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採用の舞台裏から見える転職事情

第1回 転職者が来ない企業で分かる採用事情

山本直治(キャリアコンサルタント)
2006/9/8

転職を考えるITエンジニアは、つい書類選考や面接をどうすれば突破できるかに目が向かいがちだ。そんなとき、転職者を募集する企業の舞台裏では、どんなことが起きているのだろうか。まずは己の敵を知れということで、キャリアコンサルタントが求人企業の裏事情を紹介する。転職する際の参考にしていただきたい。

決め手に欠く企業

 「A社もB社も面接の印象は悪くありませんでした。はっきりいって、どちらに転職しようか迷っています」

 複数の企業に応募し、見事複数の企業から内定を得た転職希望者から、よくこうした相談を持ち掛けられることがあります。おそらく、どちらの企業も本人にとって決め手となるような特徴を欠いているのかもしれません。

 こんなとき、転職希望者の意思決定の決め手となるのは、キャリアコンサルタントが各社に対して抱いている印象に基づく助言(そのソースは、過去にその企業に入社した人材から聞いた話や、キャリアコンサルタントが企業から聞いた生の声)であることが少なくありません。

 今回は、キャリアコンサルタントが持っている企業の印象が、どのようにつくられるかについて、例を挙げて転職の舞台裏をお話しすることにしましょう。

 われわれ人材紹介会社のキャリアコンサルタントは、しばしば営業に同行して求人企業を訪問し、求人情報を直接ヒアリングすることがあります。そんなときの一幕をご紹介しましょう。

 「御社から弊社へのご紹介(=応募)は多く、内定も出ているのですが、入社が少ないのです(=辞退が多い)。どうしてなのでしょう(=どうにかしてください)」

 この場合の「御社」は人材紹介会社のことで、「弊社」とは求人企業のことです。つまり、あなたの(私の勤めている)人材紹介会社から当社への応募は多く、当社も内定を多く出しているが、入社してくれる人が少ないんだよね。何とかしてくれないか、というような内容ですね。

転職活動では複数応募が当たり前

 転職活動においては、転職先を1社に絞って応募することはまずありません。複数の企業に応募することが一般的であり、どんな大手・有力企業であっても、内定者に一定の確率で辞退されることは避けられません。一般論としては、内定した企業間に規模や○次請けなどの明らかな差があれば、その中でより上位の企業を選ぶのが自然な選択でしょう。

 これを覆すことは難しいことは誰もが知っていますから、冒頭のような相談をしてくるのは、規模も似通った企業で、人材獲得競争で敗れることの多いところになります。

 実は、私はこうした企業には共通の特徴があると考えています。笑わないで聞いていただきたいのですが、それは

・特徴がないことが特徴

だということです。

 人材紹介会社の人間が求人企業を訪問した際には、人事部門の方を通して現場で働いている方を紹介していただき、現在募集している求人の背景、採用したい人物像や職場の雰囲気などを話してもらいます。せっかくの機会なので、当方から「われわれコンサルタントから候補者の方に御社を提案する際にアピールすべき特徴・魅力は何ですか」と質問することもあります。すると不思議なことに、内定辞退者の多い企業ほど、自社の特徴を自信を持ってスパッと語ってくれないことが多いように感じます。

特徴がない企業を例えると

 そんなときに私はいつも思ってしまいます。こういう企業は、合コンパーティに参加しながら「アピールタイム」でモジモジするオクテな人と同じではないのか、と。

 ちょっと話は飛びますが、IT業界におけるソフトウェア/ハードウェア製品(ソリューション)のパートナー営業の構図を思い出してみてください。パートナーの販路を用いて売り上げ増大を目指すベンダは、パートナーがプロダクトやソリューションを売りやすいようにノウハウを提供したり、サポートを充実したりするのが当たり前です。

 これを人材紹介会社に当てはめて考えてみましょう。求人企業は人材紹介会社と連携して自社の採用増大を目指します。ということは、人材紹介会社は求人企業になりかわって商品(=その企業そのもの)を転職希望者に広く売り込んでいくパートナーのようなものなのです。

 ITベンダがパートナーへのケアを怠らない理由は何でしょうか。怠れば競合他社製品を売られてしまうからです。同じことは、求人の世界でもいえるのです。キャリアコンサルタントに多くのアピール材料を託した競合他社に内定者を取られていってしまうということですから。

あなたの勤める会社には魅力がありますか

 一見似たように見える企業の中でも、人材の獲得競争に強い企業は、人材紹介会社をパートナーととらえて、われわれに対して「顧客名」「開発手法」「研修制度」「福利厚生」など、きちんとしたキーワードを上手に伝えてくるものです。

 キャリアコンサルタントへのアピールがうまいということは、次のような好循環を生みます。会社の情報を人材紹介会社に多く伝える→コンサルタントから人材へのアピール材料が多くなる→入社が増える→過去に入社した人材から人材紹介会社へのフィードバックも増える→さらに企業アピールがしやすくなる、というわけです。

 もし今後皆さんが人材紹介会社から企業提案を受け、採用内定を得た場合は、そういった観点も踏まえて企業選びをすることをお勧めします。コンサルタントにその手の質問を投げ掛けるのもよいかと思います。

 そして最後に。この記事をお読みになったあなたが現在所属する会社には、人を招き入れるるための特徴・魅力はありますか。ないとすれば、なぜあなたはいまの企業にいるのでしょうか。それは、あなたがいまの企業に満足していない1つの証しかもしれません。

筆者プロフィール
山本直治
労働市場の限界と格闘しながらITエンジニアのキャリア形成をサポートする公務員出身の異色キャリアコンサルタント。 現在はロード・インターナショナルで活躍中。



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