第1回 「社員が納得しない評価制度」はもうやめた
唐沢正和
2008/9/9
■納得感のない評価制度、1人歩きする点数――試行錯誤が続いた
全社員が目的を共有しながら、長期にわたって働けるような人事制度とはどんなものか――。こうした発想で人事制度策定に取り組んだサイボウズは、2006年2月に「成果重視型制度」、2006年8月に「最長6年の育児・介護休業制度」、2007年2月に「成果重視と年功重視の選択型人事制度」と、ほかのITベンチャーには見られない独自の人事制度を打ち出している。しかし、ここに至るまでの道のりは、決して平たんなものではなかった。
サイボウズに最初に導入された人事制度は、「シンプルな目標管理制度」(山田氏)だった。「創業当時は社員数も少なかったため人事制度のようなものはなく、全社員が社長と面談して報酬を決定していた。しかし、上場を機に社員数が急増したタイミングで、しっかりした人事制度を導入することになった」という。
この制度は、上司と面談して当期の目標を決め、半年後に本人と上司が評価し、目標達成を100として達成度で点数を付け、それに応じたランクにより昇給を決めるというもの。しかし実際に導入してみると、成長期にあるベンチャーならではのいくつかの問題が浮き彫りになった。
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「クライアントの都合でプロジェクトの計画が変更されたり、プロジェクトそのものがなくなってしまうなど、設定した目標が半年後の評価のときに大きく変わってしまうことも珍しくなかった。さらに、その設定目標に対して厳しく評価するか、甘く評価するかは、社員本人や上司の考え方に左右されるため、点数の付け方に納得感がないという声が社内から上がり始めた」そうだ。
これを受け、サイボウズは人事制度の見直しを実施。市場制を導入し、本人と上司による目的管理に加えて第三者からの評価を入れることで、人事制度への納得性を高めようと考えた。具体的には、それまで目標管理で100点だったところを60点に下げ、他事業部の本部長からの評価を30点、本人所属の事業部からランダムに選んだ社員5人の評価を10点とし、合わせて100点満点としたのだ。
しかし、この制度も社員からの納得を得られるものではなかった。「他事業部の本部長が、一緒に仕事をしたいと思う社員に『きてきてカード』を渡す。社員はこれをもらえると評価が上がる。しかし、当時の社員数は100人前後と少なく、事業部で必要とされるスキル・人材は限られてしまうため、市場制としての効果は少なかった」という。
「360度評価のために取り入れた同僚社員からの評価についても、評価者は半年後にランダムで決められるため、社員にとっては自分が誰からどう評価されているのかよく分からないことになる。結果として、誰とどんな仕事をすれば評価されるのかがあいまいになり、社内の一体感が希薄化し、点数だけが1人歩きするようになっていった」と山田氏は振り返る。
■「スキル×覚悟」を重視して、原点に回帰
「本来、ビジネスはほかの企業と競い合って成果を上げていくもの。このままでは社員は社内の点数評価ばかりを意識するようになり、会社の成長につながらないのでは」。――そう危惧(ぐ)した山田氏は、ここで人事制度をもう一度原点に戻すことを決断した。そして2006年、新たな人事制度として「成果重視型制度」を導入する。
「当時の社員数は約120人。全社員の名前と顔を見て判断ができるうちに、もう一度、創業時のように経営層も評価に加われるよう人事制度を見直そうと考えた。そして、目標に対する結果を評価するのではなく、目標達成のために何をしたかという能力を評価するようにした」と山田氏はいう。つまり、「結果重視」から「能力重視」へと評価軸の転換を図ったものが、新しい「成果重視型制度」なのである。
さらにこの制度では、「能力」だけでなく「信頼」も重要な評価軸と位置付け、目標に対する「スキル×覚悟」を評価のポイントにしている。「覚悟とは『サイボウズに対するコミットメント』。いくら高い能力を持っていても、サイボウズに興味がなければ評価はできない。サイボウズのために自分のスキルを生かそうとコミットできる社員を信頼し、評価したいと考えている。能力があり信頼できる社員に対して、会社として責任ある仕事と高い報酬を渡していく」と説明する。
具体的な評価の仕組みとしては、従来点数評価に使っていた目標管理シートをチャレンジシートとして、これをもとに四半期ごとに上司と面談を行い、点数を付けるのではなく、目標に対して「何をしたのか」「それを通して何を学んだのか」「どんな能力を身に付けたのか」という点を評価する。そして、新入社員から役員クラスまで能力に応じた11段階の階層を設定し、各階層に定義された能力を満たしたと評価されると階層が上がっていく仕組みとなっている。
特徴的なのが、上司との面談で評価に納得できない場合、社員はその上の上司、さらには人事部にも相談できる点だ。「『自分の評価が低いのは、上司の判断がおかしいからだ』という主張をよく聞く。この問題を解消するための施策として、経営会議で全社員の評価をチェックし、経営層も評価内容を把握するようにしている。これによって、直属の上司が誤った判断をした場合も、経営会議でその評価を是正し、会社全体としてブレの少ない評価が可能になる。もちろん、私は人事担当責任者として、大体の社員の仕事に対する姿勢や能力は頭に入っている」という。
「成果重視型制度」の導入によって、能力主義への転換を果たしたサイボウズだが、その一方で「より長く働ける」職場づくりへの取り組みも進めている。次回は、「最長6年の育児・介護休業制度」および「年功重視型制度」の導入経緯と狙い、そして「成果重視型制度」も含めた新人事制度の導入成果を紹介する。
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