自分戦略研究所 | 自分戦略研究室 | キャリア実現研究室 | スキル創造研究室 | コミュニティ活動支援室 | エンジニアライフ | ITトレメ | 転職サーチ | 派遣Plus |

組み込みエンジニアへの転身指南

第6回 重要なのはキャリアパスよりもいま何をすべきか

關口洸介(パソナキャリア)
2007/11/22

したいことをするため、条件のいい仕事に就くためなど、さまざまな理由で人は転職する。組み込み業界とて例外ではない。組み込み業界の転職活動の喜怒哀楽を、キャリアコンサルタントがこっそり教えよう。

組み込みエンジニアは本当に売り手市場か

 自動車に搭載する機器や携帯電話、デジタル家電などは需要の急拡大により、各業界でエンジニアの求人ニーズは高まっています。中でも、製品の多様化・複雑化・高性能化に伴い、ハードウェアを動作させるための組み込みソフト開発に携わるエンジニアへのニーズが増大し、転職市場が活発になっています。

 その背景にあるのは、多くの組み込みソフトは近年ステップ数が急拡大しつつ、開発期間の短期化を市場から要求されている点です。そのため、それに対応するためにエンジニアの大量採用へ、という方向に進んでいるのです。

 今回は、組み込みエンジニアを取り巻く環境を分析するとともに、あるエンジニアの事例をもとに将来のキャリアパスについて考えてみたいと思います。

予測される技術潮流と企業の動向

 組み込みの分野、ここでは消費者に近い製品を中心に考えますが、近い将来の技術潮流はどうなっているでしょうか。

 広帯域移動無線アクセスシステムの普及により、車載機器・携帯電話は、さらに普及・進化し、これに対応して新たな機能の追加や更なる高機能化が進むかもしれません。また、デジタル家電といえばAV機器が中心ですが、今後はもっと多くの家電製品にも、何らかの機能が実装される可能性があります。

 このように技術革新が早く、その成果を取り入れた製品が市場に投入されるまでの期間も一般的には短くなる一方です。企業はそうした環境に対応した開発体制が求められています。そんな開発体制の構築には、納期、品質、生産性、出荷後のトラブル対応などを含めた製品のライフサイクル全体での取り組みが必要となります。

 そのため企業は、(1)プロジェクトマネジメントができる人材の確保、(2)海外企業とのプロジェクト連携、(3)ソフトウェアの品質基準の策定といったさまざまな策を採って、実行に移しているのです。

組み込みエンジニアのキャリアプラン

 このように組み込みソフトの開発が複雑を増す中で、組み込みエンジニアはどのようなキャリアパスを描けばよいのでしょうか。

 ここで、車載機器メーカーのA社で組み込みソフト開発を担当する安内さん(仮名、27歳)の例を見てみましょう。もちろん、たった1例だけでは何も一般論まで断言できませんが、それでも参考になることがあるはずです。

 業界で高いシェアを持つ製品の開発を行っている安内さんは、新卒でA社に入社してからいくつかのプロジェクトを担当し、実績を残してきました。入社5年目の今年、自らプロジェクトを選べるようにもなりました。安内さんは開発の要とまでいわれ、社内での彼の技術力の評価はずば抜けて高いのです。そんな彼が、不満に感じていたのは、ずばり年収だったのです。

 「このままこの企業で経験を積んでいけば、確かに技術力は少しずつ身に付くが、年収のことを考えるとここ(A社で)で一生働きたいとは思えないよな……」

 そんな葛藤が彼にはあったのです。漠然とした思いですが、日々の仕事へのモチベーションが上がらなくなりました。そんな状況を変えるためにも、安内さんはある転職関連のWebサイトに登録し、転職活動を始めたのです。

 そして私は安内さんを知り、実際にお会いして転職相談に乗ることになったのです。私はまず、将来のキャリアビジョンについて聞いてみました。

 「5年後に、あなたはどのようなエンジニアになりたいですか?」

 「5年後には、ECU(Engine Control Unit)の技術がこんなふうに進歩すると思うので、そのときにはきっとこんな機能が必要になると。だから……」と、手振り身振りを交え、楽しそうに語り始めました。

 じっくりと話を聞いた私は、

 「では、それを実現するためにはいま、何をやるべきでしょうか?」

と問いました。

 彼は、この問いに答えることができませんでした。

いま、何をすべきか考えることが必要

 組み込みエンジニアの技術やスキルとひと口でいっても、どんな分野の製品を作っているかなどでその質は大きく異なります。エンジニアとして、専門分野での技術力を磨き、その道の技術のエキスパートを目指すのか。それとも、大規模なプロジェクトをまとめられるようなプロジェクトマネージャを目指すのか。では、そのためにいま、必要なスキルは何なのか。

 彼の場合、その分野での専門スキルを身に付けてエキスパートとしてキャリアを積んでいきたいと考えました。しかし、彼の会社が属する業界は、一般的には年収水準が高いわけではなく、年功序列の賃金体系がまだまだ幅を利かせているのです。

 そこで安中さんには、年収の水準が高く、専門スキルを身に付けることができる同業他社の求人情報を伝え、彼はその会社へのアタックを開始したのです。その結果は、いま、まさに活動中なので、この場で報告することはできませんが、安内さんのことです。きっと転職はうまくいくでしょう。そう願っています。

 企業によっては、開発を外部に委託するなどして開発費を抑えようとしたり開発期間を短くしようと躍起ですが、製品のコアな部分、競争優位にあるような心臓部は、内部で開発して外部には詳細に公表せず、ブラックボックス化させるところあります。

 そのため、個別の企業の方向性や技術動向を知る術が限られてしまうことがあります。そうした中で、自分のいまのスキルを客観視し、将来のキャリアパスを考えるためには、キャリアコンサルタントによるアドバイスに耳を傾けるのも、1つの方法かもしれません。


筆者プロフィール
關口洸介(パソナキャリア)●高等専門学校、大学、大学院で機械工学を専攻し、主に機械力学・制御工学を基礎とした振動制御の研究を行う。卒業後、エンジニアの転職サポートを志し、人材紹介会社で人事から求人ニーズをヒアリングする企業担当を経験。自動車、家電、半導体、精密・計測器、化学業界など各メーカーの人事から採用ニーズを直接聞いてきた経験を生かし、現在は転職希望者へのキャリアカウンセリングを担当している。



@自分戦略研究所の転職関連の記事一覧
キャリアコンサルタントのアドバイス記事などを読む
転職事例の記事を読む
転職・退職時の注意点に関する記事を読む
自分戦略研究所、フォーラム化のお知らせ

@IT自分戦略研究所は2014年2月、@ITのフォーラムになりました。

現在ご覧いただいている記事は、既掲載記事をアーカイブ化したものです。新着記事は、 新しくなったトップページよりご覧ください。

これからも、@IT自分戦略研究所をよろしくお願いいたします。