日常で実行するとき、セルフ・マネジメントができるようになる」のだ。ゴールを実現するには、定めたゴールを必ず紙に書き留める、自分が集中できるときのイメージを複数用意しておくなどのイメージトレーニングも重要だという。
ビジネスマン長谷川滋利が、マウンドというビジネスシーンで見いだした「チャンスで勝つために必要な」秘けつとは、このゴールを基に「自分がコントロールできるもの、できないもの」を見定め、「オーナー意識」「起業家の視点」を持つ、そしてそれらを実現するために「人や情報を手に入れる」といったこと。視点を変えていえば、これらはすべて「雇われる能力」、エンプロイアビリティを指しているのだと得心できるだろう。
ピンチに際して必要以上に追い込まれず、ポジティブに「考えるクセ」を作るのに役立つ本、と説明すれば、読みたくなる方も多いだろう。同時に元気の出る本でもある。
「あたりまえ」に考えることが 自分の才能を伸ばす! |
あたりまえのアダムス ロバート・アップデグラフ、 酒井泰介訳 ダイヤモンド社 ISBN:4478760845 2003年11月 1000円(税別) |
『あたりまえのアダムス』は1916年に発表された50ページ弱の短い物語。これに、アイデアや計画が「あたりまえ」なのかを見分ける5つのテストと「あたりまえ」のことを発見する5つの方法という短い解説を加えたものが本書だ。
学歴も人脈も専門知識もないアダムスは、雑誌や新聞の切り抜きといった仕事から身を起こし、有名な広告代理店の副社長として活躍するまでになった。その彼の武器が「あたりまえ」に人と接し、働くことだ。副社長になっても平々凡々としているアダムスの痛快なエピソードは本を読んでいただくとして、彼が貫く「あたりまえ」主義は転職を考えている人にも役立つだろう。
われわれはしばしば、環境を変えることで自分を変えよう、伸ばそうとする。もしあなたが転職を考えているのなら、新しい人間関係で刺激を受けたい、新しい仕事で自分を伸ばしたい……などの理由があると思う。
しかし、転職によって変わるのは「環境」だけであり、それに伴って自動的に自分が変わったり伸びたりするわけではない。それこそ「あたりまえ」のことだが(笑)、つい混同してしまいがちだ。常に「あたりまえ」に考えるアダムスは、環境が自分を変えてくれると期待するのではなく、自分から環境に働きかけていく。
そもそも彼が広告の世界に興味を持ったのは、夜学の講義でオズワルドという社長の話を聞いたことがきっかけだった。その翌日には、直接面会を求めてオズワルド氏の会社を訪問している。
うまく面会できたか、オズワルド氏に雇われたかという結果は、ここではさほど重要なテーマではない(ちなみに、面会はできたがその場で採用には至らなかった)。しかし通読すると、オズワルド氏の下で働くと決心したから、まず本人にそのことを伝えようと試みる、その「あたりまえ」主義を貫いたことが彼を成功に導いてきたことが分かる。
これは簡単なように見えてなかなかできることではない。例えば「会社から正当に評価されていない」と悩む人に、「ではそのことについて上司と納得いくまで話し合ったか……」と聞くと、実際に自分が納得いくまで行動している「あたりまえ」な人よりも、「どうせ聞く耳持っていないから」といってあきらめてしまう人の方が多いのではないだろうか。
しかし、どんな企業で働いていても、環境も自分自身も刻々と変わっていくもの。自分から積極的に「環境をつくろう、変えていこう」と試みることなく転職したら、きっと次の職場でも似たような不満を持つかもしれない。
(この例では自分を正当に評価してもらおうという)「あたりまえ」の姿勢を持ち続けることが、選択は「配置転換」か「転職」なのかは分からないが、結果的に自分を生かす・伸ばす環境で働くことにつながる道なのではないかと教えてくれるのである。
「成功者ほど不幸になる」という逆説 |
成功して不幸になる人びと ジョン・オニール著、神田昌典、平野誠一訳 ダイヤモンド社 ISBN:447873268X 2003年12月 1800円(税別) |
この本でいう「成功」とは、仕事上の成功のこと。大企業の経営幹部になったり、起業してもうけたりという、一般的に「成功した」と見なされている人たちは、なぜか「幸せになれない」という逆説(原題は直訳すると『成功のパラドックス』)を掘り下げた本だ。
部下には不信を抱き、家庭からは尊敬を受けず、物理的にも精神的にも自分の時間を楽しむ余裕がない。そんな「成功した不幸な人びと」が生まれるメカニズムが前半に、そしてあなたがそうならないためのテクニックが後半に書かれている。
仕事の成功が人生の幸せに結びつ付かない(と知りながら成功を追求せずにはいられない)というメッセージについては、こんな感想を持つ人が多いのではないか。
・「成功もしていないのに成功の先を考えても仕方がない」
・「そういう著者だって、先に成功してメシが食えているからそういうことをいう余裕があるのだ」
わたしも反射的にそう思った(笑)。しかし、いったん「不幸せな成功」をしてしまうとなかなか、その場から降りることが難しいという。だから、いまのうちに「幸せな成功」について考えておくことが大切なのである。
そこで、多少私見を交えて「成功のパラドックス」を要約してみたい。不幸になりたくて成功を目指す人はいないだろうから、そもそも誰もが幸せになるために成功を目指していたはずだ。ところが、夢中になって成功を追いかけているうちに、「成功さえすれば幸せは自動的についてくる」と考えてしまう。
そしていつの間にか手段が目的にすり替わり、成功(とそれを維持すること)こそが“意志決定の判断基準”になってしまう。このパラドックスに陥る原因は、自分バージョンの「幸せ」を自分で定義してこなかったことにある。何をもって「成功」と呼ぶのかを考えることは、内省的な作業を伴う。これが結構面倒であったり気恥ずかしかったりする。そして、どこかから他人の言葉を借りてきて自分の中に据えてしまうのだ。
著者が勧めるのは自分なりの抱負をリスト化すること。
・「学習と再生をいつまでも続ける人生。そんな人生を送る原動力になるのは、どんな人生を生きるべきか、時間をかけて取り組みたいものは何か、取り組む価値のあるものとは何かというビジョンである」
こうした作業は意識的に行わなければやり過ごしてしまう。納得のいく転職をするためにも、成功と幸せの関係について自分なりに整理しておきたいものだ。
「転職しなければ……」と焦る前に |
採用の超プロが教える 仕事の選び方人生の選び方 安田佳生著 サンマーク出版 ISBN:4-7631-9551-4 C0030 2003年11月 1300円(税別) |
「苦労せずエンジニアとして就職できたので、いざ転職するときに困りました」。@ITジョブエージェント経由で転職した方々にインタビューしたが、このように答える方が多い。何に困ったかというと「自分にとって仕事って何?」とか「自分に合う仕事って何?」という自分の仕事観をいままで考えたことがなかったからだ。
学卒で就職活動するときに、なかなか内定をもらえないような経験をすると(私もだ)、このような仕事観や人生観について自問自答を繰り返す。一見不毛な自分探しのようだが、実は社会人を始めるに当たって重要なプロセスだ。
本書はタイトルに「採用の超プロが教える」とあり、ありがちな就職ノウハウ本のようだが、内定獲得テクニック的な内容は1つもない。働くということ、自分と企業との関係、さらには人生の意味にまで言及している。
「人生を楽しもうという気のない人に、仕事ができるわけがない」というフレーズは気に入った。当たり前のことのようだが、目先の仕事にきゅうきゅうとしているとハッとさせられる。開発スケジュールに追いまくられているエンジニアの方には共感いただけるのではないだろうか。
いまの仕事に不満や不安があり、とにかく転職しなければ、と焦りを感じている方には、転職活動を始める前にぜひ読んでいただきたい一冊だ。
マーケティングとキャリアの見事な融合 |
自分マーケティング!〜売れるジブンづくりの仕組みと仕掛け HRインスティチュート著、 野口吉昭編 日本能率協会マネジメントセンター ISBN:4-8207-4196-9 2003年12月 1500円(税別) |
突然だが、「マーケティング」の定義をいえるだろうか? 日本マーケティング協会では次のように定義している。「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」
学生時代にマーケティングを専攻していた私は、この長ったらしい定義(失礼)ではなく、「売れるための仕掛けづくり」と解釈していた。本書のサブタイトルはまさに「売れるジブンづくりの仕組みと仕掛け」。これで思わず買ってしまった。
本書には「4P」や「ポジショニングマップ」「AIDMA」「SWOT分析」などマーケティング戦略の理論が随所に登場する。それらに「キャリアアンカー」や「プランド・ハップンスタンス・セオリー」、「コンピテンシー」などキャリア形成に関する理論をミックスし、売れる自分になるための手法を解説している。
さらに、「ジブン戦略」(当サイトとは違い、自分がカタカナ!)の具体的な作り方を解説しているのだ。当サイトに携わる私からしても、分かりやすく、取り組みやすい内容で参考になる。巻末には、本書中に解説された手法を使って、実際に分析などが書き込める「myノート」まで付いている。読むだけでなく、行動をサポートしてくれる。
当サイトで提唱する自分戦略もそうなのだが、本書で紹介されている数々の手法も、転職を成功させることが最終目的ではない。ありたい自分を明確にし、その実現を確実にすることで幸せな人生を歩むことが目的なのだ。
以上、これら6冊の書籍を、自分の人生観、キャリア観を考える際の参考にしてほしい。そして転職先を選ぶ際は、自分戦略に合った動機、仕事内容をお忘れなく……。そうすれば、きっと新天地へ転職しても、大いに活躍できるのではないだろうか。
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