連載:ITエンジニア最新求人レポート No.5<2002年4月版>
明暗が分かれる求人動向
小林教至(@ITジョブエージェント担当)
2002/5/1
アットマーク・アイティのキャリアアップ支援サービス「@ITジョブエージェント」を担当している筆者は、同サービスに参加していただいている会社をはじめ、複数の人材紹介会社/人材派遣会社を毎月訪問している。そこでヒアリングしたITエンジニアの求人動向を定期的にレポートする。マクロ的な動向ではないし、具体的な数値もないが、現状の市況や今後のトレンドを推測する資料としてほしい。 |
■中途採用と人材派遣で明暗が
先月の求人トレンドレポート(第4回 転職市場、ついに回復基調へ!)では、「転職市場は完全に底を打って回復基調」という人材紹介会社があったと報告した。今月はほかの人材紹介会社からも同様の感想を聞くことができた。某人材紹介会社は、「年度が変わって、採用のための予算が付いたからか、採用が活発になったと感じています」という。ただし4月は、来年度の新卒採用活動真っ盛りの時期。もちろん、企業によっては中途採用と新卒採用とで担当が分かれているところもあるだろうが、多くは兼務のため、中途採用活動の方が停滞ぎみになるという。「ゴールデンウイーク明けには、再び活発化すると思いますよ」とは、ある人材紹介会社のベテランの弁だ。
光明の見いだせる中途採用のトレンドだが、それに反して派遣エンジニアの需要は回復しないばかりか、いい材料がまったく見いだせないまま。「ここ2〜3年で最悪です。派遣の依頼がないわけではないのですが、求められるレベルが高く、契約に至らないケースが増えています」と、人材派遣会社も音を上げる。いい人がいるのだったら契約してもいい、というスタンスなのだという。さらに、「通常の年ですと、3月に派遣のオーダーがあり、4月1日から派遣開始、新人社員が現場に配属されて一通りのレクチャーが終了する6月まで契約、というパターンの依頼があるのですが、今年はそれもまばら」と付け加える。また、先月まで堅調とお伝えしていたネットワーク運用管理系の需要も一段落したとのこと。派遣エンジニア需要は、いつになったら回復するのか? 「業界では今年の下半期からは、といっていますが、根拠があるわけではなく、そのくらいには回復してもらわないと困る、という希望的な観測です」という。
■さらに求められる業務経験とヒューマンスキル
話を中途採用に戻そう。回復基調にあるとはいえ、依然として採用ハードルは高い。「技術スキルを持っているだけではいまは簡単に採用されません。特にコンサルティング会社では顕著です。特定の業界の業務知識と経験、さらにヒューマンスキルの部分で勝敗がつきます」と、ある人材紹介会社はいう。ヒューマンスキルとは具体的には、“ヒアリング力”“交渉力”“提案力”、さらに自分の専門外の領域でも経験してやろうという“前向きな姿勢”と“向上心”だそうだ。この傾向は派遣エンジニアにもあるそうで、「技術スキルが高いのは当然で、決め手となるのはコミュニケーション能力です」とは、ある人材派遣会社のコメントだ。業務知識と経験、ヒューマンスキルは、いずれも一朝一夕では身に付かない。また技術スキルと違い、自分がどの程度のレベルにあるのかも判定しづらい。そこで活用できるのが人材紹介会社だ。すぐに転職するつもりはなくても、「キャリアの定期点検」を行うために、人材紹介会社にコンタクトをとってみてはどうだろう。
■求められるスキルは、XMLとセキュリティ
求められるスキルについても毎回、人材紹介会社、人材派遣会社ともにヒアリングをしているが、今回のヒアリングで特徴的だったのは、XMLスキルを持つエンジニアへの求人が増えているという話だ。「Engineer Life」フォーラムでは、昨年の10月に「XMLマスターとはどんな資格か?」という記事関係で、XMLスキルが人材市場からどの程度求められているかヒアリングしたことがある。そのときには、中途採用、派遣ともにそれほど需要はなかったようだが、最近になって、「XMLスキルを持つ20歳代エンジニアの求人が増えています。XML単体というよりも、XML+Javaというスキルセットです。これらはいずれも電子政府関連の案件に対応するためと考えられます」と、複数の人材紹介会社が語っていた。
新しいテクノロジが普及する際の企業の人事的な流れは、1.新技術に習熟したエンジニアを育成または採用、2.彼らをキーマンとして、そのディレクションで活躍する派遣エンジニアと契約、となるそうだ。現在は社員としてXMLスキルを持つエンジニアが求められているとすると、数カ月後には派遣エンジニアにもその流れがくることが予想される。
そのほか、需要が多くなったスキルの傾向として、セキュリティを挙げる人材紹介会社もあった。「以前だったら、CCNA(Cisco Certified Network Associate:シスコ技術者認定資格)を持っていればネットワークエンジニアとして即採用だったが、いまはそれだけでは難しいですね。経験はもちろんのことですが、セキュリティに関するスキルを求められることが多くなりました」という。
今年3月に行われた「Engineer Life読者アンケート調査」でも、「今後身に付けたいスキル」の上位だったところを見ると、エンジニアからも必要なスキルと見なされているようだ(このアンケート結果は、近く記事として公開)。
■会社の中と外での評価ギャップ
今回、ある人材紹介会社から、教訓めいた話を聞いたので紹介したい。「先日40歳代後半のハードウェアエンジニアが相談に来ました。彼は大学卒業後ずっと某大手電機メーカーに勤務し、それなりの実績を挙げてきたそうです。先日彼の勤務している企業が早期退職制度を実施し、彼も優遇されるいまのうちに、と退職後のことを楽観的に考え、早期退職制度に応募して退職しました。二十数年にわたるエンジニアのキャリアにそれなりの自信もあってのことだったといいます。ところが、現在の転職市場は非常に厳しく、思うように就職活動もできず、私のところに相談に来たということです。結局、彼は社内におけるキャリアがそのままほかの企業でも通用すると勘違いしていたのですね」
この例から、転職市場の厳しさを強調するつもりはないが、いかに社内外での評価にギャップがあるかを示していると思う。この話を教えてくれた人材紹介会社は、「“流動化の時代”と声高に叫ばれていますが、現在は転職に逆風です。しかし、長期的視点に立てば、“会社が守ってくれる”時代ではありません。時代が変わったことを認識すべきです。そこで重要なのは、自己防衛をすること。そのために有効なのは、定期的に自分の市場価値を確認したり、会社外の情報を得たりして、足りないスキルを自覚し、必要ならば軌道修正をしていくことです」と続けた。
“自己防衛”とは少し後ろ向きな言葉だが、@ITでは、これを“自分戦略”と呼んでいる。自分がどんな仕事をしたいのか、ひいてはどんな人生を歩みたいのかを見据え、自分が幸せになるための道筋=戦略を立て、情報収集と現状認識をしつつ、絶えず微調整を図っていただきたい。
■取材協力企業 |
アクシスウェブジャパン テクノブレーン パソナテック リーディング・エッジ社 リーベル |
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