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採用の舞台裏から見える転職事情

第2回 求人スペックは転職の絶対条件ではない

山本直治(キャリアコンサルタント)
2006/10/6

転職を考えるITエンジニアは、つい書類選考や面接をどうすれば突破できるかに目が向かいがちだ。そんなとき、転職者を募集する企業の舞台裏では、どんなことが起きているのだろうか。まずは己の敵を知れということで、キャリアコンサルタントが求人企業の裏事情を紹介する。転職する際の参考にしていただきたい。

決め手に欠く企業

 こんにちは。キャリアコンサルタントの山本です。今回は、私が人材紹介会社に転職して以来ずっと気にしてきたことをお話ししてみたいと思います。

 それはIT業界に限ったことではないのですが、求人スペック(採用に際して求人企業が求める人材の要件のこと)の書き方が企業によってまちまちであるということです。分量、項目、細かさ、あいまいさ、挙げればきりがありません。

 私がガチガチの役所出身だから気にしすぎなのでしょうか(笑)。でも求人スペックの書き方が企業によって異なることで、自分の経験はその企業の募集スペックに合っているのかどうか、応募先を検討する際に戸惑った経験のある方は少なくないはずです。

 ITスキル・経験の客観的指標として期待されたITSS(ITスキル標準)が、求人スペックにおいて活用されているとはお世辞にもいえません。だからといって別に、企業に求人スペックを必ず細かく丁寧に書いてほしいと申し上げたいわけでもありません。

求人スペックは企業選びの材料だが

 求人スペックは、キャリアコンサルタントからの企業提案の材料であり、転職希望者自身による応募企業選びの材料でもあります。

 これが細かくMust(必須)やWant(希望、尚可)といった形で指示されると、キャリアコンサルタントも応募者も選考の敷居が高くなったと感じます。それは「このスペックでは無理だろうな」という憶測につながり、そもそも人材コンサルタントが提案しない、提案されても応募者自身が応募をあきらめる、応募者が自分で転職したいといって見つけてきても人材コンサルタントが応募に難色を示す、といった形で、応募すれば受かっていたかもしれないところでも、応募を見送ってしまうことがあります。

 一方、求人スペックがあいまいすぎるのも問題です。企業が求める人材とかけ離れた人が多数応募してしまっては、採用側、応募者、人材紹介会社のすべてが無駄な労力を使うことになります。

 結局は、そうしたさまざまなバランスを考慮して、それぞれの企業の判断で現在のスペックに落ち着いたということになるのでしょう(何の答えにもなっていませんね!)。

Mustと書かれている項目でも

 そんな、なかなかくせものの求人スペックですが、実をいうと私は昔から、応募者にとって有利になるように拡大解釈する主義です。求人スペックにMustと書かれている項目のうち1つぐらい経験が不足していても、転職希望者本人はもちろん、企業への応募の窓口となる自社(人材紹介会社)の営業の人間を説得して、応募してもらうことは少なくありません。

 そんな場合に、書類選考はもちろん、面接もとんとん拍子で進み、内定を得られることもままあります。応募前に営業から先方に電話でこの人に足りない経験について確認したら、「○○の経験は必須です」と念押しされたにもかかわらずです。こんなとき営業は「○○さんの内定はミラクルですね」といってくることもありますが、私はそうは思いません。

 もちろん、必須のスペックが足りないことに目をつぶって応募させた別の会社では、「何のために御社を使ってると思ってるの」と、大目玉を食らうこともあります。しかしすべての会社がそうではないのです。各人各様なのですね。

求人スペックとは

 こうした経験を含めて、求人スペックというものについて私が思うこと、それは

・求人スペック(特に職務経歴・スキル)への整合性というのは、採否を決定付ける最重要要素ではあるが、絶対ではない。

ということです。実際、ある人がある企業で不採用になったとき、その企業が「彼がもう少し若ければこの経験でも採用できたのに」などといってくることが多いのです。

求人スペックは全体から判断すべし

 つまり、求人スペックとは、「経験」「スキル」そのものが単体で判断されるとは限らないのです。時には年齢やキャッチアップの可能性(ポテンシャル)といったほかの要素と連動して、求人スペックにいう「経験」「スキル」の不足もカバーされることがある、と考えた方が現実にかなっていると思います。

 また、求人票の記述は変わらなくても、急募案件なのに人が採れないとなれば企業は、「暗黙のスペック」を下げてきますし、採用は続けているけれど充足感が出てくると逆にそれは上がってしまいます。就職は「運と縁」だといわれるゆえんです。

 状況により変化する微妙な基準をいちいち差し替えるのは煩雑です。それならば、求人企業のWebサイトで公表する求人スペックの記載や人材紹介会社へ渡す求人スペックは、ある程度幅を持たせたものにする。これも採用の知恵の1つなのでしょう。

 ということで、求人スペックがいかにくせもの、いや「魔物」であるかがお分かりいただけたでしょうか。その最新状況を知るためには、最新の暗黙スペックを知っている、信頼できるコンサルタントの協力が不可欠です。

 転職をご検討中のあなたも、自分の経験・スキルが要求スペックにちょっと足りなくても、「やってみましょう」と賛同してくれて、人材紹介会社内で求人企業担当の営業にしっかり掛け合って応募につなげてくれる、そんなキャリアコンサルタントにぜひお話してみるといいですよ。

筆者プロフィール
山本直治
労働市場の限界と格闘しながらITエンジニアのキャリア形成をサポートする公務員出身の異色キャリアコンサルタント。 現在はロード・インターナショナルで活躍中。



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