第6回(最終回) 採用の基本、2つのスキルが欠けてたら
山本直治(キャリアコンサルタント)
2007/2/22
転職を考えるITエンジニアは、つい書類選考や面接をどうすれば突破できるかに目が向かいがちだ。そんなとき、転職者を募集する企業の舞台裏では、どんなことが起きているのだろうか。まずは己の敵を知れということで、キャリアコンサルタントが求人企業の裏事情を紹介する。転職する際の参考にしていただきたい。 |
本連載では、これまで5回にわたって、企業の採用の舞台裏について解説してきました。最終回である今回は、ITエンジニアのキャリアについて総括的に考えていきたいと思います。
■基本の基本――採用の基準となる2つの能力
何をいまさら、といわれそうですが、企業がITエンジニアの採用を選考するときの物差しには、いくつかあります。学歴、年齢、業務経験……。中でも若手エンジニアにとって特にポイントになるのが「能力」です。
といっても漠然としているので、もう少し具体的に申し上げましょう。多くの企業の採用担当者は、ITエンジニアの能力を大きく2種類に分けて評価しています。1つはテクニカルスキル(技術力)。そしてもう1つはヒューマンスキル(人物面)です。
前者は、アプリケーションやOS、サーバやネットワークなどを構築、開発、保守する能力であり、後者は、業務を円滑に進めるためのコミュニケーション能力と、その延長にあるチームプレー適性(マネジメント、リーダーシップを含む)などを指します。
これら2つの能力は、ITエンジニアとして働くうえで車の両輪といえるものです。特にシニアな職種、すなわち上流工程(コンサルティング、要件定義)やプロジェクトマネジメントを担当する場合、両方を兼ね備えていなければ仕事になりません。
それ以外の職種(若手システムエンジニア、プログラマなど)では、そうでなくても務まることはありますが、若手であっても、両方を兼ね備えた人が望まれていることは間違いありません。
ですが、すべての人がそうした2つの能力を持っているとは、残念ながらいえません。では、これらのうち一方または両方が不足する人がIT業界で転職をしようとしたとき、採用現場ではどういうことが起こるのかを、以下で見ていきましょう。
■一方が足りない場合
例1:ヒューマンスキルはあるがテクニカルスキルが不足する人
IT業界のエンジニアとしての経験が1〜2年程度あるいは未経験のため、テクニカルスキルは不足するが、ヒューマンスキルがある人の場合、年齢の条件をクリアしていれば、採用になることがあります。
とはいっても、そもそも「ヒューマンスキルがある(優れている)」とは、いったいどのようなことをいうのでしょうか。求人企業の方の意見を総合すると、「人物面、つまりキャラクターに好感が持てる人」のことを指すようです。具体的には、次のような特徴を持っている人のことをいうのではないかと考えます。
(1)やる気がある
技術経験が不足している以上、ヒューマンスキルがあっても、転職先で仕事上いくつもの壁にぶつかることは間違いありません。そういった場面でくじけず、乗り越えていくためのやる気や前向きさを持っている人のことです。
(2)コミュニケーション能力が高い
見聞きしたことの吸収が早いことに加え、仕事内容に高い問題意識を持ち、質問力、説明力に優れた人といってもいいでしょう。当然ですが、こうした人の成長は非常に早いといえます。
(3)一緒に仕事をしてみたいと思わせる人物的魅力
転職先で業務スキルをキャッチアップしていくためには、周囲のサポートは不可欠です。とはいえ、人間には相性もあります。この人を育ててみたい、育てられそうだ(あるいは、安心して客先に送り出せる)と周囲に思ってもらえるキャラクターであることは重要です。
あるいは、将来はリーダー、マネージャに成長してほしい(任せたい)と思える素質があるかどうか、という観点から判断されることもあります。
これを採用企業の方にいわせると、「彼(女)のキャラクターなら、ガツガツ勉強するでしょうし、積極的に質問もして、周囲からもかわいがってもらえるだろうから、ほどなく(同僚レベルに)追いついていくでしょう」ということになります。そうして見込まれて入った彼らは、実際そうなっていくものです。
例2:テクニカルスキルはあるが、ヒューマンスキルが不足する人
エンジニアというと、しゃべるのが苦手な人でもできる仕事だと思われているようなフシがありますが、ITエンジニアに関してはそうはいきません。
受託開発の場合は特に、お客さま(エンドユーザーに限らず、発注元のシステムインテグレータなどを含む)の要望を聞いてナンボだからです。自己完結的に製品を完成させ、出荷しているわけでもない限り、どんなに技術力があっても、ITの仕事は外部とのコミュニケーションなしに成立し得ないといえるでしょう(パッケージソフトウェアの開発についても、ユーザーの要望不在で行えるわけではないので、やはりコミュニケーション能力は重要です)。
それゆえ、ある程度「腕に覚えがある」人でも、技術力に偏っていれば、「このコミュニケーション能力では、お客さまと話をさせられない」という理由で、採用を見送られることは決して少なくありません。若い人であれば、「まだ若いし、技術力はあるんだから、うちの会社で鍛えれば、お客さまとコミュニケーションを取れるぐらいに成長できるでしょう」という判断で採用になることはありますが、「PG(プログラマ)としてはよいが、SEにキャリアアップしてもらう将来を考えると厳しいな」といわれ、採用されないこともままあるのです。
■両方ない、あるいは不十分な場合
これはいうまでもありません。ただ、どちらも不足しているからといってあきらめてしまうわけにもいきません。では、どうしたらいいのでしょうか。
正直申し上げて、技術経験についてはその人のそれまでの業務経歴に負うところが大きいため、「いま、まさに転職したい」と思ったその瞬間に、経歴を加工したり増強したりすることはできません。それはいわば「1人ひとりにすでに与えられ、短期間ではどうすることもできない転職活動の前提条件」なのです。
一方、ヒューマンスキルについては、判断材料はあくまで面接でのやりとりなのですから、転職活動の準備段階で(あくまである程度ですが)改善・向上に向けて努力する余地があります。
コミュニケーション能力に不安を持つ若手エンジニアの方は意外に少なくありません。そういった皆さんは、一度キャリアコンサルタントと相談して、まずはとにかく、ご自身のヒューマンスキルについて、考えてみていただければと思います。
■最後に
これまで6回にわたって、IT業界の転職について、採用企業側から見るとどうなるかというテーマで連載をしてきました。よく「○○も人の子」などといわれますが、連載の最後に、それと似たような意味で申し上げたいことがあります。それは、
「採用されるのも人なら、採用するのも人だ」
ということです。採用も、最後の最後は「理屈ぬき」であることが多く、その鍵が「ヒューマンスキル」にあることは少なくありません。それだけは、ぜひ心に留めておいていただきたいと思います。
さて、とりとめのない連載になってしまいましたが、本連載をお読みいただいた皆さまの今後のキャリアプランに少しでもお役に立てば幸いです。短い間でしたがご愛読いただき、誠にありがとうございました。
筆者プロフィール |
山本直治 労働市場の限界と格闘しながらITエンジニアのキャリア形成をサポートする公務員出身の異色キャリアコンサルタント。 現在はロード・インターナショナルで活躍中。 |
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