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組み込みエンジニアへの転身指南

第8回 「お願いします。大きな仕事探してください」

大谷麻里子(パソナキャリア)
2008/1/17

したいことをするため、条件のいい仕事に就くためなど、さまざまな理由で人は転職する。組み込み業界とて例外ではない。組み込み業界の転職活動の喜怒哀楽を、キャリアコンサルタントがこっそり教えよう。

組み込みエンジニアの転職理由って?

 弊社で実施しているアンケートで、組み込みエンジニアが転職理由として挙げるのは、「(1)メーカーに入社したい」「(2)好きな家電の組み込みソフトを作りたい」「(3)年収をアップしたい」「(4)大きな仕事をしたい」です。この4つが絶えず上位を占めています。

 多くの組み込みエンジニアの転職相談でお話しして感じる点は、第6回の「重要なのはキャリアパスよりもいま何をすべきか」でも触れたように、メーカー志向が強いということです。

 メーカー志向といっても、その動機はさまざまなものがあるようです。ものづくりに積極的に携わるためという人もいれば、好きな製品を作りたいからという人もいますし、仕事の報酬がしっかり欲しいため、安定した(安定しているように見える)メーカーで仕事をしたいという人もいます。また、より大きなプロジェクトを手がけたいためという人もいます。

 今回はこの中の、「大きな仕事をしたい」という理由について、具体的な事例を見ていきたいと思います。

転職理由は「大きな仕事をしたい」

 大地さん(仮名、30歳)は、国立大学の大学院の電子系専攻を修了し、大手電機メーカー系列のシステム会社に入社しました。そこで携帯電話の組み込みソフト開発に5年ほど従事していらっしゃいました。ここ1年ほどはリーダーとしてプロジェクトマネジメントにも携わり、はたから見ると大変順調なキャリアを積まれていらっしゃるように見えました。ましてや現状に不満があるようには思えませんでした。

 そんな大地さんが弊社に来社されて開口一番におっしゃったのは、「大手でいまよりも大きな仕事をしたいのです」という言葉だったのです。そして「お願いします、大谷さん。大きな仕事探してください」と懇願したのです。

「大きな仕事」って何だろう

 「大きな仕事をしたい」という言葉は、分かるような気もしますが、具体的ではありません。そこで大地さんに、まず大地さんの転職理由をもっと具体的にすることからカウンセリングを始めました。

 大地さんに、「大きな仕事」とはどんな仕事をイメージしているのかを伺いました。すると「プロジェクトメンバーが多い仕事」との答えが返ってきました。

 つまり大地さんにとって仕事の大小とは、「プロジェクトのメンバー数」によって決まるようです。

 そこで次に、なぜプロジェクトメンバーが多い仕事をしたいのか伺ったところ、「より大きなプロジェクトをマネジメントできるようになるため」とのことでした。つまり組み込みソフトエンジニアとしての価値を高めるために、プロジェクトマネジメントスキルを強化しようと考えられたわけです。

 しかし、大地さんはすでにプロジェクトリーダーを務めています。携帯電話のソフトのプロジェクトも大きな規模(プロジェクトメンバーも多い)ですし、その経験を職務経歴書に記載しています。

 いまの規模以上の組み込みソフトのプロジェクトはあまりないだろうとお伝えしたところ、「1000人月規模のプロジェクトに携わりたい」と、具体的な人月単位を返してくれました。

大きなプロジェクトにこだわる本当の理由とは

 キャリアアドバイザーとして、これまでさまざまな組み込みソフトのプロジェクト事例を伺ってきましたが、携帯電話のソフトで、1000人月規模のプロジェクトというのは聞いたことがありませんでした。そのため、そのような経験が必要な求人も見たことがありません。

 現状の携帯電話などでは、そこまでの巨大プロジェクトのような経験を是が非でも経験する必要はないのではないかと私は考えました。そこでなぜ、そこまで大きいプロジェクトにこだわるのかを大地さんに伺ったのです。実は、次のようなことがあったからというのが分かったのです。

 大地さんは現在の仕事が好きですし、順調にスキルもキャリアも伸ばすことができています。また、収入も妥当なもので、特に不満はありません。

 しかし、たまたま大学時代のゼミの同窓会に参加したところ、金融系のシステム会社で働く友人が、1000人月規模のプロジェクトに携わっているといううわさを聞いたのです。そのうわさを聞き、大規模プロジェクトに携わっていないと将来はないと感じたというのです。だからこそ大きいプロジェクトに携わりたいと考えるようになったようです。

 確かに金融系のシステムを開発する場合は、1000人月規模のプロジェクト経験が必要な場合もあるかもしれません。しかし大規模化が進む組み込みソフトとはいえ、ことに携帯電話であれば、そこまでの大規模プロジェクトはそうそうありません。その段階で大地さんは、携帯電話以外の仕事に興味を持っていたわけではありません。

本当にしたいことは?

 そこで大地さんに、携帯電話を中心に組み込みエンジニアに求められるスキルのほか、今後のトレンドなどについて説明させていただきました。その説明を聞いても大規模なプロジェクトに参加したいのであれば、いくつかの選択肢があることも併せてお伝えしました。

 その後の大地さんはというと、結局これまでの経験を生かし、大手のシステム会社でPLM(product lifecycle management)のコンサルタントに転身されました。

 大地さんにとっての大規模プロジェクトは、具体的な目標としてあったのではなく、違う業界のシステム構築の1000人月のプロジェクトの話を聞き、それをそのまま自分に当てはめ、このままでは自分がダメになるという焦燥感のある幻想に悩まされていたのです。だから取りあえず、大きいプロジェクトをと、考えるようになったのです。

 大地さんには、その大規模プロジェクトをしなければ、という焦りを取り除いたうえで、本当に今後自分が何をしたいのでしょうか、というところから話を進めました。

 その結果が、上記のようなコンサルタントに、ということだったのです。遠回りしましたが、大地さんにとっては満足できる転職になったと信じています。


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筆者プロフィール
大谷麻里子(パソナキャリア)●総合人材サービス会社での営業、アシスタント、企画業務経験を経てパソナキャリアへ入社。以前取得したCDA(キャリアディベロップメントアドバイザー)の資格を生かし、現在は機械・電気・化学メーカーなどに特化した転職希望者を担当。エンジニアを中心に転職相談などのアドバイスを行っている。



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